13話 賛同者第3号
「うわぁ~! 冬ちゃんだ!」
「お久しぶりです! 春葉先輩」
なんだか騒がしさ漂う教室。
もはや定番となったお昼休みの時間帯に、新たな客人が増えた。
「先輩なんてやめてよぉ。昔みたいに名前で良いからっ」
「本当? じゃあ、改めて春葉ちゃん!」
今朝話した通り、お昼に4組へとやってきたクルミ。もちろん春葉ともこども園時代には面識もあるし、良く遊んだ仲ということもあって、お互い感じるものがあるんだろう。
それにしても、なぜ春葉は昔みたいに名前呼びで、俺は堅苦しい先輩呼びのままなのか。その理由は不明だけど、変に突っ込んでこの雰囲気を壊す必要はないだろう。
(とりあえず、お昼食べませんかね?)
そう思い、とりあえず前の席と俺の席をくっつける。流石に4人となると机1つじゃ狭くて無理だろう。学食に行っている前席の田中に感謝をしつつ、各々のお昼ご飯を机に並べる。
もちろん、例の如く下塚さんも一緒だ。あれ以降、同好会の話をする為にちょいちょいお昼を一緒に食べる関係になっている。
「おっ、クルミはパンか」
「はっ、初めまして! 胡桃沢冬真といいます」
「初めまして。下塚秋乃です。てか、ホントに男の子? いや、髪肌綺麗すぎじゃない?」
「でしょ~? 小さいころから可愛いんだよぉ?」
(なんだろう、既視感のある光景だ。俺の話はチリとなって消えてしまったよ)
「そんなことないですよ。春葉ちゃんは相変わらず可愛いし、下塚先輩はお綺麗です」
「へへっ。冬ちゃんに言われると照れるなぁ」
「えっ、ちょっと? 春葉だけ名前呼びってずるくない? 私も名前で良いからねっ?」
「えぇ!? じゃあ、秋乃さん」
「うんうん! やっぱいいねぇ」
「ふふふっ」
(あの、食べても良いですかね?)
完全にいつぞやと同じ状況を目の前に、お先に弁当を食べ始める。もちろん、いつぞやと同じようにお叱りを受けたものの、4人となったお昼時間は今まで以上に楽しい雰囲気だった。
「そういえば四季先輩? 同好会作ろうとしてるって本当ですか?」
「ん? 1年にもその話広まってるのか?」
「はい! あのチャラ男が何か企んでるって、噂になってました」
(チャラ男が企んでる? おいおい、1年での俺のイメージ、マジでどうなってんだよ)
「流石四季だねぇ」
「流石井上君ね」
「嬉しくもないけど、ありがとうよ」
クルミの話から、現状3年生と1年生の俺に対するイメージはまさに噂通りだと確定した。となると、チャラ男が企む同好会に、1年生が入る可能性はほぼゼロだろう。
可能性が半ば潰えたことに落胆している時だった。
「あの、その件なんですけど……僕で良ければ協力したいです」
その一声に、俺も含めた3人の顔が気持ち良いほど晴れる。
「えっ? それって冬ちゃん?」
「同好会に入ってくれるってこと? 冬君!」
「マジかよ!?」
「はい! 特に部活に入ることは考えてなかったんですけど、先輩達が同好会作るなら話は別です。是非協力させてください」
それは今の俺達にとって、もっとも嬉しい言葉だった。
待望の3人目の賛同者。これで残りは1人とあって、同好会発足が一気に目の前に現れる。
正直、ここからは辛抱強く探すことを考えていただけに、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
「えっと、じゃあ……協力してもらえるか?」
「はい! 四季先輩」
こうしてなんとも感嘆に満ちた雰囲気の中、お昼休みは過ぎていった。
下塚さんと春葉はクルミとの話に花を咲かせ、俺は俺で何とか会話の隙間に話題を突っ込み、2人から冷ややかな対応をされたり、それを見て爆笑するクルミ。
