第18話 淡いオレンジの光、ミラの力
「すごいね、ルミ」
ミラは隣に座る友人を、本当に凄いと思った。
たくさんの魔女の前で、先生に名指しされても心を乱さずにできてしまったのだから。
しかも発言まで。知っていることも、できることも、きっとここにいる誰よりも多いのだ。
そしてそれは、当たり前のことではなく、彼女自身が努力した結果なのだと、ミラは理解していた。
ルミは、にやりと笑った。
「実は少し緊張したわ。でも、本で勉強していたから、できて当然なのよ」
杖をくるりとまわす。
「それでも凄いよ。努力だって、誰でもできることじゃないもの」
自分のことのように誇らしく感じた。
照れくさそうに「ミラもやってみて」と促される。
意識して魔法を使おうとすることは、もしかしたら今までしていなかったかもしれない。
周りを見ると、続々と杖に光が灯されていた。教科書をもう一度見る。
そこには「灯される光の色はそれぞれ違う」と書かれていた。
確かに、トゥーリの光はレモン色で、ダルそうに杖を持っているオーロラは、薄いピンク色だ。
焦る気持ちが抑え切れない。ミラは、集中することに必死になった。
それでも一向に変化は訪れない。いや、何かが広がっていくような感覚は手の中にある。
だが、それはとても乱れているのだ。
「ミラ、ねえ、ミラ」
ルミが肩に手を置いた。
「私に見せてくれた、本の中の魔法動物を出す魔法があったじゃない? あの時みたいに焦らず、いつも通りやったらいいんじゃないかしら」
頷いて、もう一度枝を持ち直す。初めて魔法で、絵本を動かしたあの瞬間を思い描く。
胸の中が、透明で優しいもので満たされていく。
息を吸って、集中して魔力を込めた。
ぽうっと、夏に採れる蜜柑のような、鮮やかな光が手を包みこんだ。ミラの手にしっくりくる形に変わっていく。
成功だ、と思った時だった。
それは治まらず、たちまち周りにも広がっていった。
ルミのように、杖の中に光が吸収されていかない。
止めようにも、光がとても眩しくて集中できない。周りの魔女の小さな悲鳴のような声が聞こえた。
ルミは私の空いている手を握り、落ち着かせようとしてくれている。
初めは温かいだけの光だったのに、今は熱すぎるくらいになってしまった。
止まらない、止められない。
エルダーが、何か呪文を唱えた。
光はミラの方に戻り、杖の中に入っていった。
しんとした空気に包まれる。
「……ウァイブラード、ウァイブラード!」
ぼおっとしていると、エルダーの声が大きくなった。慌てて返事をする。
「今度は丁寧に、一気にではなく少しずつ力を込めて、頭上に上げてみなさい」
言われた通り、今度はもっと慎重に丁寧に力を込めた。
淡いオレンジの光が、杖の先に灯される。
「……成功です。ですが、制御が苦手のようですね……。この授業の後、少し残りなさい。隣に座っているウェルグルも一緒に」
低い声でそう言うと、何事もなかったかのように、授業を進めていった。
席の近くで「あの子が、ウァイブラード……」という声が聞こえてきた。誰もこちらを見なかった。
怖がられているように感じた。
灰色の煙が、一頭の獅子のように身体の中を駆け周る。唸り声をあげて小さく蹲る。
誰にも見えない透明な心が、煤で汚れたようになっていく。
拭ったら簡単に綺麗になるはずなのに。
ミラは、そのすべをまだ知らなかった。