31話 ボランティア部
優しい温かさを感じる今日この頃。駅構内には見慣れた光景が広がっていた。
通勤通学ラッシュの時間帯。やはりこの人の多さは、いつまで経っても変わらないんだろう。なんてしみじみ思いながら俺は改札を通り抜ける。
(おっ?)
その時だった。目の前を歩く女の子のポケットから白いポーチらしきものがポトリと落ちる。
目の前には制服姿の3人組が歩いていた。ツヤツヤな生地にも関らず少しばかり着崩れた制服。気だるそうにスマホを手にしながら歩く姿を見る限り、ゴールデンウィークの楽しさと学校再開の憂鬱さに打ちひしがれている1年生だろうか。おそらくスマホをポケットから取った時に落ちたのだろう。
俺は素早く拾うと、落としたであろう真ん中の女の子に声を掛ける。
「あの、すいません」
「はい? あっ……」
突然のことに驚いた様子の女の子。ただ、俺の手に持つポーチが見えたのか、なぜか表情が硬くなった。
「これ、落としましたよ?」
「えっ? あっ……ちょっと! 中見てないですよね!」
「はい?」
女の子は無造作にポーチを奪い取ると、友人らとそそくさと歩き始める。
俺は何とも言えない理不尽さにを感じながら、3人の背中を唖然と眺めていた。
「ヤバっ! 例の金髪チャラ男に化粧ポーチ拾われたんだけど!」
ポーチを落とした女の子の声だろうか? 両脇の友人に顔を向ける仕草は、自分の行動が間違っていたのかと思わせる。
(あれ? 落とした物拾っただけだよな? そりゃ化粧ポーチだとは思わなかったけど)
「まじ? 中確認した?」
(ん?)
「そうそう。メアドとか連絡先入ってない? 隙見せたらナンパされるって」
(あ……れ?)
「えっと、大丈夫そう!」
「いい? 駅で落とし物なんてダメだって。今はどんな手でナンパしてくるか分からないんだよ?」
「そうそう。特にああいうチャラ男には気をつけなさいって、先輩に言われたじゃない」
(えっと、決してそんなことは……)
「ただでさえ、あんた化粧覚えて顔が格段に良くなったんだから」
「良い教訓になったんじゃない?」
「だよね? 2人も気を付けてね!?」
先ほどの唖然とした気持ちはあっという間に消えてなくなる。残ったのは、何とも言えない虚しさだった。そして思わず溜め息が零れる。
「はぁ……」
(またこのパターンかよ)
「おっまたせ~! ん? どしたの四季?」
そんな悲愴感に包まれていた気だった。隣から不意に聞こえてきた声に視線を向けると、そこには春葉が立っていた。ついさっきまでお花を摘みに行っていたらしく、俺の恥ずかしい姿は見ていないらしい。
「いや、朝からマイナスな出来事があってな」
「ありゃ? 大丈夫、まだ朝だから! それに今日からスタートでしょ? ボランティア部」
「だな」
「そうそう。じゃあ、電車行きますか!」
(そうだ。こんなことでいちいちヘコんでいられるか! むしろこう宣言してやるぞ? 待ってろ悪しき噂。今日からその全てを消し去ってやるからな)
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「よしっ! 出来た!」
静けさ漂う旧校舎。その一室に響くのは春葉の声。
ボランティア部の部室となった教室の黒板に、今さっきチョークで書かれたボランティア部の文字は何とも感慨深い。
朝の騒動から、なんとなく1日が不安に思えたものの2年4組の面々は至っていつも通り。まぁ昨日いいだけボランティア部発足のことで騒ぎ散らしていたからなのだろうけど、なんとも心が安心した。
授業の合間の休み時間もいつも通り。昼もいつも通り。こうして何事もなく放課後を迎えられた。
連絡をした部員の面々も全員集まってくれたのは喜ばしい。発足決定自体は昨日からだが、きちんと活動場所で雰囲気を味わいたいという俺の考えを尊重してくれたのだろう。天女目さんまで来てくれたのは嬉しい誤算だ。
とりあえず、机やら椅子は必要な分を残して隣の教室へ移動させた。簡易的ではあるが、それっぽくはなっただろう。細かい作業は明日からじっくり手を付けていけば問題ない。
「はい! じゃあ、部長? 挨拶どうぞ」
