6話 動き出すチャラ男
夕日がちらつき始める時間帯。
静けさ漂う教室に、俺は1人残っている。
その理由はもちろん、同好会発足に向けての準備をする為だ。
多少の居残りだったら怪しまれはしないし、教室の雰囲気は家で机に向かうより集中しやすい。
(さてさて)
昨日、春葉に同好会の話をしてから1日と半日が経った。とりあえず賛同者確保の為に、朝から4組のメンツ……といっても男子にだけど、話を持ち掛けてみたものの、やはり答えは想像通りだ。
とはいえ、皆同好会自体には興味を示してくれた点はプラスだろう。部活経由で知り合いに興味がある人が居ないか探してみると言ってくれた人もいる。
最初は絶対にからかって来ると思っていただけに、行動力を称賛されるなんて嬉しい誤算だった。
しかしながら、やはり賛同者の確保は少し時間が掛かりそうだ。春葉とも話したけど、やはりほとんどがすでに部活に所属している点が問題だ。いや、むしろ京南に来て部活動に入らない方が少数なんだろうけど、3人という人数がこれほどまで壁に感じるたことはない。
(出来る限り早く……とは考えていたけど、こればかりは気長に待つしかないか。それに懸念すべきことは他にもある)
とりあえず様子を見るべきとの結論を出し、賛同者については一旦考えるのを止める。
そして次に取り掛かるのは現生徒会についてだった。
同好会を作るにあたっては大丈夫だが、部活に昇格するためには、その人数はもちろん必ず生徒会の承認が必要。端午先生の話だと、学校長は生徒会からの話だとそうそう反対はしないような性格だそうで、やはりキーは生徒会。
つまり、同好会の時点でなるべく生徒会にも良い印象を持ってもらうことが大事だ。
(そうなんだけど、現状で知ってる生徒会役員って……全員女なんだよな。しかも主要役員全員2年だし)
京南高校生徒会は、会長、副会長、会計、書記2名で構成されている。こうしてみると、何ら変哲のない生徒会なのだが、問題は会長と副会長、会計を2年生が務めていることだ。
現3年生は、揃いも揃って部活命の人達が集まったようで、生徒会に入っている人は居ない。結果として去年は旧3年生……卒業生と今の2年生が生徒会として活動をしていた。
つまり卒業を経た今、3年生に生徒会に所属する人はいない。となれば、後任は必然的に去年から生徒会に属していた2年生となる。
書記については、現1年生で候補が居るとか居ないとか。けどまぁ、引っ張っていくのは2年生トリオで間違いないだろう。
(生徒会役員……現状知ってる情報をまとめ直すか)
まずは副会長の下塚秋乃。
俺と同じ2年4組で、クラスでは学級委員長を務めている。ちなみに生徒会としては1年時に書記だった。
肩程の黒髪に、真面目そうな顔。一見お堅そうに見えるが、どちらかというと誰にでもフレンドリーに話しかけるタイプだ。天女目さんらギャル達ともそつなく会話をしているし、男子にも同様。
同じクラスということもあって、とりあえず相談はしやすい人物ではある気がする。
次に会計の菊重陽。
2年6組の生徒で、クラスではもれなく学級委員長を務めている。下塚さんと一緒で、1年時には生徒会の書記だった。
パーマがかったショートヘアに赤縁メガネが特徴的。会計とあって先生達との距離が近く、活動費等々常に目を光らせているそうだ。どこか警戒心が強い感じで、噂まみれの俺なんかは嫌いなタイプド真ん中だろう。どう思われているかは判断しかねるが、障害になりそうではある。
最後に、会長の七夕渚。
2年7組の生徒で、言うまでもなく学級委員長を務めている。1年生の時にはすでに副会長をしていたこともあり、難なく生徒会長になった。
まぁこの人の場合、生徒会長選挙では他に立候補する人が居なかったし……というより、しても勝てないのが分かりきっていたんだろう。
有名企業の七夕グループのご令嬢という肩書だけでも凄いのに、成績抜群スポーツ万能。さらには艶やかな長い髪と整った顔立ち。モデル顔負けのスタイルは才色兼備そのものだ。その圧倒的な空気感と、誰からも慕われる雰囲気はまさに最強と言っても良い。
一見すると、物事の判断において中立的な立場から明瞭な結論を出すイメージではある。まぁ菊重と同様に俺に対しての印象が分からないものの、目をつけられたらアウトだと思う。
(ふぅ。生徒会についてはこんなとこか。書記の1年生コンビについては、情報が分かり次第だな)
「ん~!」
ある程度一段落すると、簡単なストレッチで体をほぐす。机に向きっぱなしの姿勢はやはりキツい。
とはいえ、現状できる限りの確認作業は完了したことで、少しばかりの満足感に満たされる。
(……っと、とりあえず現状は賛同者集めだな。あと、生徒会には目を付けられないようにっと。えっと、時間は……うん。電車には余裕だ。だったら、活動場所の下見でも行くか)
そうと決めると俺は鞄を手に取り、早々に教室を後にした。
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京南高校の校舎は、上空から見れば長方形の字に見える通り、大きく4階建ての4つの棟に分かれている。
正面のA棟には生徒や職員の玄関、2階には職員室やら会議室。
右側のB棟には教室。
左側のC棟には図書室や家庭科室、音楽室といった教室がまとめられている。
最後に奥のD棟には、運動系・文化系の部活の部室が置かれており、2階には注目すべき生徒会室が。
ちなみにD棟を経由して、体育館やグランドへ移動できるようになっている。
大まかな棟としては、これくらいなのだが……京南高校の建物はこれだけじゃない。
「ここが、旧校舎か」
旧校舎と呼ばれる建物は、校舎建て替えの際に物置として1棟だけ残された建物だ。
その外見は結構今風なもので、こちらが校舎だと言われても違和感は感じない気がする。そもそも、生徒数の増加による建て替えだったそうだし、建物自体はそこまで古くないのかもしれない。
端午先生の話だと、同好会が出来たとしたら活動場所はここになるそうだ。今までD棟からその姿を目にする機会はあったが、物置として使用されていることもあって、普通の生徒なら足を踏み入れることはないだろう。もちろん自分も初めて来る場所だ。
(それでも、活動できる場所があるだけマシでしょう)
俺はゆっくりと、旧校舎へと足を踏み入れる。
旧校舎へは、D棟の1階と2階から渡り廊下を経て行くことが出来る。
それぞれの階の丁度真ん中辺りから続いている渡り廊下。ちなみに今回は1階からお邪魔をしている。2階からだと生徒会室が気になってしまうからだ。別に悪いことをしている訳じゃないけど、俺と旧校舎……見た人が良い印象を持つ可能性は低い。
そう考えると、1階は運動部の部室で、今はそれぞれ外で活動中だ。案の定、誰とも行き会わなかった点については、自分を褒めたい。
(結構作りは自体はしっかりしてる?)
