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見た目がチャラい井上四季は、なぜか皆に誤解されてる  作者: 北森青乃
第2章 ボランティア部、始動編
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32話 顧問を動かすチャラ男

 


 格好良く部活発足を宣言した翌日。

 俺達は早速部室の片付けをしている。机やらがなくなり広さは確保できたものの、長年の埃やら汚れは目に余るものがあった。

 それに加え下塚さんは生徒会。天女目さんは茶道部。胡桃沢は家の事情。ものの見事に誰も来られないと来たものだ。

 唯一来てくれたのは春葉だけとあって、とりえずモップでの床拭きをお願いしているところだ。ただ春葉も晩ご飯作りがあるだろうし、部室として機能するのはまだまだ先になりそうだ。


 という訳で、掃除関係を春葉に任せ、俺は部室に必要な諸々を他の教室から拝借している。ついさっき使えそうな書庫を見つけたもので、やっとこさ運んできたところだ。


(いやぁ、このサイズならもう1個上に重ねられるな? ファイル等の保管場所はあればあるほど良い。あとは個人で来た人との相談スペース用に仕切りなんかもあると良いんだけど……)


「なぁ、私は何すればいい?」


 そんな時、不意に聞こえてきた暇そうな声。思わず視線を向けると、そこには椅子に座り頬杖をついている人影があった。正直、その存在は結構前から把握はしていた。余計なことをさせないという建前上、活動を見守る体でも良いとは思っていたのだが……さすがに床拭きしている春葉を目の前に、何もしないのは顧問として、先生として、いや人としてどうかと思わざるを得ない。


「あのですね? 端午先生。こういうのもあれなんですけど……本当に見てるだけなんです?」

「ん? 何言ってるんだ井上。お前が言ったことだろ?」


 ボランティア部顧問の端午先生。

 確かに顧問を引き受けてもらったことについては、色々な経緯があったのは確かだ。しかしながらそれを抜きにしても、ボランティアという部分が多い顧問を引き受けてもらったからには、極力お手間を取らせない様にと他の部員達と決めていた。


 今日も他の皆が来れないというのに、様子を見に来てくれて嬉しかったのは事実。ただ、いくら俺に『とりあえず様子見ててくださいよ』と言われたから、春葉に『先生はドンとしててくれたら良いんですよぉ』と言われたからといって、本当に見ているだけの人が居るものなのか。いや、実際に居るから困る。


「様子見に来てくれるだけでありがたいよ? 端午先生ありがと~」

「ほれ見ろ。桐生院がああ言っているんだぞ? 井上、お前は全く空気が読めないな」


(なんだろう。教室内ではその言い方と立ち振る舞いも相まって正論にも説得力があるのに、体のいい言い訳の様に感じてしまう)


 確かに自分で言ったのは事実だが、どうにも端午先生の対応には疑問が残る。そもそも例の秘密を俺が知っていることを忘れているのではとも思ったが、それについてはあえて口にはしない。

 そもそもそういう事情を利用しないと決めたのは自分自身であり、それを餌にしてしまったら噂通りのチャラ男になってしまう。


(かといって……何かいい方法はないか? 端午先生を気持ちよく動かせる何か……あっ!)


「よっと! それじゃあ水取り換えて来るね~」

「おう! 気を付けてな」


 ちょっとしたか考えが浮かんだ瞬間、良いタイミングで春葉がバケツの水の交換のために部室を後にした。

 先生の性格を利用するのは忍びないが、過去の人達のように血も涙もないことをしようとしてる訳じゃない。大体、自分の演技力も試されるだけに上手くいく確率は五分五分だ。ただ、やってみる価値はある。


(性格ってのはすぐに変わるもんじゃない。だから少しだけ、その部分をつついてみよう)


 それを実行する為には、春葉が居なくなった今しかない。

 俺は少し息を飲むと、意を決して実行に移った。


「あの先生……」

「ん? なっ、なんだ井上。なんか様子が……」


(占めた。いきなりの困った様子を見て、その変化に動揺してる。畳みかけるチャンスだ)


