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見た目がチャラい井上四季は、なぜか皆に誤解されてる  作者: 北森青乃
第2章 ボランティア部、始動編
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34話 恐るべし顧問、意外な会計

 


 姉達の猛攻から命からがら逃れられた翌日。

 朝のホームルームを終え、俺は再度生き残った実感を感じていた。


「あっ、井上。ちょっといいか?」


 そんな安心しきっていたところに、聞こえてきたのは端午先生の声。もはや昨日の一件に比べれば何もかもがマシに感じてしまう。特に警戒することもなく、俺は足早に端午先生の元へと向かった。


(一体何だろう?)


「昨日、必要なものを一通り書いてもらっただろ? とりあえず校内で使われずに眠っている物を探してみて、揃えられるものをまとめた。物品名、個数、現在置かれている場所なんかだな」


 そう言われ手渡されたのは、綺麗にまとめられた物品リストだった。それもざっと見る限り、昨日手書きで書いた品々はほとんど揃っているような気がする。


(ん? 待て待て! これ全部校内に使われずに置かれてるってこと? 体育館横の倉庫に、各部活の物置場? 俺が昨日教えた物ほとんど用意できるってことじゃないか!? もしかしてこれを全部1人で? しかも1日で?)


「いやっ、先生? これって……昨日俺が教えた物ほとんど全部用意出来るってことじゃないですか!」

「まぁ、結果的にはそうなるな」


 なんとも淡々と話す端午先生。しかしながら、良く見れば野球部部室奥やらサッカー部物置など部活関係者でなければ把握が出来ないことだらけだ。

 そう考えると、おそらく昨日の放課後から各部活の先生へ話を聞きに行き、色々と発見してくれたんだろう。しかも見る限り結構な数で、時間も手間も相当かかったはずだった。


「いやいや! 昨日の今日ですよ? どれだけ頑張ってるんですか!」

「と言われてもだな? あれだけ頼られてしまったら……気合も入るだろ?」


「ですけど、逆に先生の体調が気になりますって! 相当な時間かかりましたよね? 大丈夫ですか?」

「変に心配するな。私はこういう性格だから、生徒達から何かを聞かれることはあっても、お願いとかされることは皆無に等しかった。そういう雰囲気だったからなのかもしれないがな。だから、改めてボランティア部から頼られて……柄にもなく嬉しくなっただけだ」


 そう言いながら少しだけ笑みを浮かべる端午先生。その表情には、以前話で聞いていたダメ男へ向けるものとは違った嬉しさをどことなく感じる。


「そうですか。凄くありがたいです。部員の皆にも報告しますね。特に春葉なんかは、昨日以上に嬉しがりますよ?」

「なっ! 抱き着かれるのは悪くはないが、いきなりは……」


「ん? 何か言いました?」

「何でもない! とにかく、やれることはやったぞ?」

「はい。ありがとうございます。端午先生」


(なんか、先生が凄いことになってる気がするけど……まぁいいか。せっかく調べてくれたんだし、ありがたく活用させてもらおう)


「ちなみに、今日の放課後も手伝いは……出来る……ぞ?」

「えっ? 本当ですか」


「いや! あれだ! 物置とかちゃんと場所分からないとダメだろ?」

「頼りになります先生。是非よろしくお願いします」

「しっ、仕方がないな」


(なんかツンデレ気質も出てきてないか? でもまぁ、協力してくれるだけ本当にありがたい。今度きちんと皆でお礼しないとな)




 +++++++++++++++




 放課後。

 端午先生のまとめてくれた物品リストを元に、俺は校内を走り回っていた。

 今日は部員全員が来てくれているとあって、部室作りも捗ることだろう。とは言え、掃除自体は春葉がどれだけ頑張ってもまだ不十分ではある。下塚さんと春葉は引き続き部室の掃除。天女目さんとクルミは端午先生と共に比較的軽い物品の確保に向かっている。


 例によって俺は1人行動なのだが今日は仕方がない。細々したものが揃えば、明日以降重量があるものの手伝いをしてもらえば大丈夫だ。自分1人でも持って行ける書庫やら絨毯等を持って行くことにしよう。


(それにしても端午先生、良くここまで使ってない物品調べたな)


 少し埃の被った書庫を運びながら、改めて端午先生の凄さを思い出す。必要な物品については、物品リストによるとほぼほぼ校内に置かれているもので代用が出来る。更にいくら使っていないとはいえ、ノートパソコンらも見つけてくれるとは流石としか言いようがない。それもとりあえず部員数の5台が手に入るとあって、活動記録やら依頼記録など手書きで苦しむ必要がないのは大きい。


 それに旧校舎へもネット環境を整える手筈もしてくれているらしく、想像以上の仕事っぷりにもはや恐ろしさを感じる。

 まさかちょっとしたキッカケ作りの為に少し芝居がかったお願いをした結果が、ここまでのものとは信じられない。


(……色々とヤバいな。でも本人もまんざらでもない感じだったし良いとしよう)


「あっ、井上!」


 なんて考えていると、突然名前を呼ばれてしまった。思わず振り返るとそこに居たのは菊重。生徒会会計が一体何の用だろうか。


「おう、菊重。こんなところで何してんだ?」

「お前を探してたんだよ」


「探してた?」

「あぁ、えっと……4階だし誰も居ないな? ずばり聞きたいことがあってな?」


「クルミのことか?」

「えっ! 何かあったのか? 怪我か? 体調不良か?」


(相変わらずクルミのことになると本性が出るのか)


