第11話 黒猫のヘーゼルさん
今度はしっかりと両足で立っていた。
「小屋?」
森の中であることは間違いない。
だが、さっきの森ではないみたいだ。木々や草木が生き生きとしているし、明らかに誰かの手によって作られたのであろう素敵な庭が広がっていた。
一番目を引くのは、この一帯を埋め尽くすほどのラベンダー畑だ。
そしてその中央、ミラの目の前に小屋があった。
赤い屋根の、小人が住んでいそうな、いや、お菓子でできているかのような可愛らしい小屋。
ドアなんかは、チョコレートそのもののようだ。
水の音がするので、近くに川でも流れているのだろう。
いったい誰の家なのか、自分はこれからどうしたら良いのか、一先ずミラはこの小屋を訪ねてみようと、ドアの前に立った。
ダン
「遅かったですな」
扉が突然開く。誰かが出てきたと思ったミラは、目を丸くした。自分の足元にくぎ付けになる。
魔法使いの帽子をかぶった黒猫が、そこに立っていた。それも二足歩行で。
この際二足歩行はどうでも良い。
魔法動物が、はっきりと言葉を話している。
首には大きすぎる懐中時計をぶら下げ、水色と白の水玉模様のマントを羽織っていた。
ブーツも同じ色で、さっき森で見た毒キノコのような感じ、と思った。
よく見ると、帽子には杖が付いている。
もしかして、魔女の変身魔法かな、と考えた時。
「ぼくは、れっきとした魔法動物ですな。しかし、そんじゃそこいらのやつとはわけが違う。あなた方の言葉も話せる。使える魔法も君より上だ。ぼくは、ここの事務を任されているヘーゼル。新入生よ、早く入りたまえ」
少し偉そうな話し方で誘導する。
ちらりと懐中時計を確認した。
「あ、えっとヘーゼルさん? 私、魔法学校に来たと思ったのだけれど」
おずおずと声をかける。世間知らずなミラでも、学校というものが、大きくて沢山の魔女が入れる場所だということは分かる。
ヘーゼルの耳が、ぴくりと動いた。
帽子にちゃんと、耳が出る穴を開けているのね、とミラは感心した。
「君は、ぼくのことを、さん付けで呼んでくれるのだな……」
小さな声だった。口元が少し緩んだ気がした。ふわふわの尻尾が揺れている。
「え?」
「いいや、何でもない。君の名前は確か、ミラだったな。ミラ・ウァイブラード……。初めてだったら驚くのは仕方がない。間違いなくここが、年中ラベンダーが咲き誇る学校、ミュルスン魔法学校だ」
さあ早く入れ、とドアノブにジャンプした。
体全身を使ってノブを回す。
ああやっぱりそうやって開けるのね、とやっぱり感心してしまった。
「わああ!」