3話 朝食の時間での告白
宜しくお願いします。
ダイニングルームには、家族が既に座っていた。
「おはようございます、お兄様、お母様、お父様」
「おはよう、クラ。よく眠れた?」
「はい、お兄様」
(前世を取り戻して少し混乱しました……とは、言えないし)
最初にクララに朝の挨拶をしたのは、兄、アッシャー・エウン・ヘコシーリル。中性的な顔だが反対に腹筋が割れており、クララより一年先に学園に入学している。
「おはよう、クララ。最近は家族が皆集まれて嬉しく思う」
「えぇ。本当にそうですわね、お父様」
(ごめんなさい! 今は前世の記憶が脳の大半を埋め尽くして、覚えてません!)
次にクララに挨拶をしたのは、父、アクシー・エウン・ヘコシーリル。がっしりとした体格の持ち主で、剣術に長けている。王立騎士団長をしていて、クララの自慢でもある。
「おはようございます、クララ。さぁ、座って」
「はい、お母様。ありがとうございます」
(穏やか……)
最後にクララに挨拶したのは、母、シエルリーシャ・エウン・ヘコシーリル。穏やかな雰囲気を纏っていて、令嬢、婦人のお手本でありまとめ役であるという。
(なんか……完璧超人ばかりね。お母様も、お父様も、お兄様も、ゲームに出て来なかったはずなのだけれど……)
もしや、王立騎士団長も令嬢、婦人のお手本兼まとめ役も、ゲームには出て来なかった。だから、適当に設定されたのだろうか。
(とりあえず……こんな自慢の家族を持っている人に転生した自分にも感謝。あと、転生先を選んでくれた神様にも感謝……)
クララは内心手を合わせて、雲の上にいると思う神様を崇める。
クララが座ると、朝食が運ばれて来た。
メインはフレンチトースト。野菜は春野菜のサラダで、ドレッシングは胡麻ドレッシングだ。違う皿にはオレンジや林檎も盛られてあり、貴族令嬢に憧れがある乙女心を擽った。これからは、ずっと令嬢として過ごすと思うと、とても面白く、良い気分だった。
(けれど……一つ、家族に告白をしないと……)
クララは談笑中の家族を見詰めながら、深呼吸を繰り返し、口を開く。
「お母様、お父様、お兄様。私、王立シュミレーク学園に通いたいです」
そう。クララが告白しなければならないことは、王立シュミレーク学園に通いたいとのことだった。この学園は乙女ゲームが始まるストーリー的な場所。そして、ヒロインが誰と結ばれるか最終的に分かることだって出来る。風の噂で耳に届くかもしれないが、折角ならこの目で見て、祝って差し上げたい。そう思ったのだ。
(王立シュミレーク学園には、本当のヒロインがいる。そこに悲劇のヒロインを目指している私が入ってしまうとなると……多分、ストーリーが狂ってしまう。けれど、私は私のやり方で、本当のヒロインに負けないよう頑張った方が、やり甲斐を感じるってものよ!)
内心ガッツポーズをキメていると、家族が身を乗り出した。
「本当か⁉︎ クララ!」
「良かったですわ、クララ。お友達をたくさん作ってくださいね」
「うん、本当に良かった。僕も通ってるから、何かあったら言うんだよ?」
勢いのある三人に、クララは「お、おぉ……」と驚いてしまう。だが、何より王立シュミレーク学園に通うことを決め、喜んでくれた家族に頬が緩むのを抑えきれなかった。
薄ら頬を染めて喜びを噛み締めるようにふにゃっと笑う様は、『悲劇』ではなく『喜劇』のヒロインという肩書きが似合っていた。母も、父も、兄も、クララのその笑みに見惚れたが、それも束の間。直ぐに我に返り皆ふっと目元を緩ませる。
そしてお母様こと、シエルリーシャが口を開いた。
「さて、食べましょうか。残したらシェフに申し訳ないわ」
「「はい」」
「あぁ、そうだな。シエルリーシャ」
クララは微笑ましい談笑をしながら食べる家族を見て、目元が緩んだ。家族に恵まれて、良かったと、心から想った。
ありがとうございました。