16話 賛同者第4号?
なんとも騒々しかった昨日。
それに比べると、今日はとんでもなく平和な時間が訪れていた。
心地良い風を浴びながら、ふと外を見ると小鳥達のさえずりがどこからともなく聞こえてくる。
まさに春。
忘れていたけど世間では、今だ新生活に右往左往しているそうだ。
あまりの激動加減に、もはや何も感じていない自分が悲しく感じる。
とはいえ、昨日危惧していた岩田先輩は乗り込んで来てはいない。おそらく、菊重からも厳しい監視はされていない。
それに天女目さんも、普段通りの雰囲気で朝はいつものメンバーらと談笑していた。
天女目さんについては、登校の道中で春葉にはきちんと説明をしている。
それと比較的早い時間に登校してくる下塚さんへもバッチリ相談済みだ。事情を説明し、部活の兼任うんぬんについても聞いてみると、彩夏の言う通り原則として兼任を認めない等の校則はないらしい。
とにかく、本日はそういった件も含めて、お昼休みに集合することになっていた。
(でもなぁ……なんかこういうのほほんとした雰囲気って久しぶりだよな)
「おい井上? 授業中にボーっとするとは良い度胸だな」
冷たい端午先生の声も、今日ばかりはどこか温かく感じる程の和やかな1日だ。
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「いえーい。やっほー」
そう思ってました。
予定通り、お昼休みに集合した賛同者一同。
クルミにもストロベリーメッセージZ、通称ストメで連絡をしていたこともあって、首尾良く同好会発足に向けた話し合いができると思っていた。
そんな矢先に登場したのが天女目さんだ。
「やっぱりー集まってると思ったー」
「やっほ。夏季!」
「あっ、天女目さん」
「はっ、始めまして」
朝から大人しかっただけに、完全に油断していた俺は一抹の不安を感じていた。
(まさかこの人数を前に、あのことを口にしないよな?)
普通であればあり得ない。そう普通ならば。
目の前に居る天女目さんは見た目も相まって、男子生徒からそういった目で見られているのは事実。そもそも男子高校生の会話の半分は下ネタで出来ているのは全国共通だろうけど……もれなく話の話題には挙がっていた。
とはいえ、いくらそんな想像をしていても、実際にそんなことをされたら誰でも驚くはず。ましてや、目の前の女子2人と男の娘ならなおのことだ。
しかし、そんな不安をよそに天女目さんは話し始めた。
「えっとー井上にも言ってたけど、アタシも同好会入るよー」
(さっそく本題来たぁ!)
もちろん春葉と下塚さんには説明済みだ。クルミにもついさっき話はしたものの、実際に会うのは初めてだろう。
しかしながら、このまま主導権を握らせる形で話をしても良いのだろうか。そんな戸惑いの中、春葉が助け舟かのように返事をした。
「本当~? ありがとうね夏季!」
(よし。細かいことはどうでも良い。このまま、『じゃあよろしく頼む』で解散すれば万事OKだ)
「話は聞いてるよ。たしか天女目さんは茶道部だったよね? 部活と同好会の兼任はもちろん、2つの部活の掛け持ちも校則的には大丈夫だし、これからよろしくね」
「あっ、貴方が天女目さんですね? 僕は1年の胡桃沢冬真と言います。これからよろしくお願いします!」
「1年かー綺麗な顔してるー。とりまー春葉と秋乃。冬くんに……井上? よろしくねー」
最後、どこか含みを持たせるような言い方だったのは気のせいだろうか。とにもかくにも、とりあえず問題なくこの場は収めることが出来たことに安堵……
「そういえば、どうして夏季はボランティア同好会に入ろうと思ったの?」
したのは一瞬だった。
カウンターの如く炸裂する、春葉の言葉。
確かに一般的には疑問に思う点ではある。そこに関して言えば春葉は全くもって正常で、非の打ちどころはない。
「そういえばそうね? クラスでの話が聞こえてきたからとか?」
更に追い打ちをかける下塚さんの質問。
こうなれば、流れ的にその理由を話すのが道理。俺はもはや天女目さんに願うほかなかった。
「えー? だってー」
(たっ、頼む! 空気を読んでボランティアに興味があるとか、無難な回答してくれっ!)
「一緒に居たら、その分井上とヤれる時間増えるって思ってさー。だって井上ー、全然ヤラせてくれないんだもーん」
(終わった……)
「ヤれる?」
「うん?」
「なっ……ななっ!」
いかにもという表情で俺を見る天女目さん。
疑問を浮かべる春葉とクルミ。
対して、何かを察したような下塚さん。流石妄想癖で色々と経験してきただけのことはある。その一文が何を意味しているのか分かるようだ。とはいえ、今は空気を読んでもらって嬉しい場面ではない。
「えー? 男と女がヤるって言ったら、1つしかないっしょー。エッ……」
「ちょっ、ちょっと井上くん!?」
「へっ? それってまさか……キャ」
「あわわ……」
そして教室内は地獄絵図と変わる。
なんとか全てを言わせない様にしたのか、天女目さんの言葉を遮った下塚さん。
(鬼の形相で俺を睨むのはやめてくれ)
流石に察した春葉は、なぜか机に手を乗せて前かがみになり俺を見ている。
(いや、なんでそんな目がキラキラしてるんだよ。意味が分からないぞ)
そしてクルミは、手を口にあて顔がもうゆでだこ並みに赤くなっている。
(その反応は、もはや女の子なんだって)
そして舌なめずりをする天女目さん。正直、この人に期待したのがダメだった。そして確信する。
この人は正真正銘の淫乱ギャルだと。
とはいえ、4人に注目されている状況は非常にまずいと思い、とにかく反論しなくてはと口を開く。
「ちょっと待て。だからそんな気はさらさらないって言っただろ」
「こうやって、放置プレイするんだよー? そそられるっしょー?」
「ほほほっ、放置プレイ!? べっ、別に個人間の問題に口を挟むべきではないけど、ずる……いや、学校でそれは許しませんよ!」
何やら下塚さんの本音が垣間見えたような気がしたものの、俺の心証は悪いままだ。
「だから違うって!」
「それにー超絶テクニシャンって噂じゃーん? 女泣かせの異名を肌で感じたくて―」
「しっ、四季? 知らない内にそんなに経験豊富に? やっぱり噂は本当だったのっ!?」
その言葉とは裏腹に、春葉がなぜか期待しているかの様な眼差しをしているのはどういうことなんだろう。
「全くもってあり得ないから!」
「それ経験できるならー、同好会も全然ありってカンジなんだよねー」
「あわわわわ」
そこら辺の女の子よりも、女の子の反応をしているクルミは色々と大丈夫なんだろうか。
「まっ、そゆわけだからーよろしくねー。それじゃ学食行ってきまー」
そう言うと、何食わぬ顔で教室を後にする淫乱ギャル。
そんな背中を、俺はただただ見守ることしかできなかった。様々な視線を浴びながら。
結局、散々3人に説明をし、お昼時間が潰れたのは……言うまでもない。
ボランティア同好会発足まで、あと顧問の先生1人。
次話も宜しくお願いします<(_ _)>