25話 4人の名前と代表者チャラ男
「気をつけろよ~」
「はいはい」
「は~い! 行ってきます」
別路線を利用する父さんに見送られながら、電車へと乗り込む俺達。これまたなんとも珍しい光景に違和感を感じながらも、車内の目についた座席へと腰を下ろした。
「やっぱり仕事熱心だよねぇ、四季パパ」
「それは良いんだけど、外で女性の下着の固有名詞を言うのは止めてもらいたい」
「ふふっ」
駅までの道中、ほぼほぼ父さんと春葉の会話が続き俺は置いてけぼり状態だった。
父さんはこの時間を活用すべく、いつも以上に下着事情の情報収集に熱がこもっていた気がする。
そんな質問に丁寧に答える春葉も春葉なのだが、周りの目が気になってしまった。
「それにだな? お前もあんなに丁寧に答えなくてもいいんだぞ? 好きな色だのデザインだの……」
「えぇ? だって真剣に聞いてくれたからには、真剣に答えるのが礼儀だよ? 四季パパだったらなおさら」
「それはありがたいけどな?」
(今日も試作品つけてますよ~? あの青色のやつです。なんて現在つけてる下着の色を聞かされた俺の身にもなってくれ。反応に困るから聞こえてない振りしたぞ)
そんな父さんとの一幕を話している内に、あっという間に駅へ到着。
見慣れた風景を目にしながら、正面玄関まで辿り着いた。今日は岩田先輩に待ち構えられていないことにホッとしつつ、内履きへと靴を履き替える。
(あっ、そういえば早速端午先生のとこ行くか。心変わりしてなきゃいいけど)
同好会発足に向けた最終確認は早い方が良い。そう思い、俺は職員室へと向かうことにした。
「春葉。俺、早速端午先生の所に行ってくるよ」
「あっ! 返事聞きに行くんだよね? 私もいいかな?」
(別に返事を聞くだけなら問題ないか)
「了解。行こう」
「は~い」
こうして俺達は、職員室へ向かい歩き始めた。
後は端午先生が了承してくれれば万事OK。同好会発足が確実なものになる。
(……ん?)
その瞬間、不意にある不安が浮かび上がった。
そもそも、土曜日に端午先生から了承は得ていたのだが、その後の泥酔状態が少し気になる。アルコールのおかげで約束はおろか、俺と彩夏に現場を見られたことすら覚えていなければどうすべきか。
(だとしたら、春葉を連れて来たのはマズかったか? けど今更教室行けなんて言えない。あぁ……とりあえず行こう!)
考えれば考える程急いだ方が良いという結論に達すると、少し足早に職員室前へと到着した。
「失礼します」
「失礼しま~す」
扉を開け、挨拶もそこそこに端午先生の姿を探す。すると、いつもの席にその姿を見つける。
「おはようございます。端午先生」
「ん? あっ、あぁ。し……井上。この……」
「おはようございます。端午先生!」
春葉を見た途端、一瞬見せた先生の焦った表情。それに言いかけた言葉を推測するに、おそらく端午先生は土曜日の記憶があるんだろう。
そうと分かれば、やることは1つ。
「えっと、桐生院だったな。2人してどうした?」
「あの、金曜日にボランティア同好会の顧問のお話したじゃないですか?」
「ボランティア……」
(先生。この一言と土曜日の話を繋げれば……大体察することできますよね?)
頭の良い端午先生なら、俺が春葉にどう伝えてここに来たのか分かってくれると思った。そして決して土曜日のことを誰にもしていないということも。
「えぇ。顧問について……どうでしょう?」
「……あぁ。あれから考えたんだがな? ここまで真剣にお願いされたら断るのも忍びない。引き受けさせてもらうよ」
(ナイス! 端午先生!)
「ありがとうございます!」
「やったぁ! 先生ありがとうございます~!」
「ふっ。じゃあとりあえず、この申請書に記入して私に渡してくれ」
同好会申請書を手渡されると、ついに準備が整ったのだと実感が湧く。
「とりあえず私から生徒会に渡す。ただ、同好会の活動場所なんかは他の先生達からの話を聞きつつ決定になるから、そうだな? 正式な発足はゴールデンウィーク明けになるだろう」
(週末から始まるゴールデンウィークが終わってからか。まぁ、活動場所の確保とかにも時間がかかるだろうしな)
顧問を引き受けてくれただけでも御の字ということもあって、更に発足を早めてもらうのは酷だと感じた。そもそも活動場所が決まらなければ出来ることも少ない。
「そこは了承してもらいたい」
そう言いつつ、俺へと視線を向ける端午先生。その目には申し訳なさと、『頼むから土曜の件は言うなよ?』という意味が込められていそうな雰囲気を感じ取る。
顧問を引き受けてくれた時点で、そんなことをするつもりは全くない。それに暴露しようもんなら、それを知った彩夏からどんな仕打ちを受けるか分かったもんじゃない。
「全然です。これからよろしくお願いします」
「お願いしますっ! 端午先生~!」
こうして正式に、端午先生がボランティア同好会の顧問を引き受けてくれることとなった。
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「というわけで、端午先生が顧問を引き受けてくれたので、同好会発足の準備が出来た。みんなありがとう」
昼休みの多目的室。
集まってくれた賛同者の面々に向けて、俺は声高らかに報告をする。
「やったね四季!」
「良く端午先生を説き伏せたわね?」
「すっ、凄いです先輩!」
「やるじゃーん。井上ー」
聞こえてくる喜びの声に、ようやく1歩を踏み出せたと実感する。
「後は申請書を記入して先生に手渡せば、同好会発足は確定だ。だから、皆に自分の名前を書いてもらいたい。じゃあ、春葉から」
「はいよ~!」
こうして申請書に名前を記入してもらい、手に戻ってきた申請書。空欄になっていたのは代表者の部分だった。
思い思いにその部分へ自分の名前を書き込むと、本当に準備が完了したのだと嬉しさがこみ上げる。
(顧問の所は、申請書渡す時に端午先生に書いてもらおう)
「とりあえず、活動場所とか確保する関係で、発足はゴールデンウィーク明けになるらしい。その都度、何かあれば連絡するから。その時は色々とお願いします」
今まで協力してきた4人。これからお世話になる4人に向けて、俺は感謝の意を伝えるように頭を下げた。
そして聞こえてきたのは、
パチパチパチパチ
嬉しさ感じる拍手の音。
思わず顔を上げると、4人が笑顔で俺を見ていてくれた。
「でも、本番はこれからよね? 頑張りましょ?」
「ぼっ、僕も頑張ります!」
「とりまー、最低限のことはやるよー」
「四季! これからがんばろっ!」
(絶対に悪しき噂を……消し去って見せる!)
京南高校ボランティア同好会。ゴールデンウィーク明けに発足予定。
「あぁ! 作ったからには、やれるとこまでやってやる」
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