チョークを手で払い、俺の方へ顔を向ける春葉。おのずと他の部員の視線も集まってしまった。もちろん自分が望んでいたこではあるものの、いざ目の前にすると緊張してしまう。
(ここは格好良く決めたいものだけど……待てよ? 大事なこと決めてなかった)
「挨拶の前に、ちょっと決めたいことあるんだけどいいか?」
「なになにぃ?」
「まぁ堅苦しい部活にするつもりはないけど、役職はあった方が良いだろ? 部長は、力不足感ありまくりだけど俺がやるとして、最低でも副部長と部の運営をサポートする主務は決めとかないか?」
「それは大事ね」
役職の決定については、俺自身必要なことだと思った。なにもそこまでガチガチにする必要はないが、部のトップである部長、トップを支える副部長、そして運営をサポートする主務。人数は少ないが、この辺りは担当を決めた置いた方が今後の活動も実行しやすい。特に恐れるのは、活動自体がなあなあになってしまうことだ。
「アタシ―パスー。細かいことするより行動派ー」
「ぼっ、僕もそんな役職担える自信はないので……」
(なるほど……ある程度予想していた通りか。天女目さんはこういう役職には興味なさそうだし、自由に動きたいだろう。クルミも俺達上級生に遠慮してる。まぁ、嫌だと言う人に無理やりやらせても意味はない。となると……)
「そうか。じゃあ、副部長なんだけど……」
「それなら春葉でしょ? 最初の賛同者だし、井上くんのこと良く知ってるしね」
「えっ!? 私が?」
「適任でしょ? 主務は私が担当するからさ」
「でも……」
「まぁ、俺としてはやってくれるならぜひお願いしたい。頼めるか? 春葉?」
「うっ、うん……よっし! じゃあいっぱいサポートします!」
「頼むな。下塚さんも生徒会とダブルで申し訳ないけど、よろしく頼む」
「おっけー!」
こうして主要な役員が決定したところで、仕切り直しと言わんばかりに春葉が再度口を開く。
「じゃあさ? 改めて部長、挨拶お願いしま~す」
春葉の陽気な声と共に、またもや集まる視線。
正直気が利いたことを言える自信はないが、部長と言う立場上この発足のタイミングでの挨拶はびしっと決めたい。
そんな思いを胸に、俺はゆっくりと立ち上がる。
(この挨拶は今後の士気にも影響する。決めなければ)
覚悟を決め、俺は静かに口を開いた。
「えっと、ボランティア部部長の井上です。まず初めにこの部を作ろうと思った理由はごくごく普通で、自分でも誰かの……何かの役に立てるんじゃないか。そんな活動の場を作りたい、提供したいって思いがあったからなんだ。そんな思いに賛同してくれて本当にありがとう」
(加入に至った理由は人それぞれだけど……結局集まってくれたからな)
「こうして部活として発足できたのは、皆の出会いもだけど本当に運が良かった。ただ、ボランティア部はここからがスタート。最初は部室を作ることからだと思うけど、依頼や周知と忙しくなると思う。でも、皆と一緒ならなんとか出来る気がする。そしてボランティア部と共に成長していきたい。だから……これからもよろしくお願いします」
「もちろんだよぉ」
「当たり前でしょ?」
「そうですよ! 先輩」
「そんなのー当然だってのー」
皆からの言葉に、少しずつ心が熱くなる。そしてこの熱を忘れない為にも、俺は声高らかに宣言した。
「ありがとな。じゃあ、今日この日をもって……ボランティア部、発足だ!」
部長、井上四季(チャラ男)
副部長、桐生院春葉(幼馴染)
主務、下塚秋乃(妄想癖)
部員、天女目夏季(淫乱ギャル)
部員、胡桃沢冬真(男の娘)
顧問、端午香(元ダメ男依存症)
京南高校ボランティア部……ここに発足。
ついに念願のボランティア部発足となりました!
ここから様々な活動やら個性的豊かな部員が躍動しますので、面白い・続きが読みたいと感じてもらえましたら、感想や評価・ブックマーク等を頂けると大変嬉しいです。
次話も宜しくお願い致しますm(_ _)m
☆補足情報☆
井上四季の両親は、別作品でもある短編『今日は何回できるかな?』に登場しました主人公とヒロインになります!




