30話 スタートラインに立ったチャラ男
「ホントにごめん!」
いつもと変わらないお昼の時間。
ごく普通に弁当を楽しむ俺と春葉の前に下塚さんがやって来たかと思うと、突然謝罪を口にした。
突拍子もない行動に、春葉と互いに顔を見合わせる。おそらく同じことを考えているに違いない。
「えっと? なにがごめん?」
「いや! 今朝の渚……生徒会長の話だよ! 前もって教えられなくてごめん! 驚いたでしょ?」
今朝の生徒会長の話とは、部活動やらの発足に係る規約の会話のことだろう。ただ、結果として俺達にはプラスでしかない提案だった為に、いい意味で驚いたのは間違いない。
なので下塚さんが謝る理由も良く分からない。
「サプライズって感じで、いい意味で驚いちゃったよぉ!」
「だけどさ? 実はゴールデンウィーク中に生徒会長からの話は私達にもあったの。もちろん同好会賛同者として嬉しかったし、伝えたかったんだけどさ? あの時点ではあくまで不確定なことだったから、皆には言えなかった。まずその点について申し訳ない」
「いやいや、下塚さんの考えは至って普通だろ? ぬか喜びで終わるよりだったら、聞かなかった方がましなこともある。今回の件だって、やっぱりやりませんなんて言われたら結構ショックでかかったぞ?」
春葉と俺に気にするなと言われても、どこか納得のいかない表情の下塚さん。
どうやら言いたいことはそれだけではないようだった。
「そうだけど……」
(まぁ下塚さんとしては、生徒会と同好会を兼任する以上、結果はどうであれ事前に何もできなかったことを悔やんでるのかもしれない。責任感が強いからな)
「秋乃、気にしないのっ! むしろそこまで同好会のこと考えてくれてるって分かって、嬉しくなっちゃった」
「だな。それに俺達と居る時は、ボランティア同好会……いや? ボランティア部の下塚秋乃だからな。そう気負わなくていいぞ?」
「うぅ……ありがとう春葉。なんか何とも言えないんだけど、一応井上くんもありがとう」
なんだか腑に落ちない言葉が聞こえてきた気がしたものの、ここであれこれ言うのは流石に空気が読めない。とにもかくにも、同好会をすっ飛ばして部活動として活動できることを喜ぶべきだろう。
それにしても七夕の行動力は物凄いと言わざるを得ない。朝の全校集会での立ち振る舞いと言い、やはり人の上に立てるオーラをまざまざと見せつけられた。
そう考えると、ますますその本性とのギャップに戸惑いを感じるのも事実。どちらにせよ、程よい関係を築けたのは運が良かった。
「いやね? 朝に生徒会室来てって連絡があってさ? その場で朝に全校集会やること告げられて、ついでに規約のことも生徒の皆に問うって急に言われたから……さすがに驚いたよ。しかも知らない間に学校長以下先生達からの承諾も得ててさ? こっちとしてはたまったもんじゃなかった」
「それにしても、とんでもない行動力だよねぇ。流石生徒会長って感じだったよぉ」
(話を聞く限り、ほとんど自分で動いてたってことか? やっぱりとんでもないな。……ん? もしかしてストメで送られてきた、さっそくボランティア同好会へプラスになることを考えたいってメッセージの意味って……こういうこと? だとしたら、なんかまずくね?)
