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見た目がチャラい井上四季は、なぜか皆に誤解されてる  作者: 北森青乃
第2章 ボランティア部、始動編
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35話 訪問者とチャラ男

 


「お~い井上! お客さんだぞ~」

「ん?」


 それはとある休み時間のことだった。

 突然の田辺の声に思わず視線を向けると、なにやら廊下の方を指さしていた。なんだなんだと思っていると、教室の入り口辺りには見慣れない姿が2人。


(誰だ?)


 ポニーテールの女の子と、前髪でほぼ目が見えない女の子。残念ながら、その2人の顔には覚えがない。

 とはいえ、あちらが俺のことを知っているならば立ったまま放置も良くないだろう。とりあえず話だけでも聞こうと席を立つ。


「おいおい。多分1年だぞ? まさか既に年下まで手籠めにしたのか?」

「何言ってんだよ」


 すれ違いざまにそんな冗談を言われつつも、俺は2人が待ち構える廊下へと足を進めた。完全にこちらを見ている状況に、どうやら人違いではなさそうだ。とはいえ近付くごとに鮮明となる顔には、やはり覚えはない。


(とりあえず、話だけでも聞いてみよう)


「えっと、俺に用があるのは君達?」

「あっ! すいませんお忙しいところ……」


 俺の問い掛けに反応したのはポニーテールの女の子。対して隣の前髪カーテンの女の子はお辞儀をするのみだった。その様子を見る限り、俺に用があるのはこの子で間違いなさそうだ。

 となれば話が早い。


「えっと、それで? 初めましてだと思うけど」

「はっ、はい! 始めまして1年の笹竹(ささたけ)茉莉(まり)と言います。生徒会で書記をやらせてもらってます」


(生徒会で書記? 1年……あっ)


 1年と生徒会書記。その言葉にふと思い出したのは、ゴールデンウィーク明けの全校集会だった。

 あの時は俺も含めて全生徒が七夕に集中していたが、横に並んでいた生徒会役員の中に見知らぬ姿があった気がする。

 朧気だが、その1人なのだろう。


「そしてこっちが……」

菖蒲(しょうぶ)……(かおる)……です……」


 笹竹とはある意味対照的な前髪カーテン。声の小ささ敵にてっきり俺の噂を信じて怖がっているのではとも思ったが、うっすらと見える目は確かに俺を見ているようだ。ちゃんと視線を向けている以上、この姿が彼女本来のものなのだろう。


「すいません。薫ってば、昔からこんな感じなんです。ちなみに薫も生徒会で書記やってます」

「やってます……よろしくおねがい……します……」


(なに? こっちの前髪カーテンも? あの時はハッキリと顔までは分からなかったけど、到底あの生徒会でやって行けそうには思えないんだが……まぁ、とりあえずこの2人が新しい生徒会のメンバーだってのは分かった。それにしてもその2人が一体何の用だ?)


「こちらこそ。それで? その生徒会書記2人が俺に何か用?」

「あっ、本日お伺いしたのはですね? 生徒会は全く関係なくて、個人的にお聞きしたいことがありまして……」


「うん? 生徒会絡みじゃないとすればますます分からないな?」

「ですよね? では早速なんですけど……井上先輩って岩田桃ってご存じですか?」


 岩田桃。記憶を辿り精一杯思い出してみるが……残念ながらその名前に心当たりはない。ただ、その岩田という名字には、どこか苦くどこか腹立たしさを感じてしまう。某柔道部の某太眉シスコン野郎がふと思い出されるが、桃という名前の人物には思い当たる節はない。


「岩田桃……分からないな」

「えっと、3年に岩田さんっているじゃないですか? 柔道部キャプテンの?」


(……待て待て、太眉シスコン野郎の妹とかじゃないよな?)


「あぁ、岩田先輩ね? もしかして妹さん?」

「そうなんです! 私達同じ中学校で友達なんですよ!」


 悪い予感程良く当たるとはまさにこのことだろう。笹竹さんが口にした岩田桃が、あの岩田先輩の妹だという事実に心の底から落胆する。なぜならその岩田桃とやらに関わった際に、必ずと言って良い程太眉シスコン野郎に呼び出しを受けていたからだ。

 そもそも、岩田桃が俺のことをどう捉えて先輩に話しているのかを考えると、今までの経験上決して良い印象だとは思えない。となると、自然と慎重にならざるを得なかった。


「そっ、それで? その桃さんがどうかしたの?」

「えぇ。実は桃から連絡がありまして、その……」


(その……?)


