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29話 予想外と想定外

 


 休み明けの学校は、どうしてこうもやる気が起きないのか。

 もはや永遠の課題となりつつある症状に絶賛苛まれながらも、俺はなんとか歩いている。


「ふふっ、楽しみだねぇ」


 横を見れば、いつもと変わらず元気ハツラツな春葉。毎度のことながらそのやる気はどこから溢れるのか、出来ることなら少し分けてもらいたい。


「元気良いな」

「そう? だってこれだけ休めたら、体も心も全快でしょ?」

「そうだといいんだけどさ」


(これだけ休めたら全快か。その理論なら、俺も同じ状態になってるはずなんだけど)


 初日にはとんでもないことが起こったものの、それ以外の日はゲーム、同好会のこと、ゲーム、睡眠と極力体力を使わない生活をしてきたつもりだ。

 それこそアクティブな行動と言ったら、井上家と桐生院家で合同のバーベーキューパーティーをしたことと、その夜になぜか桐生院家へ一家総出で泊まりに行ったことぐらいだろうか。春パパが用意してくれたあの肉は実に美味かった。是非とももう1度お目に掛かりたいものだ。


 なんて思い出に浸っていても、現実は非常だ。目の前にはもはや校舎が待ち構えていた。こうなれば、もはや覚悟を決めるしかほかない。出来るだけ明るいことを考えることにシフトチェンジする。


(となれば、やっぱ同好会だな)


「とりあえず、首尾よくいけば今日で同好会発足だ。活動場所も端午先生が教えてくれるはずだし、放課後には早速場所作りといこう」

「やったねぇ。念願の同好会! ここからがスタートだよ? 四季」

「あぁ」


 校舎の中を歩きながら少しばかり元気が出たところで、俺達は各々の教室へと足を向ける。端午先生から場所を聞いたら連絡すると告げると、春葉は大きく頷いて教室へと入っていった。

 その姿を確認し、俺もまた久しぶりの4組へと足を踏み入れる。


 久しぶりの再会に他愛もない話で盛り上がりを見せている教室内。例に漏れず、俺もまたその会話の中へと入っていく。

 部活だらけだった人。気になる子とデートをした人。旅行に行った人。ゲーム三昧だった人。

 まさに人それぞれであり、改めて色々な過ごし方が存在するのだと感心する。

 そんな話に花を咲かせているた時だった、


「は~い。皆おはよう。とりあえず席ついて~」


 扉の開く音とともに、これまた懐かしい声が教室へ響く。

 視線を向けると、そこにはいつもと変わらない端午先生。改めて、あの繁華街での姿がウソの様に感じる。


(とりあえず、朝のホームルームが終わったら活動場所聞くか)


 そう思いながら自分の席に座り、ホームルームの開始を待っていると、教壇に立つ端午先生が口を開いた。


「えっと、急なんだけど生徒会から臨時の全校集会をしたいとの話がありました。これから体育館に行くので、とりあえず廊下に整列してくれ」


(生徒会?)


 その言葉に下塚さんを探すと、確かに教室には姿が見えない。

 そもそも生徒会と言えば真っ先に思い出すのが生徒会長の七夕だった。そんな生徒会が臨時の全校集会を行うとなると、どうしてもよからぬ予感を感じてしまう。


(一体なんなんだ? 頼むから同好会とは縁のない話であってくれ)


 心底祈りながら、俺は廊下に整列をする。




 +++++++++++++++




 全校生徒が集まる全校集会。生徒数が多いとはいえ、一同に介す光景はやはり圧巻という言葉が似合う。

 ステージ横には学校長と司会を務めるだろう教頭を始め、先生方がずらりと並ぶ。そしてその先頭には、本日の主役である生徒会役員の姿があった。


(まぁ下塚さんもいるよな)


 見知った顔ぶれに、見慣れない2人の女子生徒。彼女らが新しく生徒会入りした人なんだろうか。興味はあるものの、今日に限れば注目は生徒会長の七夕渚の言葉。いったい何を口にするつもりなのだろう。


「ごほん。それでは臨時の全校集会を行います。今回、生徒会の方から、生徒会規約の見直しについてお話をしたいとの要望がありました。なお、この件に関しては学校長4、及び私達教職員は事前にお話を受け、吟味した結果見直しに賛成させていただきました。つきましては、生徒の皆さんの承認をもって、見直しの有無が決定する旨を付け加えさせていただきます。それでは生徒会会長、七夕渚さん。お願いします」


(規約の見直し!?)