思い出される七夕とのやり取り。
露出癖を他言しない代わりに、同好会への寛容な対応をお願いしたものの……七夕はこちらの要望にどこか不満げな雰囲気だった。
その後に口にしたのが『ちなみに同好会に役立つことであれば色々と実施しても構いませんか?』だったのだが、あの時は特に何も考えずにとりあえず了承した。そして帰り際に迫られた裸を見て欲しいというお願い。余りの状況に、結局俺は『時々だったら考える!』と口にしてことなきを得ていた。
つまり……同好会に役立つことをしたら、その約束を果たしてもらえる。七夕の中で、そう解釈していたとしたら非常にまずい。別の意味でまずい。
「とりあえず、良かったね? 四季!?」
「あっ、あぁ! そうだな! ははっ」
これは確認も込めて、行くしかないか。
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放課後。多目的室にて晴れて部員となった面々と喜びを分かち合った俺は今、生徒会室の前に立っている。遅れてやってきた端午先生からは活動場所が決定したとのお話があったが、時間も時間ということで本格的な片付けは明日から行うことになった。
それもまさか下塚さんが妄想場所に使用していた3階の教室だとは。当人が驚いた表情をしたかと思うと途端に悲しげな表情を浮かべていたのが印象的だった。
そんな訳で、ボランティア部としての正式な活動を明日に控え、俺としてはどうしても確認したいことがある為、こうしてここを訪れている。
下塚さんの話によれば、今日は生徒会としての活動はない。ただ、生徒会長はそういう日でも居ることがある。つまり、扉の中には七夕が居るかもしれない。
(お礼もだけど、確認があるんでな? いくぞ)
コンコン
「はい。どうぞ?」
その確かな声を確認すると俺は扉を開けた。そして意を決して生徒会室へと足を踏み入れる。
扉を閉め辺りを見渡すと、とそこに広がるのは到底縁遠いと思っていた生徒会の総本山だ。
「失礼するよ」
「えっと、どちら……はっ!」
机やらが並ぶ生徒会室。その入り口から真正面の机に七夕は座って居た。
反応的に俺が来ることは想定外の様だったようで、しかも案の定どうやら1人らしい。これなら、色々と話が出来る。そう思いまずは先手を取るべく口を開こうとした。ただ、その行動は一歩遅かった。
「いっ、井上君。いえ、井上様? まさか今日、来てくれるなんて。やだ、それを知ってたらもっと派手な下着つけてきたのに」
(えっ? ちょい待て!)
「でもまさかここで……生徒会室でなんて。あっ、やだ……想像しただけで胸が高鳴ってしまいます」
「待て待て待て! そんなことしに来たんじゃないぞ?」
「えっ? そんな……でもいいじゃないですか? せっかく2人きりなんですし、せめてパンツだけでも!」
なんとも満面の笑みを浮かべながら、スカートをたくし上げる七夕。その姿に、もはや朝の凛々しさ漂う生徒会長の面影はなかった。
突然の出来事に目に入ってしまったニーハイと白い下着を必死に手で隠し、止めるように説得する。
「バカ! いくら何でも生徒会室でそれはダメだろ! スカート戻せ!」
「はっ、はい……」
指の隙間からちゃんとスカートが元に戻っているのを確認し、俺は改めて七夕の近くへ歩み寄る。
もちろんさっきの様な突拍子もないことへの警戒心は怠ってはいないが、どうやらその心配はなさそうだ。
「もう……だとしたら、どうして生徒会室へ?」
「いや、ちゃんとお礼が言いたくてな」
「お礼? 私は約束を遂行しただけですよ? お礼も何もないと思いますけど……」
「いやいや十分凄いだろ。おかげで俺達は同好会すっ飛ばして部活動として活動できる。七夕が色々動いてくれたんだろ? 下塚さんから聞いたんだ。だから、本当にありがとう」
その動機はどうであれ、七夕の力がなければ部活動への昇格はもっと時間が掛かっていたはず。そう考えると、誠心誠意のお礼が必要だと思った。
「なっ! いきなり……ズルい。ででっ、ですけどこれは生徒会として生徒の積極性を促す目的でもあるんです。決してボランティア部の為とか、そういう動機だけではないですから。そこは理解してください?」
なんて言いながら、少しだけ恥ずかしそうな表情を見せた七夕。その表情もまた、今までに見たことがない珍しいものだ。
「分かってるよ。ただ、面と向かって言っておきたくてな。じゃあ、これからも寛容な目で見てくれよ?」
「分かりました」
こうして一通りの礼儀を済ませると、ようやく部活動としてスタートが切れるのだと実感が湧く。
ボランティア部発足。その言葉に……どこか胸が熱くなった。
「では、今後も色々と役立つことに関しては提案していきますね? その代わり……」
「……ん?」
「私のあられもない姿見てくださいね?」
「はっ、はあ? ちょっと待て!」
(こりゃやっぱり、別の意味で苦労しそうだ……」
「やっぱり今でも良いんですよ?」
「だから、やめろっての~!」
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