第47話 私を見つけてくれて
ケープを羽織り、オレンジの髪をいつものように、ぎゅっと結ぶ。
ロッタが作ってくれた栄養ドリンクを、一気に飲んだ。
あれだけ練習したのに、まだ足りないような気がしてならない。
ラベンダーハイツの皆が協力してくれて、魔法の練習も、飛ぶ練習も毎日毎日頑張った。
それぞれの得意を活かし、ミラをサポートしてくれた。
周りには、大人のような背格好の魔女ばかりだ。
顔つきもきりっとしていて、自分がとても場違いであることが分かる。
魔法動物も、見たことがない虹色の鷲や、ここで初めて見るのはもったいないほど貴重な蝶もいた。
皆、人が乗れるほど大きい。
今じゃなかったら、すぐにでも観察しに行きたい。
唯一の救いは、隣にニーナがいて、へらっと笑っていることだ。
応援テントから手を振ってくれている数名とも、スタートしたら一旦お別れである。
昨日は、示し合わせたように、ミラの部屋に寮生が代わる代わるやってきた。
ロッタは栄養ドリンク、リラは朝食の約束、オーロラは、ただちらりと見に来ただけだったけど、トゥーリまで来てくれたことには、さすがに驚いた。
貸していた本を返しに来ただけだったけれど、特に何も言われなかったけれど、このタイミングで来てくれたのだから喜んでも良いよね、とミラは思った。
先輩魔女たちの視線が痛い。ニーナは気が付いていないのか、気が付いていてもこれが通常なのか、わくわくとした表情だ。
「緊張してる?」
背に乗れるほど大きく変身しているクーの頭を、ニーナが撫でる。私の隣で座っているシーが、自分も撫でろとミラに擦り寄ってきた。
「とっても」
「私さ、本当は自分の願いを叶えようと思って、レースに申し込んだんだ。自分本位の勝手な願いのためにネ。でも、それは自分で叶えないといけないことだって、ミラを見て思った。……だから、わたしも同じ気持ちだよ。直してもらおうね、ラベンダーハイツ」
ニーナはフフッと笑った。
「あのね、私のこと……ミラが見抜いたときサ、みーんな驚いていたでショ」
そういえば騒ついていたな、とあの時の状況を思い出した。
「あれね……はじめてだったから」
「何が?」
「私のこと一発で当てたの、ミラだけだよ」
ざあっと強い風が吹く。咄嗟に目を瞑った。
「わたしサ、変身魔法に、ものすっごい自信があるのっ。小さい頃から、だあれも私を見破ることができなかった……誰も私がいることにすら気が付かない。私のことを知らない魔女だと思っている。ニーナがどこにいるかなんて、誰も分からなかったんだ。姿を見せてはいけない、家のルールを守っていたの。だけどね……だけど、本当は寂しかった……誰かに見つけてほしかった、本物の私を」
「ニーナ?」
「ありがとう、ミラ。私を見つけてくれて」
子どもみたいなニーナが、この時だけは、ここにいる誰よりも大人に見えた。