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17話 作戦B決行

 


 なんとか理解を得られた昼休み。

 しかしながら、弁当の味がしなかったのは初めての経験だった。


 特にひどかった下塚さんも、とりあえずは俺の話を信じてくれたようだが、都度感じる圧力にも似たものは何なんだろう。

 そして原因の発端となった淫乱ギャルも、都度こっちを見ているのは気のせいだろうか。


 突き刺さる視線。

 勘違いの様な視線。

 両者と同じクラスだということに、ここまで残念な気持ちになるとは思いもしなかった。


(……まぁ、同好会発足が近付いたって考えると、とりあえずはプラマイゼロか)


 出来るだけポジティブな思考を頭に浮かばせながら、なんとか1日授業が終了となった。

 ふつふつと感じていた両者からの視線も、時間と共に薄れていったのはラッキーだ。


 とはいえ、安心している時間はない。

 クラスの面々が部活やらに向かい、一気に静けさ漂う教室。俺にはこれから、結構重要な一仕事が待っている。


「四季先輩~!」


 そんなことを考えていると、主役の1人がやって来た。


「おっ、悪いなクルミ」


 教室を訪れたクルミを隣の椅子へと招き、少し小声でこれから行う作戦を口にする。


「昼休みにも言ったけど、クルミには菊重さんと話をして欲しい」

「はい。一般的な雑談ですよね? それも自然な感じで」


 それは昼休みに、俺自らが提案したことだった。

 というより、あの場を切り抜けるための強引な一手と言った方がふさわしい気もする。




 必死の弁解にも、なぜか盛り上がりを見せた賛同者一同。

 詳細を問いただす人。

 ウキウキでその様子を傍聴する人。

 なぜか鼻血を出している人。

 もはや、てんやわんや状態だった。


『だから違うって!』

『いやいや、あの天女目さんの表情は本気でしょ?』


『とにかく違うんだって! そっ、それに今考えるべきはそんなことじゃないだろ?』

『四季~? ほかに何か重要なことあったっけ?』


『えっと、あれだあれ! 会計の菊重さんのことに決まってるだろ!』

『あぁ~確かに目を付けられたって言ってたもんね』


『とにかく、俺は天女目さんのいうようなことは1つも考えてない。それに今は賛同者が増えたことを喜ぶべきだ。さらに言うなら、現状問題となりそうな菊重さんへの対応を考えるべきじゃないか?』

『そっ、それはそうだけど……』

『確かに四季の言う通り、冷静に考えると今重要なのは菊重さん関連だよねぇ。何か考えがあるんじゃない?』


(ナイス春葉!)


『そうだな……』




 こうして提案したのが、クルミと菊重を絡ませることだった。

 前に聞いた話が本当であれば、クルミの知る菊重は結構笑顔で冗談も言える優しい先輩。

 しかしながら現状、そんな要素は1個も見当たらない。菊重と相まみえるからには、まず敵を知らなければならないだろう。先立つものは情報ということで、クルミに白羽の矢を立てた訳だ。


「先輩後輩の立場を利用して悪いけど、どうしても菊重さんの性格を知る必要があってな」

「大丈夫です。僕も皆さんが話す陽先輩の姿がちょっと信じられなかったので……そういう意味でも任せてください」

「分かった」


 そう話すと、俺は徐にスマホを手にした。


(えっと、下塚さんっと……生徒会室に菊重は居るかな?)


 この時間に生徒会室に居れば、下塚さんが何かしらの理由をつけて菊重を職員室へ向かわせるという、作戦Aを昼休みの内に計画していた。

 生徒会室と職員室は同じ2階。そして2年4組も同じく2階。棟は違えど、繋がっている道中でクルミが偶然を装って遭遇することが可能になる。

 問題は、現在菊重が生徒会室に居るかどうかなのだが、


(だめか)


 いつもならすでに来ているはずなのに、今日に限ってまだのようだ。

 生徒会室に来たら連絡をくれるよう下塚さんに連絡をすると、俺達はすかさず作戦Bの決行に動き出す。

 その内容は、とにかく探すというもの。


「まだ来てないみたいだ。とりあえず校舎内探すぞ」

「はい」


「お互い距離とらないとな。2人で居たらっていうか、俺が居たら塩対応になるのは間違いない」

「そうなんですか? 了解です。まずはどこに行きましょう」


(とりあえず、上から回るのがいいか。廊下から中庭を見下ろせば下の階の様子も併せて確認できる)


「4階から行くか。下の階の様子も確認できるし」

「分かりました!」


 こうして俺達は4組の教室を後にすると、近くの階段を使い4階へ向かった。あくまで帰宅中を装う為にその手には鞄を携え、出来るだけクルミから距離をとりながら後を追う。

 俺の方が先にバッタリ出会わないか心配だったものの、そんな心配も杞憂に終わった。

 4階へ続く階段の踊り場まで来ると、廊下へと足を進めるクルミを見送る。


 そしてしばらくして……クルミの声が耳に入った。


「あっ、陽先輩!」


(居たかっ!)


 ゆっくりと階段を上がり、廊下を静かに見渡す。すると10m程先にクルミと菊重が居るのが見えた。

 その表情も声もはっきりと分かる絶妙な距離での位置取りに、流石クルミと称賛する。


(あとはこの様子を観察するだけ)


「えっ? あぁ! クルミじゃん! 京南に来たって話は聞いてたけど、久しぶり~」


 まさかの同じ呼び方に少しばかり動揺する。それに少なくとも俺が見たことがない表情にも驚きは隠せない。


(あれ? マジでクルミの言う通りなのか?)


