第39話 トゥーリの買い物
それからミラは、雑貨屋でタオルや日用品を買った。
覚えることは得意だったので、教わった通りお金を払い終えることができた。
唯一の失敗は、買えたことに安心して、品物を店に忘れてしまい、二人に笑われたことくらいだ。
「うう、恥ずかしい……」
「でも良かったじゃない、お店の店主が良い魔法使いで。すぐに飛んで来てくれたんだし」
文字通り、箒で飛んできた魔法使いのおじさんに何度も頭を下げた。
「トゥーリじゃない? あそこにいるの」
ローアンは、野菜を売っている店に夢中だ。声をかけない方が良さそう。
ミラは、できるだけ足音をさせないようにして近付いた。ルミもそれに続く。
トゥーリが買う物が気になったのだ。好きなものすら知らないので、誕生日に何をあげたら良いのかも分からなかった。
外観で何の店かすぐに分かる所ばかりなのに、彼女が入って行った店は、地味な感じとしか言いようのない所だった。
「何の店だろう」
悪いことをしている気持ちになったが、好奇心が抑えられなかった。窓を覗いても、中が暗くてよく見えない。ええいと扉を開ける。
中に入っても暗かった。開いてはいたけれど、やっていないのかもしれない、そう思っていると、二人の肩に手が置かれた。
トゥーリが、真顔で立っていた。
「なに、二人も買いに来たの?」
聞いたのに、返事を待たず奥の方へ入っていった。
暗闇なのに、迷うことなく進んでいく。二人も後ろに並ぶようにしてついていった。
次第に目が慣れてきて、人が座っているのが分かった。棚やテーブルもぼんやりと見える。近くまで行くと、トゥーリはいきなり立ち止まった。
また鼻をぶつけてしまう。
「おじさん、例のものを」
下を向いていた店主が立ち上がり、紙の包みを差し出した。無言で受け取った彼女は、コインを数枚置いて頷くようなお辞儀をした。
店を出てすぐ、何度も深呼吸を繰り返した。息を止めていたわけではないけれど、酸素が欲しかった。
「あのう、トゥーリは何を買ったの? というか、ここは何のお店なの?」
トゥーリは首を捻って、心底めんどくさそうな顔をした。
「今買ったのは、蛙の後ろ脚、うさぎの溜息。それから、蜘蛛の巣の化石、黒猫のひげ」
「え?」
「ねえ、うさぎの溜息って何?」
黒猫、すっかり忘れていたことを思い出した。
「もしかして、ヘーゼルさんのマントをとった理由って……」
「ねえ! うさぎの溜息って??」
ルミが、トゥーリの腕を引っ張る。構わず話を続けた。
「ヘーゼルさん? ああ、そう。どうしても黒猫の毛が欲しくて、マントに付いた抜け毛を少々頂戴した。ちゃんと洗って返した」
泰然とした態度で言ってのける。
そういうことか、とミラは納得した。でも、何に使うのだろうか。
「集めるのが趣味」
自分のことなのに、興味が無さそうに答える。
うさぎの溜息、と連呼していたルミは、我に返った様子でこちらを向いた。
「そういえば、エレメンタリーに通っていた頃、空き教室にそういうのが沢山あって、軽く騒ぎになったことがあったわよね……あとこの間の、銀っちょの剝がれた鱗が欲しいっていう交換条件、収集するためだったの」
合点がいったと腕を組んだ。
「でも! うさぎのた」
「諸君! 探したよ! お昼を食べましょう」
ルミがむすっとしたので、何も知らないローアンは「はて」という表情になった。