「違うって。菊重が聞きたいことと言えば真っ先に思いつくのがクルミ関係だったからさ」

「なんだよ……驚かすんじゃねぇよマジで。違う違う、ボランティア部に関してだ」


「悪い悪い。そんで部に関することで聞きたいことって?」

「ずばり、部活動費についてだ」


 部活動費。

 その文字の通り部活動に充てられる活動費のことだ。この部活動費の有無が同好会と部の違いの1つでもある。


(部活動費ね? 別に部室の件は端午先生のリスト通り進めれば事足りるからな)


「というと?」

「正直なところ、いくら欲しい?」


「やけに端的な質問だな? その辺について希望額通りに頂けるんだったら喜んで言うけどさ? 実際基準とか計算方法とかあるんだろ?」

「まぁな。原則的には部員1人当たり2,000円として各部活動に提供している」


「確かに生徒会費って取られてるもんな。でもまぁ、それで部活の活動やら文化祭の準備に充ててるんだろ? 基準があるならそれでいいと思うが?」

「私としてはその……」


(おいおい? まさかクルミが居るからもっと増やしたいとか考えてないか? 流石にそれは無謀だ。大体そんなことしたら他の部から睨まれかねん)


「増額なんて求めてないぞ? 他の部と平等で頼む」

「なっ!」


「クルミが居るからってそこまでやる必要はない。生徒会役員としてな」

「いや、それはそうなんけど……渚の奴が妙に気合入っていてさ? 規約改正と共に新規部活にはこれを機に少しばかり活動費を上乗せしたらどうかって相談を受けたんだよ。流石にそれはまずいと思って、直接井上の話を聞いてみようと思ったんだ」


(あの露出癖め……早速暴走しやがったか?)


「気持ちはありがたいが、他の部活から贔屓だと捉えかねない。大体、活動すらしていない部活に既存の部活動よりも高い活動費計算で活動費を出すのはひんしゅく物だ。ひいてはボランティア部への視線も冷たいこと間違いなし。断じて早まった行動はしてくれるなと言ってくれ」

「その言葉を聞いて安心した。部長本人の意向とあれば、渚も考え直すだろう。ったく、規約の緩和が叶って少しばかり前が見えないみたいでさ? 渚らしくないと言えばそうなんだけど……まぁ実際に規約を変えたとなると力が入るのも仕方ないんだけどね」


「それは分かるけど、くれぐれも他の部と同じ待遇で頼む」

「分かった」


「んで? 菊重はこれから生徒会室に戻るのか?」

「いや。今日は渚も居ないし、秋乃はボランティア部の手伝い。やることもないからお前を探してたわけだ」


(その為だけにか? 仲の良い奴に対しては親身になるのかもな?)


 菊重の印象は、最初こそ赤縁生意気機械女だった。ただクルミの1件を通じて、俺にもある意味普通の印象を覚えてくれたからか、それからの言動は至って普通。

 それにこういった面も見せてくれる辺り、クルミ関係を覗けば2年の生徒会役員の中ではまともな部類なのかもしれない。


(まぁ、わざわざ探してくれたことには感謝しないとな。……あっ)


「そりゃご苦労なこった。どうだ? 菊重もボランティア部の部室来ないか? 今日はクルミも手伝ってるぞ?」

「なっ! 是非……って、だめだ! 懸命に部活動をするくるみんと、同じ土俵に立って良い訳ないでしょ?」


(なんか前にも聞いたセリフだな)


「いやいや、生徒会として様子を見に来たって言えば不自然じゃないだろ?」

「だっ、だけど……」


「それに今のお前は生徒会会計の菊重陽であって、クルミの先輩の菊重陽じゃない。それにクルミだっ、ボランティア部部員の胡桃沢冬真であって、くるみんじゃない。そう線引きすれば何の問題もないだろ?」

「うっ……それは……」


(ったく、難しく考えすぎなんだよ)


 菊重は何かと葛藤するかのように頭を悩ませているようだった。そしてそんな様子が数秒続いた後、何かを決心したかのように顔を上げた。


「じゃっ、じゃあ様子を見てやる! せっ、生徒会会計としてちゃんと活動してるかをなっ!」

「はいよ。じゃあいくぞ~」


 こうして若干緊張気味な菊重と共に、俺は部室へと歩き始める。


「ん? その書庫持つの手伝ってやろうか?」

「いいよ重いから」


「お前私を見くびってるな? 手伝いくらい余裕だっての」

「いやいや。じゃあ……よっと。これでそっち側持ってくれ」


「持ったぞ?」

「じゃあ力抜くからな?」


「さっさとしろよ~」

「はいよ……ほい」

「っ! んひぃぃぃ」


(あの、顔真っ赤なんですが? プルプルしてるんですが? 歩けますか?)


「……よっと。やっぱ俺全部持つから、普通に歩いてくれ」

「はぁはぁはぁ。おっ、お前調子に乗るんじゃないぞ!?」


(あぁ、前言撤回。やっぱり赤縁生意気機械女だったわ)


「はいはい」

「なんだその顔! むかつくぞ!」

「はいはいはい」



次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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