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4話 話の始まり

 クララは味が家族の勢いによって分からなかった朝食を食べ終わり、自室に籠って声に出しながら一人しかいない攻略対象者の情報を整理する。


「ルークスディルド・シェン・ブールシレク殿下。ざっと纏めると、一方的に出会った女子が初恋の人で、数年経って調べると、その人は二年前に亡くなっていたと判明。学園の裏庭の木にもたれかかりながら落ち込んでいた際、ヒロインと出会い、その傷を直していく……みたいな感じだったわよね。なんで数年経って今更……とは思ったけれど、家庭教師に礼儀作法とか教わったりして、忙しかったのよね……私も、あの時は辛かったなぁ〜」


 優しくも厳しくもある家庭教師に、そこも駄目、ここも駄目とダメダメ言われて、半泣きになりながらも頑張ってカーテシーや礼儀、社交辞令、外国語を全て覚えるための勉強などなど、たくさん叩き込まれた苦い想い出を思い出し、クララは遠い目をする。


(でも……厳しい先生に初めて褒められた時は、とても嬉しかったわ)


「よくやりましたね」と少し口角を上げて言われた時は、どんなに嬉しかったか。天にも昇るような気持ちだったことを、よく覚えている。だがその次に「では、次はペルシクーフ国の言語をマスターしましょうか」とキリッと言葉を紡がれた時は、どんなに落胆したか。


「まぁ……大分、今世の記憶も思い出せるようになってきたし……これからの悲劇のヒロイン人生に、役立てるわよ!」


 といっても、もう直ぐそこに悲劇のヒロインルートはあるはずなのだが、クララはそれでは満足しなかった。

 攻略対象者を一人頭で整理した後は、デートスポットを整理することにした。前世の記憶は乙女ゲームしかないが、それでもヒロインや攻略対象者の台詞(セリフ)一言一言、覚えるようにしていたため、無論デートスポットも覚えている。

 だが、いつ忘れても不思議じゃないということで。


「デートスポットは、幾つかあるのよね……」


 それはもう、学園時代でそれほど巡れるのか疑問に思うくらいには。

 一つ目は、城下街の服屋。

 女性物が多くある服屋で、スチルで恋人がたくさん店にいたのを思い出す。確か、それでヒロインの着せ替えが始まっていたはず。フリルやひらひらなレースが大胆に使われた天使系のドレスや、上品なドレス。そして胸元が素敵なドレスだったり、足がとても素敵なドレスを見た際には、ルークスディルドは顔を真っ赤にして沸騰させてたくらいだ。スチルでも出て来たので、前世の自分も頬を真っ赤に染めて、友人に揶揄われたという想い出がある。前世のことなので、想い出かどうか分からないが、記憶に残っているのだから想い出と言って良いだろう。


 二つ目は、ルークスディルドの自室。所謂、お家デートというやつだ。

 上品な内装でも、シンプルを重視しているような、とても自分好みの部屋だった。よく「私も、こんな部屋に住みたい……」と夢見たものだ。カーペットの上にある一人用のソファに一緒に座り、ルークスディルドとヒロインが密着しているそれを何度見たことか。


 他にも色々とあるが………中でも一番好きだったのは湖だ。

 桜の木が神秘的な湖を囲んで、風がなくとも夜でも朝でもお構いなく、桜の花弁(はなびら)が飛び散るのだ。湖を眺めながら手を握り合う二人のスチルは後ろ姿だったため、とても美しかった。


「そこに……行ってみようかな」


 絶対行きたい場所はその湖なのだ。だったら、早く行くに越したことはない。

 一人で見に行きたいのだが、転生して今は公爵令嬢なので、一人以上は侍女や護衛騎士を連れて行かなければならない。

 クララは、夜になったら、そこへ向かうことにした。


 〜〜*〜〜*〜〜


 乙女ゲームで、ルークスディルドの心境は、いつも無のようだった。原因はもちろん、初恋であった令嬢が二年前に亡き者となっていたからだ。

 それでもヒロインは事情を知らずも彼に寄り添い、ルークスディルドの傷付いた心に絆創膏(ばんそうこう)を貼ろうと決意したのだ。


 ルークスディルドは、そんなヒロインに恋をした。

 初恋のことは忘れられないが、新しい恋を見付けて、その相手であるヒロインに初恋の出来事を話そうとする。

 それは、ある日の学園の放課後。王城に招待され彼とバルコニーにいた時のこと。二人はもう婚約者になって、バルコニーで二人だけのお茶会を開いていたのだ。


「ルーク様の初恋のお相手は、どのような方だったのですか?」

「んー……聞きたい? 私の初恋の話」


 悪戯した子供のように笑い、ルークスディルドは首を小さく傾げ、人差し指を己の口元に添えた。その姿が妖艶な雰囲気を漂わせている。


「聞きたくは………ないですけど。貴方のことは、知っておきたいです」

「………………ホント可愛い」


 そう呟き、ルークスディルドは立ち上がりヒロインを抱きしめる。

 彼女は「わ……。えへへ」とはにかみ、それを見詰めてからルークスディルドは懐かしむように口を開いた。


「そうだな。一目惚れ、だったんだ」

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