第19話 何故、魔法を学ぶのか
授業が終わった講堂は閑散としていた。
エルダーの金色の瞳にミラが映る。
緊張でどうにかなりそうだった。
「ウァイブラード、そしてウェルグル、貴方たちに問います」
「はい」
「はい、先生」
拒否権など最早ない。
「貴方たちは何故、魔法を学ぶのですか?」
何故、と言われても、ミラには選択肢がなかったからだ。
「私として生きるためです」
背筋を伸ばして、ルミが答えた。絶対的な意志が感じられた。
「貴方は……まあ、いいでしょう。では、ウェルグル、試験での件、今、先生方が何とか頑張って事を収めてくれています。自分たちの行為を、どう思いますか」
森の魔法を解けば、ヴェズルフェルニルが自由になる。そのことしか頭になかったミラは実際、自分たちがしたことの重大さをよく分かっていなかった。
でも、ルミは違うようだった。
「確かに、半人前の私たちが決断して良いことではありませんでした。もしかしたら、逆に森は悪い方向に進んでしまうかもしれない……」
「でも……それでも、あの時の私たちの行動は、間違ってはいないと思っています」
「ウァイブラード?」
ルミの言葉に押されて、一歩前に出る。
「私も……私、知らないことが多いです。本には載っていないことが、ここにはたくさんある。だけど、私が、私たちがしたことは、正しくはなくても間違ってはいないと信じています」
エルダーはふうっと息を吐いた。
そこに呆れのような空気はなかった。
「貴方たちのことは、よく分かりました。今回のことは……まあ良いでしょう。先生方に感謝しなさい。ここに入学した以上、二人は私たちの保護対象ですから」
言い方は冷たいのに、どこか陽の光のような暖かさがあった。
「二人には森への責任ができたので、これから大変になるかもしれませんね……。良いですか? 大切なことを言います。もっと、自分の力を怖れなさい」
言葉の意味するところがよく分からなかったが、頷いた。その様子から理解していないということが伝わったのか、もう一度エルダーが口を開いた。
「とくにウァイブラード、貴方はもっとコントロールを覚えなくてはいけませんね。どうやら貴方は、考える前に動くタイプのようです。ウェルグルに教わりなさい。ウェルグルは教えることで再確認しなさい。……貴方たちが不幸になることを、私は許しません」
ローアンとはまた違うタイプの優しい先生だとミラは思った。改めて、しっかり学ぶ決意を固める。
それからもう一つ貴方に、とエルダーはルミを引きよせて耳元で何かを囁いた。
ミラには何も聞こえない。ルミの目が見開かれる。
二回瞬きをして、深く頷いた。
「分かりました、エルダー先生」