2話 チャラ男の宿命
本日2話目の投稿です<(_ _)>(2/4話)
チャラ男。
その言葉が自分に向けられていると知って随分と経つ。
普通の人が普通に過ごしてたら縁遠い言葉だろうし、自分にはそう思われる理由があるんだろう。
そういう点で言うと、真っ先に思いつくのはこの髪の毛だ。
もちろん、自分で染め上げた訳ではない。母親がハーフで金髪ということで、もれなく遺伝した結果だ。
2人の姉には心底羨ましがられたが、俺としては生まれつきの髪色。だけど、集団生活においてやはりこの金髪は目立つらしい。
おかげ様で、自分に対する様々な反応や表情にも慣れたつもりではいた。
「はぁ……それにしても酷いよな」
新しいクラスということで、それなりの賑わいを見せる教室の中。俺は自分の席に座り、遠くの空を見つめながら独り言を呟いていた。
何度溜め息をついたのだろう。正直覚えていない。
ただ、頭に過るのは通学時の出来事と、教室へ向かうまでの新入生達からの視線だった。
京南高校はいわゆるマンモス高。その人数の多さは入学した時点で理解していたし、むしろ去年の方が注目されていた気はする。
しかしながら、心に少なからず傷を負った今朝の出来事に、追い打ちを掛ける新入生達の怪奇の目。
ダメージ的にはこちらの方が大きい。
(……やっぱり髪か?)
過去にも髪を黒く染めようとは思ったけど、親からもらった髪の毛を染めるという行動に踏ん切りがつかずにいた。まぁ家族からの髪の毛痛めるからやめな! という忠告の影響も少なからずはある。
ただ、今日の一幕を見る限り……共通して出たのは髪のことだ。やはり、染めるべきなのでは? なんて考えていると、
「はい。ホームルーム始めるよ」
先生の登場に、教室の賑やかさも落ち着き始める。
「2年4組を受け持つことになりました。端午香です。1年間よろしく」
(あっ、端午先生か)
端午香。1年では別のクラスを受け持っていたことから、全く知らない訳じゃない。黒髪のポニーテールに黒ぶちの眼鏡。見た目は20代後半だろうか? その姿のままにクールな人柄だそうだ。今の話し方でその片鱗は垣間見える。
俺としては変にリアクションをするタイプの先生より、冷静沈着な端午先生の様なタイプの方がありがたい。
「とりあえず、クラスが変わったということで自己紹介でもしようか。じゃあ前の席から順番に」
こうして、前の席から順番に自己紹介が行われた。
俺にとって、こういう場はクラスメイトの顔と名前を覚える良い機会だ。なるべく良い印象を持ってもらおうと、昔から心がけていることでもある。
(なるほど。生徒会所属の子に、クラスの中心になりそうなギャル。比較的に陽キャが揃った男女か)
こうして、自己紹介を聞きながらその人の趣味やその他諸々を覚えている内に、自分の順番が回ってくる。先生の声に立ち上がると、クラスから一斉に視線を向けられたものの、1年間俺の存在を知っていただけのことはある。特に大きなざわめきもなく、難なく自己紹介が終了した。
所々で何人かがコソコソと話していたのは、まぁ想定の範囲内だと思おう。
「はい。じゃあ次」
流石は端午先生。他の先生なら、笑いを取ろうと俺のことをイジるところで、何もないかのように進行してくれる。それこそ、1年の時の担任が酷かっただけに担任ガチャの成功は喜ばしい。
そんなスムーズな進行もあって、自己紹介はあっという間に終了。
改めて思うと、この2年4組はバランスが良い。基本的には明るい雰囲気に、その中でも目立つギャル達とそれを優しく注意する生徒会気質な人達。今の所、居心地は悪くない気がする。
なんてクラスの面々の様子を見ていると、端午先生に名前を呼ばれた。なんでも地毛証明書を渡そうと思ったものの、職員室に忘れたということで帰りのホームルームの際に渡すらしい。
