第12話 この世界の日常
そこは、広い広いエントランスホールだった。
奥には廊下に続く通路が見える。
室内は、同じ歳くらいの魔女であふれていた。
空間魔法、とヨールの家のことをようやく思い出す。
それにしても広い。目立つ所にアンティーク調の、がっしりとした扉があった。
星空のカーペットは、よく見ると少しずつ星が動いている。
テーブルや本棚、変わった形の椅子がたくさん。
ここが学校の中だなんて、とミラは思った。
部屋の灯りとして、小さな太陽が浮いている。いったいどんな魔法なのだろう。
炎の魔法で、こんなことができるのだろうか。
ミラの目の前を本が飛んでいった。それを目で追う。ソファに一人で座っていた、退屈そうな顔をした子が、見ずにキャッチし、そのまま本を読み始めた。
呆気に取られながら荷物をおろすと、それが勢いよく動きだして、ドアの外に出て行ってしまった。
驚いていると、ヘーゼルが背後に立っていた。
「あなたは寮生だな。荷物は部屋に運び込まれているから大丈夫だ。式までもう少し。座って待っていなさい。というか、さっきからどうしてそんな出入り口にいるのだ?」
ミラの顔は引きつっていた。
それもそのはずだ。一度に、こんなにたくさんの魔女に会うのは初めてだった。急に場違いな気がして、後ろに下がりたくなる。
「あ! あの、ルミは? あの、ルミ・ウェルグルという綺麗な子は来ませんでしたか?」
縋る思いで尋ねる。
「ああ、その子なら」
ヘーゼルが何処からか取り出したメモを捲る。もふもふの指を器用に動かしている。
「ミラ!!」
ヘブンリーブルーの彼女が、小走りで駆けよってくる。
「ルミ!」
きゃあっと二人で両手を合わせ、クルクルとジャンプする。
「良かった、会えた!」
「もちろんよ。先に言わせて!ありがとう!」
手をきゅっと握り、ルミが泣きそうな顔で笑っていた。
「え? なにが?」
はて、と首を傾げた時、アンティーク調の扉が開いた。
背の高い、すらっとしたボーイッシュな魔女がつかつかと出てくる。
高いヒールを履いていた。踏まれたら痛そうだ。
帽子を脱いだ魔女は、金髪で金色の瞳をしていた。 髪がもう少し長かったら、獅子みたいだろうなと思う。
「入学式がもうすぐ始まります。早く中へ入って座りなさい。私語はしないこと」
きらりと目が光り、ミラの方を見た気がした。
声もハスキーで、何だかかっこいい魔女だなと思った。ローアン先生のことを思い出す。あまり時間がたっていないのに、もう懐かしく思えてしまうから不思議だ。
中に入ると、講堂のようで、また広かった。楽器の演奏でもするのか、と思う。実際見たことも聴いたこともないけれど、ミラの読書は多岐に及ぶのだ。
続々と中に魔女が集まる。四十人から五十人くらいだろうか。扇状に何段も並べられている長い机、ルミと横に並んで座る。
斜め前の席に、オーロラがいた。
机に突っ伏して眠っている。端に座っているので、奥に座りたい子が困っていた。声をかけた方が良いかなと思っていると、困っていた魔女はふわりと浮いて、オーロラを飛び越えてしまった。
周りを見回すと、誰もそのことに関心を持っていない。
誰でもできる当たり前のことなのだと分かると、少し気が重くなった。
壇上に、さっきの金色の先生が上がる。
彼女が杖を振ると、一瞬にして静寂が訪れた。
きりっとした表情で、こちら側を見る。
そして、話しだした。