正直、同好会が出来れば毎日こんなやり取りが出来るのかと思うと、少なからず胸が躍る気がした。
春葉の何気ない話題を聞くまでは。
「そういえば四季? 今朝の岩田先輩の話って何だったの?」
「えぇ? また呼び出されたの? 井上君?」
それは今朝の出来事の話だった。もちろん春葉は俺が岩田先輩に呼ばれたのを知っているけど、そのまま先に教室へ行ったことで、詳しい話の内容は知らない。詳細について疑問に思うのは当然だった。
ただ、俺は岩田先輩の名前を聞いて、真っ先に思い出したのは別の人物のことだ。そう、あの生徒会会計の菊重陽。
幸いここには下塚さんが居る。話をするタイミングとしてはバッチリだ。
「あぁ、そのことなんだけどさ? 実は岩田先輩よりも厄介な人に目をつけられた」
「だれだれ~?」
「もしかして、陽?」
(……正解だよ下塚さん)
「陽って、生徒会会計の菊重さん?」
「そう。事前に生徒会の皆には、井上君が同好会を作ろうとしてるって話はしてたの。でも、その時陽の表情が固かったから……正解?」
「あぁ、正解だ」
それから俺は、今朝の出来事を皆に話した。岩田先輩との出来事はもちろんだけど、重点的だったのは菊重陽との一幕。
先輩との現場を見られ、宣戦布告ともとれる言動と監視をするという宣言。同好会にとって、大きな関門になるのは間違いない。
「なるほど、こりゃまた人気者だね? 四季」
「全くありがたくないけどな」
「まさか、陽がそこまで気にしていたとは思わなかった」
(流石に下塚さんも想定外だったか)
「とにかく、下塚さんは板挟み状態になっちゃうかもしれないけど、なんとか頼む」
「大丈夫。こっちは同好会としての必要性をアピールするだけだから。むしろ今後の……部にする時には骨が折れそうね」
「お願いね? 秋乃?」
「あの~会計の菊重陽さんって、赤縁眼鏡でショートカットの菊重陽さんですよね?」
(ん? クルミの奴、菊重さんのこと知ってるのか?)
「特徴的にはそうだな」
「あぁ、じゃあやっぱり陽先輩だ」
「陽先輩って、冬ちゃん知ってるの?」
「えっと、小学校中学校の先輩です」
「まっ、マジか!?」
「はい。でも、僕のイメージだと結構笑顔で、優しい先輩って感じなんです。というより、現に話やすい人でした。冗談も言ってくれますし」
「確かに私達と話す時は、くだけた話もするけど……結構笑顔で冗談とかは……」
「そっ、そうなんですか?」
それは思いがけない話だった。
クルミと菊重陽は小学校からの先輩後輩。そしてクルミが言うには、笑顔が多く話易い優しい先輩。
正直、今朝のあの姿からは想像もできない。
(まぁ、この1年で変わってしまったということもあり得る。人って少しのきっかけで変わるからな)
少しだけ、中学時代を思い出してしまう。
何気ない噂1つで人の心象は変わるものだ。もしかすれば菊重陽にも何かがあった可能性もある。
「まぁまぁ、とりあえずさ? 今は待望の4人目の賛同者が来てくれたことを喜ばない?」
(……春葉の言う通りだな。喜ぶ時には喜ばないと。それに過去を振り返っても、何も生まれないしな)
俺は春葉へと視線を向ける。するとそれに気が付いた春葉と目が合い、笑顔を見せながら大きく頷いた。
その表情に、俺も小さく頷く。
「そうだな。とりあえずクルミ、これからよろしくな?」
「よろしくぅ、冬ちゃん!」
「よろしくね? 冬君!」
「はっ、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
ボランティア同好会発足まで、賛同者残り1人、顧問の先生1人。
次話も宜しくお願いします<(_ _)>