19話 懐かしき昼休み
同好会発足を目指し、動き回った数週間。
色々なことが起こったものの、残るは顧問の先生を見つけるだけという状況になった。
正直、ここまでスムーズにことが運ぶとは思っても居なかった。
運はもちろんだが、様々な人の協力があってこその成果で間違いはない。
「とりあえず、ありがとな? 春葉」
「えっ、なに? 四季死ぬの?」
「縁起でもないこと言うんじゃないよ」
「いきなり柄にもないこと言わないでよっ! ふふ」
こちらとしては本心のつもりだったのに、冗談だと思われるのは結構辛い。突然そんなことを口にした俺が悪いのだけど。
(まぁ、いいか。それにしても、こんなに静かに弁当を食べるのも久しぶりだ)
天女目さんが同好会へ賛同をしてくれてから、皆が4組にお昼ご飯を持ってくることは多かった。しかしながら、良いのか悪いのか今は全員が揃うという日は少なくなっている。
その要因は多目的室の存在だろう。菊重との出来事で気になった4階の多目的室。端午先生に聞くと、汚くしない限りは、休み時間に利用しても構わないとのことだった。
それを受けて、同好会絡みで何かある時はストメで連絡し、休み時間に多目的室に集合するようになっていた。弁当を食べながらワイワイするのもいいが、どうしても雑談メインになってしまう傾向があった為、食事と打ち合わせを分けたことは結果的に良かった気がする。
とはいえ、全員が揃わなくとも誰かしらが一緒に昼を食べることが多かっただけに、今日の様な春葉と1対1という状況はかなり久しぶりに感じていた。
「とりあえず、あとは顧問の先生だけだ」
「顧問かぁ……端午先生は?」
同好会の話を聞きに行った時には、有無を言わさぬ形で拒否された。あの様子を見る限り引き受けてくれる可能性はゼロに等しいだろう。
「無理だろうな。その話をした瞬間に、速攻で拒否された」
「あちゃ~。うちのクラスの担任も陸上部の顧問やってるしなぁ」
「逆になんにも受け持ってない先生って居るのか?」
「端午先生に、英語の佐藤先生とか歴史の藤尾先生とかかな?」
(佐藤に藤尾……こう言っちゃあれだけど、必要最低限のことしかしたくないってのが、授業でも分かるんだよな。生徒からの印象も悪めだし)
「その2人、結構面倒くさそうな感じじゃね? しかも結構歳も……」
「逆に興味ない先生の方が、色々とやりやすくないかな?」
「興味ない先生が、興味のない同好会の顧問を引き受けると思うか?」
「それもそうだよねぇ」
春葉の言う通り、理想はああだこうだ色々言わない性格の先生が望ましい。ただ、現実としてそんな人がわざわざボランティアに近い同好会の顧問を引き受けてくれるとは考えにくい。
どれほど説得をするかにもよるんだろうけど、武器も無しに挑んでも端午先生の様に一蹴されるだけだ。
(佐藤と藤尾が熱量でどうにか出来る程の心を持っている様にも思えないしな。端午先生なんて話をしても断固拒否だった。となれば、顧問にならざるを得ない何かを提示するほかないか?)
そう考えるも、都合よくいく訳もない。ただ、現状めぼしい人選が3人だけとなると、誰かにお願いするほかなかった。
一体どうするべきか。何かいい案はないものか。
「まぁ、焦っても仕方ないよ。とりあえず、みんなで集まって候補を1人に絞ることから始めよう」
「そうだな。明日から3連休だし、今日の休み時間で空いてるかどうか連絡するか」
「はいよ~」
こうして各々にメッセージを送ると、再び弁当を口に運ぶ。
一瞬の隙にウインナーを強奪されたものの、そこは春巻きで手を打つことにした。昨日作った晩ご飯の残りらしいが、味はいつも通り美味しい。本当に春葉の料理スキルには感心する。
「そういえば3連休の予定は?」
春巻きの味を楽しんでいた時だった。春葉から3連休の予定を聞かれる。イケてる男子なら友達と遊んだりアクティブに過ごすのだろうけど、残念ながら俺の予定は真っ白。ここ数週間で蓄積した、身体的精神的疲労を回復させるにはもってこいの3日間だ。
「まったくないな。春葉は?」
「大きなもので言うと、お姉ちゃんが出るファッションショー見に行くくらいかな?」
「ファッションショーってとんでもないな」
「私と違って綺麗でスタイルも良いからさ? モデルとして輝いて見えちゃうよ」
春葉の姉、桐生院采彩は鳳瞭大学に通う大学生だ。現在は2年生で彩夏の1つ下になる。もちろん、俺の姉2人との仲も良い。
もちろん俺も普通に話をするし、普通に冗談も言い合える間柄ではある。それにどこか似たような雰囲気だと勝手に感じている。
(あのスタイルに金髪は、モデルとしても目立つよなぁ)
そう、春葉の姉である采彩さんもまた、生まれつき金髪だった。
全くの偶然なのだが、春葉のお母さんもまたハーフで、采彩さんはその影響を受けている。その容姿もあって、良い意味日本人離れしている姿はモデルという仕事に合っている。
春葉から言わせると自分も金髪の可能性があった為か、小さい頃はことあるごとに愚痴を言っていた。
そんな姉を春葉は尊敬してるし羨ましがっている。だが、俺としては采彩さんのスレンダーな体型よりも、春葉のボン・キュッ・ボンな体型の方が世の男子は好みだと思っている。
本人に言うとからかわれるのは目に見えている為、絶対に口にはしないけど。
ちなみに鳳瞭大学は、都内でも3本の指に入るほどの有名校だ。その規模はこども園から大学までが揃っている程で、学業や部活もレベルが違う。
京南高校も全国レベルではあるのだが、一歩劣っているのが現状。
そしてその鳳瞭は……俺と春葉が中学まで居た学校でもある。俺が京南に入った理由はさることながら、ほぼほぼ無条件で大学まで行ける環境を捨てた春葉には、やはり負い目を感じる部分はある。
さらには、同好会にまで手を貸してくれるとはおんぶにだっこ状態だ。
(ちゃんとお礼しないとな……あっ! そうだ)
「ん? どしたの四季? あっ! ミートソース口についてる!?」
「大丈夫。なんもついてない」
「良かったぁ~!」
「えっと、春葉? ファッションショーはいつだ?」
「えっ? 月曜の祝日だけど?」
「じゃあ、日曜日って空いてる?」
「特に予定はないけど……」
「駅前のデザートショップみるきぃのケーキバイキング行かないか? 今までのお礼もしたいから奢るぞ」
「えっ! いっ、いいの~? 四季?」
「こんぐらいしか出来ないもんでな? むしろ晩ご飯やら同好会発足の手伝いなんかも含めると、足りないくらいだ」
「わぁ~めちゃめちゃ嬉しい! 行く行く! 楽しみだな~!」
とりあえずのささやかなお礼を提案すると、思いのほか春葉は喜んでくれたようだ。
(喜んでもらえてよかった。とりあえず予約しとかないと……ん?)
善は急げとケーキバイキングの予約をしようとスマートフォンに目を向けると、1件のメッセージが届いていた。そしてその送り主は彩夏。晩ご飯のことかと思い、タップしてメッセージを読むと、その内容は全く違うものだった。
「四季?」
「ああ、ごめんごめん。彩夏から連絡来てさ?」
(なになに……えっ?)
「さやちゃんから?」
「あぁ……土曜日にライブハウスに行かないか? だってさ」
次話も宜しくお願いします<(_ _)>