去年も記入したけれど、名前と理由を書くだけの簡単なもの。俺としては早々に提出をしたかったので、休み時間に取りに行くことを伝えた。
「じゃあ、待ってるぞ」
そう言うと、颯爽と教室を後にする端午先生。俺の髪を見ることも、イジることもない姿はやはり担任に恵まれたと思わざるを得なかった。
ホームルームも終わり、授業までの隙間時間。教室内では再び賑やかさが増している。1年の時とは違い、多少は見知った人がいる状況で、その多くは世間話やらその他諸々だろう。
ありがたいことに、俺の席にも何人かの男子生徒が集まってくれた。まぁ、その大半があの噂関連だったけれど。
「よっ、井上。お前あの噂本当なの?」
「めちゃくちゃモテるんだろ? いいよな」
「てか、マジで金髪なんだな? すげ綺麗だし」
そんな対応も、もはや慣れた。それに話をする限りこの人達も噂は噂だときちんと受け止めてくれそうな気がする。
「いやいや、そんなことないよ」
「嘘つくなって! 今度誰か紹介してくれよぉ」
「俺も!」
「僕も!」
「拙者も!」
「おいどんも!」
とりあえず、男子の方は大丈夫だと安心する。
となれば、問題は女子の方だった。冗談にせよ、こういう話をしている時は総じて良い目では見られない。
(……あぁ、やっぱり)
視線の端にチラリと見える女子達の様子。その殆どが俺の席……というより俺を見ている気がした。軽蔑にも似た眼差しで。
そんな何とも言えない雰囲気の中、無事に授業が終了し休み時間となった。
俺はまたもや集まってきそうだった男子達に、職員室へ向かう旨を説明すると足早に教室を後にする。
廊下を歩いている最中、頭に浮かぶのは女子のことだ。男子との仲の良さは大事だけど、これ以上女子への印象を悪くは出来ない。一体どうするべきだろう。
「おい」
そんな時、何とも野太い声が耳に入る。
思わず視線を向けると、そこにはガタイの良い男と隣には友人らしき人が立っていた。そして、その太い眉毛に厳つい顔は見覚えがある。
(確か3年で、今年柔道部のキャプテンになった岩田先輩か)
一目でヤンキーにも見られかねない風貌は印象に残りすぎている。しかしながら、先輩が俺に何の用だろうか? どことなく、嫌な予感がした。
「お前、今朝電車の中で女の子に席譲ろうとしなかったか?」
今朝、電車……どの言葉も、今の俺には効果抜群だ。それに答えはイエスで間違いない。
「はぁ。正確には譲ったけど断られたんですけど」
「やっぱりお前か!」
「なんのことです?」
「さっき、妹から連絡が来た。京南高校の制服を着た人に席を譲ってもらったってな」
(あぁ、あの子か。けど妹? どう考えても顔が似ていないような……)
「聞いてんのか!」
「あっ、はい。つまりどういうことですか?」
「友達がすごい勢いで拒否しちゃって、申し訳ない。金髪ですごく格好良かったんだけど、お兄ちゃん知ってる? だと! この学校で金髪と言ったらお前しかいないんだよ。」
(はぁ……なんとも礼儀正しい子だな。いや待てよ? 本当に目の前の人と兄妹なのか?)
「そうだったんですか。実に礼儀……」
「お前、妹のこと狙ってんのか?」
「はい?」
「初対面で席譲るなんざ、下心でもなきゃやらねぇだろ? 確かに可愛いのは認めるが……妹に手出したらただじゃおかねえからな? 金輪際関わるんじゃねぇ!」
(えぇ……どうしてそうなるんだ?)
そう言い放つと、地響きでも起こりそうな足音を鳴らして、廊下を歩いて行く先輩。やっと階段へと消えて行ったかと思うと、今度は騒ぎを聞きつけた2年生達が廊下の様子を伺い始める。
ざわつく廊下。立ち尽くす俺。
(ちょっ、あれ? これって、俺がなんかやったみたいになってない? 最悪だよ)
体中に視線を感じながら、俺は1人職員室を目指して歩き始めた。
次話も宜しくお願いします<(_ _)>