「井上先輩に是非お礼が言いたいそうです!」

「お礼?」

「はい! 最初は電車で席を譲ってくれると声を掛けていただいて、2度目はしつこいナンパから救っていただいた。そもそも電車の件でお礼が言いたかったのに、兄に聞いても知らんの一言。そうこうしている内に今度はナンパから救ってもらって、再度兄に井上先輩のことを聞いて欲しいと伝えたのに、またもや知らんの一言。どうしようもないので、京南に通う私に白羽の矢が立ったという訳なんです」


(ほほう? どれも身に覚えはあるぞ……ん?)


「白羽の矢って、つまりその桃さんは俺に嫌なことされたとか思ってないってこと?」

「連絡を受けた印象はそんな感じでした。そもそも電車の件やナンパから助けたってのも事実なんですよね? その点については私も再度確認したかったことなんですよ」


「あぁ、確かに覚えはあるよ。その桃さんって亜麻色の軽いパーマがかかった髪の毛してない?」

「そうです! やっぱり桃の言ってたことは本当だったんだ」


「いやぁ、岩田先輩に呼び出されたりしたから、てっきり余計なおせっかいだったのかと思ったよ」

「そうなんですか? あの、桃からの伝言で大変ありがとうございました。後日ちゃんとお礼したいです……だそうです」


 それは何とも思いがけないことだった。あの太眉シスコン野郎の口ぶりにはおかしな点もあったが、もしかすれば本人からそう思われている可能性も十分考えられた。

 それだけに自分の行った行動に自信が持ててはいなかった。ところが、本人からの言葉は全く違うもの。ある意味当然と言えば当然なのだろうけど、俺からしてみれば嬉しさを感じるものだった。


「そうなのか。それをわざわざ伝えに来てくれたって訳ね? ありがとう」

「いっ、いえ。とんでもないです」


「あと、桃さんにも大したことしてないから、この言葉だけで十分だよって伝えてくれないかな?」

「えっ? それは構いませんけど……」


 今の話を聞いて岩田先輩が正真正銘のシスコンだということが判明した。となれば後日お礼なんてされた時には、今度は呼び出しだけでは済まない予感がする。そういった点も含めて、できれば関わりたくないのが本音だった。

 このままお礼をありがたく受け取る。相手には伝言だけで十分と伝える。これで岩田兄妹に関わる出来事については終了となれば、全てが丸く収まる。


「当然のことしただけだから。えっと、用件はそれだけかな?」

「あっ、はい! お忙しい所ありがとうございました。桃には井上さんのお言葉ちゃんと伝えますので!   」


「うん。お願いね?」

「はい! それでは失礼します」

「……します……」


 元気な声と小さな声が聞こえると、深々とお辞儀をして去っていく2人。

 新しい生徒会書記の2人だと分かったことも驚いたが、まさかあの岩田妹さんと知り合いだとはさらに驚きだ。


(まじで世間は狭いな。えっと、岩田桃さんか……なんかあの兄のせいで苦労してそうだな)


 しみじみそう思いながら、俺は自分の席へと戻って行った。


「おっ! 連絡先ゲットできたか? 年下キラー!」

「何がだよ! んなもん聞く訳ないだろ?」

「ははっ!」


(おいおい田辺。冗談でもそういう話はするもんじゃないぞ? せっかくたった今、2つ疑惑が晴れたところなんだからな? 頼むからこれ以上、変な噂が広まりませんように!)


「ところで井上?」

「ん?」


「どっちがタイプなんだよ!」

「校庭に埋めてやろうか? 田辺?」

「ははっ」


(本当にお願いしますっ!)



読んで頂きありがとうございます。


もし面白い、続きが読みたいと感じてもらえましたら、感想や評価・ブックマーク等を頂けると大変嬉しいです。


次話もどうぞよろしくお願いします<(_ _)>

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