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2話 鏡探しのため部屋を漁ります

宜しくお願いします!

 乙女ゲーム『私の初恋は貴方だから』

 このゲームはクララの乙女心を(くすぐ)った物でもあるし、悲劇のヒロインの観察をした物でもある。短く言えば、勉強しながら楽しんだゲーム。

 前世、ヒロインがあざと可愛いと話題になった人気の乙女ゲーム。異世界恋愛小説を読んでいた身にとって、異世界転生だとは期待していたが、その期待以上だ。大好きな乙女ゲームに転生出来るなんて。


(クララという名前の登場人物は居なかったはず。いや、第二王子以外のルートではあったのかもしれないけれど……。まぁ、モブよね。丁度いいじゃない!)


 クララは自分がモブだと思い、とても気合が入った。

 胸元で手を絡ませながら、こう決意する。


(モブから、悲劇のヒロインに成り上がってみせる‼︎ あ……でも………)

「そしたら、『本当のヒロイン』はどうなるんだろう……」


 ここが『私の初恋は貴方だから』の舞台ということは、絶対にヒロインがいるということ。

 もし、クララがモブからヒロインに成り上がったら……。


「ううん、考えるのはやめよう。ヒロインになるって決めたじゃない。………って、そんなことよりも! いや、こっちを優先すべきなんだろうけど……鏡を探したい!」


 自分の顔立ちがどうなのか知りたいのだ。

 クララはとりあえずこの部屋と繋がっているドアを開けることにした。ドアは四つ。次々と開けて鏡を探そう。

 一つ目のドアを開く。


「え? わぁ、廊下だぁ」


 目の前には廊下だ。お嬢様が勝手に廊下に出ちゃダメだよねと呟いてから、クララはパタンと優しくドアを閉めた。ニコニコ顔で。

 二つ目のドアを恐る恐る開けると、そこは図書館のような大きさの書斎だった。


「わぁ……!」


 パアッと花が綻ぶように笑い、両手で頬を抑えニヤけるのを堪える。それは何故か。前世、クララは乙女ゲームと同じく多く読んでいたからだ。無論、異世界恋愛小説しか読んでいない。

 自分の目線と同じ高さにある本を手に取ると、それは恋愛小説だった。


「え? じゃあ、ここも、ここも、ここも!」


 どんどん本を手に取ると、それらは全て恋愛小説だった。


(さいっこう! クララと気が合うかも……って、私だった)


 転生したことを忘れてしまい苦笑する。だが、嬉しいものは嬉しい。ここでいつでも恋愛小説を読めると思うと、それはそれは喜びが抑えきれなかった。

 今度こそ、我慢しないで頬を緩ませる。

 本屋に行っただけでニヤニヤが止まらなかったのだ。それが全て恋愛小説だったら……と思うと、喜びが抑えきれなくなるのも無理はないだろう。


「……って、鏡!」


 また元の部屋に戻って、三つ目のドアを開ける。お嬢様の部屋には絶対鏡は必要というイメージがあるのだが、違うのだろうか。ドレッサーはまだ目にしていないため、このドアの向こうに……という期待も抱きつつ、こくりと喉を鳴らしたあとにドアを開ける。


「わぁ……!」


 目の前に広がるのは、囲まれると暑苦しくなりそうな程のドレス。それは可愛らしいドレスもあれば、清楚なドレスもあり、全てクララの好みだった。レースや薄桃色に染められた薔薇が施されているものもあり、クララのテンションは爆上がりだ。


「わぁ! 凄い凄い! 可愛い! 初めてこんなにたっくさんのドレスを見た!」


 興奮するクララは一分ほどはしゃぐと我に返り、こほんと可愛らしく咳払いをする。やはり、前世磨いた癖は我ながら可愛らしい。


(でも……ここにも、鏡はなかったかなぁ〜……)


 折角だからとドレスを見て惚れ惚れしていると、一つのドアが見付かった。先程のドレスルームに入ったドアとは違うドアだ。ドアノブが狐になっており、実に可愛い。

 ドアを恐る恐る開けると、そこには真っ白な色をしたお洒落なキャビネットが、何個もあった。取手が銀色の丸い形になっている引き出しを開けると、そこには数々のイヤリングが。上の引き出しには数々のネックレスがと、たくさんのアクセサリーが仕舞ってある。


「あ……」


 そしてそのキャビネットの正面には、ドレッサーがあった。無論、鏡付きだ。三面鏡になっており、鏡の形は丸だ。完璧の丸とは言い難い丸だが、その鏡を支えている机の引き出しにも、アクセサリーがたくさん入ってそうだなと呆れを通り越して関心する。

 そこへ行こうと、クララは足を動かす。

 鏡には、可憐な少女がいて、ヒロインにも負けないのではと思うくらいだ。否、クララの方が可愛いのではと思う程に可愛らしい。絹糸のような黒髪は日本の頃にいた清楚な女子をイメージさせて、何だか懐かしくなる。ピンクムーンストーンのような淡いピンクの瞳は、黒髪と合っていて生き生きしている。


「めっちゃ可愛い……可憐な少女はこういうことよね………。身長は百六十くらいかしら。言っちゃうけど、身体も若干、凹凸(おうとつ)だわ……」

 夏服のワンピースが似合いそう。そう思っていると、声が聞こえた。


『お嬢様ー! どちらに行かれたのですかー?』


 ドアのドアの向こう……つまり、天蓋付きベッドはある部屋からだ。(あぁ、侍女ね)と思いながらクララは早歩きで元の部屋に向かう。といっても、当たり前だが全然時間は掛からなかった。


「おはようシャラ。今日も良い天気ね」


 シャラと侍女の名前が急に出てきたことに吃驚している暇もない。


「……はい、そうですね。……ってそうじゃなくてですね⁉︎」

(案外、突っ込み役……?)


 シャラは驚いているクララに気付かず、言葉を紡ぐ。


「お嬢様〜! 全く、ドレスルームに行っていたのですか? 行くとしても、侍女が来るまで待ってくださいまし!」

「えへへ………ごめんなさい」

「わかってくれたのなら、大丈夫なのです」


 シャラは満足気に頷くと、「さぁ、身支度をしますよ。もう直ぐ朝食が出来る時間です」と言った後に、クララの身支度を手伝った。


 〜〜***〜〜


 ドレスは動きにくいジャラジャラのドレスではなく、清楚で可憐な……この身体と顔に合っているドレスだった。


(可愛いけれど、日本人として生きてきた記憶がある身としては、純白のワンピースと白の麦わら帽子の方が好みかな〜)


 頼んでみるくらいならと思い、己の後ろを歩くシャラに振り返って口を開く。


「ねぇ、シャラ……」

「なんでしょう? クララお嬢様」


 クララが緊張していることを察したのだろう。シャラも表情が僅かに強張(こわば)っている。そんなシャラにクスリと仕草もつけながら笑うと、クララは言葉を紡いだ。


「ワンピース、買えないかなぁ……」

「………………ワンピース?」


 遅めにオウム返しをしたシャラに、クララは顔を赤く染め俯き、こくりと頷く。シャラはまだ呆気にとられている様子で、クララのことをポカンと見ていた。

 そして、我に返る。


「わ、わたくしからはなんとも……。お願いをするのなら、お嬢様のお父様……この屋敷の当主である旦那様におねだりをしてくださいませ」

「う、うん。わかった……」

(やっぱりダメなんだ〜! うわ〜! 絶対この顔似合うのに〜!)


 それを着るのが自分だと想像すると、胸が高鳴るのに。

 クララは内心悲しみながら、ダイニングに向かった。

ありがとうございました!

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