ゆっくりと辺りを観察しながら進んでいくと、思いのほか作り自体は今だにしっかりしている印象を受ける。流石に汚れは目立つが、耐震性等も問題はなさそうだ。
それに目の前の階段を見る限り、作り的には校舎と同じで建物の真ん中と両端に階段がある構造なんだろうか。
廊下を左に曲がり、ゆっくり進んでいくと、目に入った教室の中には机やら椅子やらがたくさん置かれているのが見える。物置と言うのはどうやら本当のことらしい。
そして予想通り、1番端っこに階段が登場する。
(なるほど。とりあえず、今日は廊下を歩いて簡単に様子を見るだけにしよう)
そうと決めると、俺はとりあえず3階に行くことにした。
どうせ戻るのは1階からなんだし、だとすれば上から回ってきた方が効率がいい。
しかし、特に悪いことを考えている訳ではないものの、その足音には慎重になる。階段が軋むレベルまで劣化していないのが幸いしたのか、思いのほか静かに3階へは到着できた。
となれば、あとは教室の様子を見て回るだけだ。
パタッ、パタッ、パタッ
それは突然だった。
まさしく3階の廊下に出ようとするかしないかの瞬間、聞こえてきた音。それはまさしく誰かが階段を駆け上がっているかのような音だった。
反射的に動くのを止めた俺は、いまだ鳴り続ける足音を聞き続ける。
(やっべ……誰かいるのか? むしろ誰なんだ?)
一瞬焦りが浮かんだものの、その思考は恥ずかしながら興味へと変わっていた。誰も用がないはずの場所に誰かが居る。
誰が? 何の用で?
そんな好奇心に負けてしまった俺は、壁に背を付けるとゆっくりと廊下を覗き込む。すると誰も居ないはずの廊下に、突然誰かが現れた。
(女子?)
位置的に、校舎真ん中の階段を上がって来たんだろうか。
その制服姿は間違いなく女子で間違いない。それにちゃんと足も生えているので幽霊でもなさそうだ。
肩程の黒髪。身長は大きくも小さくもない。その手にはピンクの化粧ポーチだろうか。
ただ、なぜだろうか見覚えがあるような……そんな感覚を覚えていると、髪に隠れていた横顔が一瞬だけ見えた。
(えっ? しっ、下塚さん!?)
それは間違いなく下塚さんだった。ただ、どうして下塚さんがここに居るのか、そんな疑問を感じていると、下塚さんの手あった化粧ポーチから何かが落ちたのが見える。
しかし下塚さんは気が付かないようで、そのまま俺が居る方とは反対側の方へと歩いて行く。
そしてしばらく歩いたのちに、ある教室へと入って行ってしまった。
誰が居るのか興味はあったものの、まさか下塚さんだとは。それに教室へ入って行ったことを考えると、3階の様子を見ることは難しいだろう。
とりあえず、2階だけでも見ていくか? そう思っていると、廊下に落ちている黒い物体が目に入った。
(あっ、そういえばなんか落としてたよな? 気が付かないで行っちゃったし……)
本当ならここに居る事実を知られることなく、この場を去るのが1番なんだろう。ただ、落としたものが大事な物で必死に探すというのも、可哀そうな気がする。
色々考えたのち、俺は落とし物を下塚さんに渡して帰ることを選んだ。
(となれば、拾いに行きますか)
どうせバレるのなら多少の足音は問題ないだろうと、下塚さんの落とし物の場所まで足早に歩いて行く。
こうして近付くにつれて、その黒い物体が正方形であることが分かる。それも良く見ると2つ落ちていた。
(ん? なんだ?)
俺は目の前までたどり着くと、その物体を1つ拾い上げる。そしてまじまじと眺めてみた。
(えっと、黒い表面と裏側は白いな。けど、なんか中に入ってる? 円状の……えっ?)
その大きさと雰囲気に、本来ならここまで良く見なくとも察することは出来たはず。けど、落とした主のことを考えると、候補にすら浮かばなかった。
ともあれ、俺は今非常に困惑している。
何しろ自分が手にしているのは……
「コンドーム……?」
次話も宜しくお願いします<(_ _)>




