5話 賛同者第1号
「賛同者5人かぁ」
昼休みの時間帯。机に弁当を広げながら、春葉が呟く。
朝の連絡に只ならぬ予感を感じた春葉は、高校へ来るなり教室へと足を運んでくれていた。俺の顔面蒼白とした表情で焦ったらしいけど。
まぁとにかく、春葉には同好会発足についてざっくりと話をした。今朝詳しいことも言わずに、先に行ってしまったことへの負い目もあるし、何ら問題ないだろう。
それに人影が少なくなるお昼時こそ、じっくり話せる絶好の機会だ。
「あぁ。俺を除くとあと4人だ」
「なるほど。ねぇ四季? 私も協力するよ」
(マジか? 春葉)
「良いのか?」
「うん。もともと部活には入るつもりはなかったし。役に立てるなら、ボランティア同好会? 協力するよ」
春葉の一言は、まさしく同好会発足の第一歩のような気がした。どことなく春葉は協力してくれそうだと思っていたものの、本人の口から聞けるとやはり嬉しい。
「ありがとな? 春葉」
「全然だよ~」
「あー、井上じゃん」
なんて嬉しさを噛み締めている時だった。不意に聞こえてきた声に視線を向けると、そこいたのは天女目さんだった。
あの一件以来、少しばかりチラチラと目が合うことはあったけど直接的な絡みはない。しかしながら、俺が昼は弁当派だと知っている彼女が、この時間に教室へ来ている。それもあの日以来ということもあって、その行動に疑念は拭えない。
「あっ、あなた桐生院さんね? アタシ4組の天女目夏季。よろー」
「えっ? 4組ってことは四季と同じクラス? 私の名前は桐生院春葉って言います。こちらこそよろしくね?」
「モチのロンー。ってかさ、2人ってば、めっちゃ仲良さげなんですけどー?」
「四季とは幼馴染なんですよ」
(なんだ? ずいぶん和やかじゃないか)
京南高校は生徒数が多い。1年から3年までそれぞれ7組まである為、同じ学年でも顔や存在は知っていても、話をしたことのない人の数も多い。
春葉の口から今まで天女目さんの話は聞いたことはないし、天女目さんの話し方的に初絡みなのは間違いなさそうだ。
そもそも昔から、春葉は人と仲良くなる速度が尋常ではない。いわゆるコミュ力お化けだ。それがギャル相手でも通用するのだろうか。
「ちょっと、遠目から見てもだけど、近くで見たらマジで巨乳ちゃんじゃーん」
「えぇ? そんなことないよ?」
「ねぇー、何カップなの?」
なぜか一瞬俺の顔を見た春葉。すると、天女目さんを手招きしたかと思うと、耳元でコソコソと話し始める。
「うっそー! 私はねー?」
(あの、お弁当食べていい?)
「えぇ~! それでいて、このスタイルなの? すごいね天女目さん」
「うれしー、てかさ? 触っていい? いいよね? えいっ」
「あっ、ちょっと~もう! じゃあ私だって~えい」
(…………俺は一体何を見せられているんだろう)
これが女子達の交流の仕方なのだろうか。
目の前で互いの胸を揉み合い、柔らかいだの大きいだのと感想を告げている。さらに容姿の褒め合いに発展し、
「じゃあ、これからも仲良くしてねー? 春葉」
「もちろんだよ~夏季」
最終的には名前呼びにまで関係になっていた。
女子はなかなか理解しがたいものだと、教室を出ていく天女目さんの背中を見ながらつくづくと感じる。
「どしたの四季?」
「ん? いや、なんでもない」
「あぁ、もしかして四季も触りたい」
(ギャルと触れ合ったから、思考もギャル寄りになったのか? 春葉)
「いや、大丈夫だ」
「ふふっ」
こうして思わぬ来客があったものの、それからは弁当を食べながら予定通り、同好会発足に向けての今後を話し合った。
とりあえず先決なのは賛同者。春葉も加わり残りは3人なのだが、少ないようで意外と多くも感じる。
「う~ん。1年生の時クラスメイトも、今のクラスメイトも全員部活入ってるからね」
「そうだよな。うちのクラスも自己紹介を聞く限り、もれなく全員部活所属だ」
(あとは生徒会に入ってる学級委員長くらいか)
「あれ? さっきの天女目さんは?」
「自己紹介の時は茶道部所属って言ってたぞ? その他友人も一緒にな」
「へぇ~。なんか、着物姿似合いそうだよね」
「そうか?」
褐色の肌と明るめの茶髪に着物なんて合うのか? なんて一瞬口から出かけたものの、寸でのところで留める。自分も髪色で色々と言われてきたからこそ、人を見かけで判断するのは良くない。
春葉の言葉に、再認識させられた。
それにしても、茶髪とは言えかなりの明るさであることは間違いない。俺と同じく地毛証明書を出しているのだろうか。
「似合うと思うよ? それにしても……四季が同好会作るだなんてビックリしたな」
「悪いな。驚かせて」
「四季が自分から行動するなんて驚いたけど、嬉しかったよ?」
春葉の言葉は短くて簡単なものだ。けど、それに込められた意味を、俺は十分理解している。
中学時代、誰からも距離を置かれた時にも春葉だけは変わらずに俺と接してくれた。
ただ、そのせいで女子達から色々と言われていたのを知っている。その度に、俺と居てもロクなことがないと言っても、
『どうして? だってただの噂でしょ?』
そう言って笑っていた。
それに俺と同じ高校に行くと聞いた時には大いに驚いた。色々あったとはいえ、春葉には友達も全然多かったのに、『色々な場所で色々な人と交流したいんだ』なんて理由で、同じ京南を選ぶとは。
俺が噂を否定し続ける道を選んだことを、春葉は知っている。
その結果ももちろん。だからこそ、俺が行動したことに期待をしているんだろう。
「何もしないまま居るのには、懲りたからな」
「そうだよね。そうでなくっちゃ」
(春葉にも迷惑は掛けたくない。同好会に入ってもらうからには、同じ轍だけは踏まない。となれば、今やるべきことは1つ)
「あぁ。だから、とっとと賛同者3人見つけてやる」
「だね。私も協力するから」
「さんきゅ」
ボランティア同好会発足まで、賛同者残り3人、顧問の先生1人。
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