 教頭の言葉に少しばかりのザワツキが生まれる。とは言え具体的にどの規約を見直しするのかは分からない為、戸惑いが勝っているのだろう。

 正直自分もその1人だった。ただ、そんな空気を一変させるのが七夕渚だ。


「皆さんおはようございます。朝の貴重な時間、少しばかり頂戴したく、お呼び立ていたしました。生徒会長の七夕です。よろしくお願いいたします」


 その透き通る声と存在感に、一瞬でその場が静まり返る。

 よもやこんな立派な人が露出癖をお持ちだと誰が思うだろう。目の当たりにした俺ですら、あれば夢だったのではないかと思ってしまう。


(流石の存在感。でも重要なのはその内容だぞ? 何をしでかすつもりだ? 七夕渚)


「さて、早速ですが本題に移りたいと思います。この度生徒会からご提案する規約の見直し……それは、新しい同好会及び部活動の発足に関する規約になります」


 その言葉に俺は動揺した。


「現状、同好会発足には賛同者5名と顧問の先生。部活動発足となると賛同者10名に顧問の先生、さらに生徒会の承認と学校長の許可を得なければなりません」


 あの夜、確かに七夕と約束を交わした。寛容な目で見て欲しいと。ただ、目の前の七夕は同好会の発足に関する規約の見直しを口にしている。いったいどういうことなのだろう。

 その一言一句に、固唾を呑んで見守る事しか出来なかった。


「しかしながらここ数年、我が京南高校では新しい部活動はもとより、同好会すら出来ていない実情があります。そこで、生徒会は……


(嘘だろ……頼むから、条件をキツくするのは止めてくれ!」


「部活動発足に必要な賛同者の人数の緩和……その部分の規約の見直しを皆様に提案いたします!」


(えっ?)


 その言葉に先ほどよりもザワつく生徒達。俺ももちろん状況は読み込めてはいない。ただ、ステージに立つ七夕は自信に満ち溢れた表情でなおも続ける。


「新たな部活動・同好会がない。それすなわち、本校生徒の新しきことへ挑戦する積極性が失われているのではと常々感じてました。ですが、それは誤りでした。私は新しく同好会を発足させようとしている人に出会い……現状を知りました」


(おい! それって俺のことか? ボランティア同好会のことじゃないのか?)


「賛同者と顧問の先生の確保。とても苦労していた状況を目の当たりにして……そもそもの考えが間違っていたことに気が付きました。新しいことをしたいと思う人は居るのです。この京南高校には数多く! ですがその大きな壁となっているのが、賛同者の確保です。挑戦してみたいと思っても、共感してくれる人が居なければ、スタートラインに立つことすらできない。どんなことでも、最初は1人。1人から2人、2人から3人と増えていくものなのに……こんなの余りだとは思いませんか?」


「確かに……」

「友達も併せて、せめて2人から活動できれば……それを知った人が参加してくれることもあるよな?」

「俺、生き物好きだから生物部とか作ってみたいんだよな」

「同好会とかハードル高いって感じてたけど、さっきの条件聞いたら諦めるよ普通」


 どこからか聞こえてくる声が次第に多くなっていく。確かに俺は春葉を始め、運よく賛同者を見つけることが出来た。ただ、どれだけ賛同者を探しても、いつまで経っても春葉と2人だけだったら諦めていたかもしれない。


「ですので、生徒会として何かできることはないか。そう思い……同好会及び、部活動の発足に関わる条件の緩和を皆さんに図ります」


「おぉ~」


「まず、同好会については賛同者2人。顧問の先生は必要なく申請可能。活動場所は、多目的室など空き教室の利用を許可します」


「「おぉ~」」


「次に部活動です! こちらに関しては生徒会からの活動費を提供する関係上、顧問の先生の確保はお願いしたいと思います。ただ、賛同者は5人。申請書を生徒会へ提出し、学校長の許可を経てという流れは変わりませんが、生徒会は不純な動機・不透明な活動内容、計画ではない限り、全力で皆さんに協力することを誓います」


「「「おぉ~!!」」」


(えっ? ちょっと待てよ?)


「これで皆さんの新しいことへの挑戦を後押しできるのではないでしょうか? 是非、この見直しに賛成していただけるのであれば、拍手にてお返事ください!」


 その瞬間、体育館に響き渡る割れんばかりの拍手。


「ありがとうございます。では、この拍手をもって本日より、同好会及び部活動発足に関する規約を緩和いたします」


 その中に凛と立つ七夕の姿に、改めて凄さを感じるとともに……俺は密かに胸が高鳴っていた。


(つまり同好会すっ飛ばして、部活として活動が出来るのか?)


「皆さん、朝の貴重なお時間ありがとうございました」


(マジかよ……七夕渚!) 



次話も宜しくお願い致します<(_ _)>

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