「すいません急に。でも、聞いて欲しいことがあるんです。部長って建前上、春葉の前では言えないんです。不安にさせたくなくて」

「はっ、はぁ? ななっ、なんだよ急にしおらしくなって。大体、桐生院の前で言えないってどういうことだ?」


「ボランティア部の発起人ですけど、やっぱり俺も不安なんです。これからうまくやって行けるのか。けど、そんな姿他の4人に見せられないじゃないですか……だから頼れるのは端午先生だけなんです」

「たっ、頼れるってお前! それこそ桐生院だって良い子だし、下塚だって生徒会役員としての実力はあるだろ?」


「でも、結局俺達は生徒なんです。先生方が出来ることに比べたら、俺達が出来ることは少ししかない。出来ることは全部やるって言いましたけど、正直不安なんです。先生さんの力が必要なんです」

「わっ、私の力……だと……?」


 そう言いつつ、少し驚いた表情を見せる端午先生。その姿はある意味予定通りそのものだった。先生の何かを頼まれる頼られると嬉しくなる性格を少しだけ引き出そうとした結果だ。


(少しばかり心が痛むけど、出来る限りの協力以外は求めないからお願いしますよ? 先生)


「はい」

「たっ、例えばなんだよ」


「今は部室内の物品ですかね。個別に相談できる様にパーテーションとかあれば良いんですが、旧校舎にはないみたいで……ましてや活動費を貰えたとしても、購入できる余裕なんてないですよ。別に新品じゃなくても良いんです。使わなくなって放置されている、けどまだ使える……そんな物の在り処を知るには先生の知恵が必要だと思うんです」

「物品だと? たっ、確かに部室を作るとなれば必要なものは出て来る。全部購入なんて出来る訳がない。きちんと活動することを視野に入れてるから、ちゃんとした部室を目指したいってことか」


「そうなんです。こんなこと先生にしか頼めないんですよ。俺だけじゃない、他の皆も薄々感じてると思うんです。だから先生、その辺り何とかできないですか?」

「なっ、なんとかって」


「先生だけが頼りなんです!」

「私だけが……頼り……」


 本音半分、演技半分のお願いだった。

 足りないものがあるのは事実で、旧校舎に置かれていないものもある。生徒の俺達じゃどうにもならない部分も同様。それを解決するためには先生の力が必要だ。それも少しだけ頑張ってもらう程度の力が。

 大げさとはいえ、生徒からのお願い。さらには先生にしか頼めないという部分を強調すれば、端午先生の性格上……


「……あっ、あぁもう。分かった!」


(来たっ!)


「とりあえず、必要なもの教えてくれ。私の方で他の部活で使ってなかったり、物置に置かれていたりしてないか調べるから」

「本当ですか? ありがとうございます。春葉達も喜びます」

「戻りました~!」


 そんな時、またしてもタイミングよく春葉が戻ってきた。もはやこの空気の読める能力は天性のものだと賞賛するしかない。


「春葉! 聞いてくれ、端午先生が出来る限り物品の確保手伝ってくれるって」

「えっ、本当ですか?」

「なっ! 全部用意できるとは言ってないからな? 学校内やらで必要なものが眠ってないか探してやるだけだ!」


 その話を聞いた春葉が、バケツを置いて足早に先生の元へと歩み寄る。

 そして嬉しさを爆発させるように抱き着いた。


「それでも嬉しいです。頼りになりますぅ~端午先生~」

「なっ、こら桐生院! そんな抱き着くなっ」


(なんて言いながら、なんで顔真っ赤になってるんですかね?)


 こうして上手い具合に先生を焚きつけることに成功した俺。

 とはいえ、先生のまんざらでもない様子を見る限り、結局は良かったのではないかと感じつつある。

 とにもかくにも、これで部室関係の心配事は少しは解消されるだろう。ゆっくりではあるが、着実に進めているのだと自分自身に言い聞かせた。


「先生大好き~」

「はっ、はぁ? バッ……バカっ、桐生院!」


(あとはボロボロのカーテンも外さなきゃな? とりあえず頑張るか)


「あれ? 先生良い匂いするぅ。クンクン」

「なっ、一体どこを……」


(えっと、2人共? もういいですかね?)



次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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