 そんな俺の予想通り、目の前の菊重は俺の知っている菊重ではないような雰囲気だった。


「てか、なんで4階に?」

「いやぁ、帰るついでに色々校舎を見学したいと思いまして。陽先輩はどうして?」

「昼休みにそこの多目的室で生徒会関係の書類眺めてたんだけど、つい忘れちゃってさ? まったくドジなんだよね。ははっ」


(多目的室って、ここB棟4階にある教室だよな? 多目的室はAからDまであるから、どこなのかまでは分からないけど……にしても、本当に菊重か?)


 それは見れば見る程、聞けば聞く程イメージから遠く離れる光景だった。

 言葉は優しく、かと思えば傾聴し、冗談を交えて自虐的なネタをも話す。あの赤縁生意気機械女はどこに行ったのだろうか。


「あっ、そろそろ生徒会室行かないと。話出来て嬉しかったよクルミ!」

「僕もです! お忙しいところすいませんでした」


「全然気にするなって! また話そう? 生徒会室来てもいいからね?」

「本当ですか? ふふ、お邪魔しようかな」


「歓迎するよ~? それじゃあ、またね?」

「はい! それではまた!」


 話が終わったと見るや否や、俺は階段の方へと身を潜める。すると、見事任務を遂行したクルミが戻って来た。

 その仕事っぷりを気に掛ける様な表情に大きく頷くと、クルミから満面の笑顔が飛び出す。


(流石だクルミ)


 こうして一仕事を終えた俺達は、ゆっくりと1階まで階段を下りて行く。その最中、話題は最高の結果もたらしたクルミのことだった。


「それにしても、良い場所で引き留めてくれたな」

「運が良かっただけですよ」


 なぜか謙遜するクルミ。昔からの性格はやはり早々変わるものではないとつくづく思う。となると、同時に感じたのは菊重の姿だった。


「今日だけは素直に喜んでおけって。それにしてもクルミの言う通りって感じだったな? 菊重さん」

「僕としてはあれが陽先輩の姿だと思ってましたから、変わってなくて安心しました。疑う訳じゃないですけど、四季先輩が言っている姿の方がイメージ湧きませんもん」


「そりゃそうだろうな。どっちが本当の菊重さんか訳が分からん」

「でも、これで少しは同好会の役に立てましたかね?」

「十分すぎるだろ」


 クルミの言う通り、菊重の情報収集という点については、実に参考となる光景だった。正直クルミありきの作戦ということも含めて、今度何かしらのお礼を考えておくべきだろう。


「嬉しい限りです。って、あれ? 四季先輩、鞄どうしたんです?」


(鞄? あれ?)


 クルミの言葉に思わず体を見回すと、さっきまで肩にかけていた鞄がないことに気が付いた。

 教室を出るときは確かに持っていたはず。その後の行動を思い出すと、思い当たる場所が1つ浮かんだ。


(4階の階段か?)


 クルミと菊重のやり取りを眺めていた時、鞄を置いたのかもしれない。


「やっば、4階に置いてきたかも。玄関で待っててくれ」

「は~い」


 俺はクルミにそう言うと、ダッシュで階段を駆け上がる。

 流石に1階から4階まではそれなりに段数も多く、結構キツく感じる。少し息を乱しながらも到着すると、俺の鞄はポツンと床に置かれていた。


(やっぱりか。よいしょっと)


 こうして鞄を肩に掛け、階段を降りようとした時だった。不意にさっきの菊重の言葉が頭を過る。

『昼に多目的室で生徒会関係の書類を眺めていた』ということは、休み時間に多目的室を自由に使っても良いということだろうか? 

 もしそうなら、同好会についての話し合いも、わざわざ4組の教室で昼にこだわる必要もなくなる。発足までの活動場所として最適じゃないだろうか。


 そう考えると、4階の空き教室に魅力を覚え始める。もしかすれば多目的室の他にも、生徒が自由に使える穴場があるのでは? そう思い、俺は4階の廊下へと足を進めた。

 クルミ達が話をしていた方へ進みながら教室を眺めていくと、多目的室がAから順に続いているのが分かる。おそらく1番端がDなんだろう。目立たなさを考えると、そこが1番好ましいのは間違いない。

 その候補ナンバーワンの多目的室に近付いた時だった。なぜか扉が開いているのに気が付く。


(ん? 扉が開いてる?)


 少しばかり疑問が残る状況に、恐る恐る中を覗いた時だった。そこにいたのは、こちらに背を向け床にへたりこむように座って居る女子生徒。

 そうそう見ることもない姿に一瞬戸惑う。ただ、あまりの力の抜け具合に、もしかすると体調が悪いのではと焦った俺は、とにかく声を掛けようと多目的室へ駆け込んだ。


「あっ、あぁぁもう~! やっぱり、くるみんきゃわい過ぎぃ! 久しぶり過ぎて爆発しちゃうってぇ~」

「だっ、だいじょ……」


(はい?)


「めっちゃくちゃ抱きしめたぁ~い! ぎゅってしたぁい! そんであんなことやこんなこと…………えっ?」


 自分で自分を抱きしめながら体をねじり、こちらを振り向いた人物。

 それ紛れもなく……菊重だった。



次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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