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24話 父とチャラ男

 


「ふわぁ……」


 未だにボヤけた意識のまま、俺は何とか階段を下りて行く。

 三連休を過ごしたはずなのに、どうしてここまで眠いのか。そんな疑問を覚えつつ、なんとか洗面台へと辿り着いた。

 蛇口から流れるぬるま湯を手に溜めて手早く顔を洗い、さっと髪を整え終える。するとようやく意識がハッキリしてきた。


(よっし。今日も頑張るか)


 こうしてキッチンへ向かおうとしていると、玄関にはスーツ姿の女性の姿。この時間に出社となれば1人しか思い浮かばない。


「あっ、母さん」

「あぁ四季。朝ご飯ちゃんと食べてね?」


 朝に起きてくると出社を見送る。まさに見慣れた朝の光景だった。ただ、今日に限るとその光景に違和感を覚える。


(あれ?)


「はいよ~。てか、父さんは? 一緒じゃないの?」

「父さん夜に会議があるから、今日の出社は遅いのよ。それじゃ行ってきます」

「そうなんだ。いってらっしゃい」


 基本的に母さんと父さんは一緒に出社している。こうして別々に会社へ行くのはかなり珍しいことだった。


(まぁそんなもあるだろう)


 母さんを見送ると、リビングへの扉を開けた。するとそこには、


「おう! おはよう四季」


 珍しく優雅にコーヒーを嗜む父さんが居た。

 平日の朝にここまでのんびりしている父さんの姿を見るのはかなり久しぶりな気がする。そう感じる程、母さんと一緒に出社しているということなんだろうけど、そこまで一緒に行きたいものなのか。

 夫婦仲の良さは大切だと思うが、いささか行き過ぎている感は否めない。


「おはよう」


 とは言え、流石に本人を目の前に口にはできない。

 簡単に挨拶をすると、そそくさとご飯と味噌汁を用意しに向かう。


(ん? おかずの数少ない。彩華の分は?)


 その最中、テーブルに用意された朝食のおかずの数が少ないことに気が付いた。案の定、彩夏は熟睡中だと考えると、考えるのは1人。


「あれ? 彩華は?」

「あぁ、昨日のファッションショーの片付けがあるらしくてな? 今日は早い出社だそうだ。母さんの1時間前には出たな」

「なるほどね~」


 父さんの言うファッションショーとは昨日行われたものだ。春葉の姉でもある采彩さんが出演していたとあって、春葉も見学に行ったことだろう。

 姉2人がお世話になっているサンセットプロダクション。そこに采彩さんが所属しているとは偶然も偶然だ。家も隣、職場とバイト先が一緒。これも何かの縁なのだろうか? とりあえず、3人の様子を見る限り、見知った人がいるのは働くうえでメリットだらけの様だ。


 なんてことを考えながら、父さんとテーブルを囲み朝食を食べるという実に珍しい朝の光景が始まる。


(それにしても、父さん変わらないな)


 父、井上(いのうえ)拓弥(たくや)は、息子の俺から見ても年齢よりかなり若く見える。そもそも昔の写真と今現在の姿を見比べても、変わらないような気がする。

 まぁそれにはちゃんと理由がある。父さんは人前に出るからには、身だしなみをきちんとするを信条にしている為、色々なケアを徹底的に行っていた。

 ファッションブランドに勤務しているというのもその一因だとは思うが、おかげで肌はツルツル。ヘアスタイルもバッチリ。眉毛はキリっと清潔感溢れるおじさんという訳だ。


 ちなみに勤務するファッションブランドKARASUMAには母さんも勤務している。

 まぁ、最初にそういう話を聞くと、てっきり父さんが紳士服。母さんが婦人服を担当しているのかと思われがちなのだが、実のところ全く違っている。


「生地の値段がまた上がるのか」


 こうして真面目に新聞を読む姿はまさに出来る男そのものなのだが、担当しているのは女性用の下着だ。

 いわゆるブラジャーやらパンツ等々なのだが、最初にそれを知った時は驚きと同時になんとも言えない感情に襲われたものだ。

 昔、仕事について問い掛けた時に、『女性が綺麗になる為の手伝いをしたいんだよ』と真顔で言われてしまい何も言えなかった記憶がある。


(まじで見た目だけなら、自慢できるんだけどな……)


 ただ、それは母さんも当てはまる。

 父さんが女性用の下着を担当しているなら、母さんこそ女性関係の服か思いきや、担当しているのは男性用の下着だ。

 試作品を持ってきては、着用を促され感想を聞かれることも少なくはない。

 母さんにも昔、仕事について問い掛けたことがあったが、『服を脱いでも、男性が格好良く見える為の手伝いをしたいのよ』と、これまた真顔で言われてしまったことがある。


 試作品なら互いに試せば良いと思うのだが、


『母さんが作ったものなら、何でもOK出しちゃいそうだから駄目だ』

『父さんが作ったものなら、有無を言わさず満足しちゃいそうだから駄目』


 仲良くそうきたもんだ。

 父さんに関していえば、姉2人はもちろん春葉や采彩さんにも試作品を提供していて、息子としては是非とも隣家の子には止めて欲しいと常々感じている。

 それにその点については男女比の割合が偏っていることで、母さんが常々男が足りないと愚痴を言っている。

 まぁ春葉のご両親もまた、試作品のモニターを快く引き受けてくれている実態もあるせいか、その方面からの協力停止の申し出は期待できないかもしれない。


 こうして朝食を食べ終わり、最後に身支度をすると良い時間になっていた。

 鞄を手に取り玄関へ向かうと、父さんも出社するようだ。


「一緒に行くか! 四季」

「はいよ~」


 利用する路線は違えど駅は一緒の為、特段断る理由はない。

 一緒に外へ出ると、


「おはよ~四季! あれ? 四季パパ! おはようございます!」


 いつもの様に春葉が待っていてくれていた。


(まぁ、3人で駅まで行くって機会も、滅多にないからな。これはこれで有りか)


「おっ、おはよう! 春葉ちゃん!」

「ういっす。じゃあ行くか」


 3人で駅まで歩く……なんとも珍しい朝の光景だった。


「そういえば春葉ちゃん! 試作品のブラジャーどうだった?」

「はっ!?」


(おいおい! こんな道中で何聞いてんだよ! しかも感想に興味津々な顔止めろ! 見る人が見たら変態に間違えられるぞ!)


「あぁ! すんごく肌触りが良くて、フィット感バッチリでしたよ?」

「はい?」


(はっ、春葉! お前も何真面目に感想言ってんだよ!)


「おぉ! 良かった良かった。そういえば、実はね? パンツの試作品もあるんだけど……」

「そうなんですか? 私で良ければ協力しますよ?」


(……あぁ、この2人に挟まれるの嫌だ)



次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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