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12話 男の娘、来訪

 


 見た目は女子、服装は男子。目の前に立っているその子は、まさに男の娘という表現が相応しい。

 しかしながら、さっきの言葉通りなら俺は過去にこの子と会っているそうだ。


(ここまで印象的なら、覚えているはずなんだけど)


「あっ、突然すいません。自己紹介がまだでした。僕の名前は胡桃沢(くるみざわ)冬真(とうま)といいます」


(胡桃沢……冬真……ん?)


 その姿にはいまいちピンとこなかったものの、その名前にはどこか聞き覚えがあった。ただ、その記憶に残るのはかなり小さい頃のもの。果たして事実だったのか、勘違いの妄想なのか判断ができない。


(なんかこども園時代に、クルミ! って呼んでた子が居た気がする)


 ただ、もし間違っていたら非常に気まずい雰囲気になるのは目に見えている。回答には慎重にならざるを得なかった。


「胡桃……沢……」

「はい! あと、この絆創膏……見覚えないですか?


 俺の表情に流石に不安が募ってきたのか、目の前の男の娘はポケットからあるものを取り出した。そして目の前に見せたのは、可愛い猫が書かれた絆創膏。

 そしてその絆創膏と俺の知るクルミと呼んでいた子には、間違いなく通じるものがあった。


(まてよ? その絆創膏……もしかしてマジか?)


「えっと……もしかして、こども園で一緒だった?」

「えっ!?」


 その瞬間、とんでもない笑顔を見せる男の娘。その表情に正解だったのだと確信する。


「クルミだろ? 1つ下で、良く遊んでた!」

「はぁ……うっ、嬉しいです! 覚えていてくれたんですね」


(いや、その感動してる姿はマジで女の子なんだよな)


 彼の名前は胡桃沢冬真。1つ下で、こども園の時に仲が良かった子だ。

 こども園時代、俺は良いのか悪いのか性格はまさに今のままという感じで、むしろ人目を気にしなくても良かったということもあって、今よりもっと目立っていたかもしれない。

 先生方から要注意園児認定されていたのを知ったのは、卒園してからだったけど。


 そんな俺と違って、胡桃沢……クルミは小さいころから性別を言われなきゃ女の子に間違われるくらいの容姿。性格もおとなしくて……でも、それが災いして、男女と男子からイジられていた。


 外で遊ぶより、おままごとやそういう遊びが好きだったっていうのもある。それにクルミは常に絆創膏やらをポケットポーチに入れていて、その様子も男子からは格好の的だった

 俺はそれが気にくわなくて、そういう現場に遭遇したらいつも間に入っていた記憶がある。今思えば、自分も髪の色が違うし、人と違うからと言って色々と言われてる光景が嫌だったんだと思う。


 そんなこんなで、クルミは俺に対して良いイメージを持ってくれていたのか、一緒に居る時間が多かった。もちろん女子と一緒にままごとに付き合ったこともあるし、時には男らしく遊具でも遊んだ。


 それに今でも覚えているのが、ある男子が遊具から落ちて怪我をした時のこと。

 膝から血が出て泣いている男子を前に、皆は茫然としていて……俺はとりあえず先生を呼びに行った。そして現場に戻ってきた時に、その男の子の膝には絆創膏が貼られていた。猫が描かれた絆創膏が。


 クルミは持っていた消毒液やら絆創膏を使って怪我の処置をしたんだ。とっさだったのにも関わらず、凄いと思ったよ。

 それにそう思ったのは俺だけじゃなかった。その光景を見ていた男子からは驚きと、賞賛の声が巻き起こって……その日以来、クルミがあれこれ言われることはなくなった。


 ただ、俺が小学校に入り、次の年にはクルミも同じ小学校へ来ると思っていたのに……クルミの姿はなかった。同じこども園だったやつに聞くと、引っ越しをしたとの話で、俺としては最後に何も言えずにお別れしたことになる。

 そんな、正直もう会うことはないと思っていた人物が目の前にいるのは……不思議な感覚だ。


「正直、忘れかけてたけどな? 何も言わないで引っ越す奴だし」

「そっ、その点についてはすいません! 何分急だったので……申し訳ないです」


「まっ、冗談だ。また会えて嬉しいよ」

「ぼっ、僕も嬉しいです。まさか本当に先輩が京南にいるなんて!」


「ん? 本当にってどういうことだ?」

「はい! なんか入学前から、京南には金髪がいるって噂がありまして」


(なっ、なに?)


「噂……?」

「とんでもないチャラ男で、もはや伝説のプレイボーイだとか、狙われたらひとたまりもないだとか……」


(まてまて? この近隣の中学校でも噂になってたってこと? 嘘だろ……)


「あの、クルミ?」

「えっ? あっ、はい?」


「よく分かった。だからその話は一旦止めよう」

「話……あっ! すいませんすいません! 決してそういう意味で言ったんじゃ……」


 クルミの性格は良く知っている。耳に入ってきた噂を、言葉のままに言ったまでだろう。それこそクルミの俺に対する印象がそれだったら、わざわざ話し掛けに来ないはず。


「知ってるよ」

「良かった……僕は、先輩の噂なんて信じてませんから」


 そう思ってくれる人が1人でも居ると分かるのが、ここまで嬉しいとは思いもしなかった。朝から続く不幸を考えれば、クルミの存在が甘味の如く体に染み渡る。


「さんきゅ。とは言え、本当に久しぶりだよ。とりあえず、またよろしくな?」

「はいっ!」


 こうして俺達は、軽く雑談を交えながら校舎へと歩き始める。


「そういえば、春葉も居るぞ?」

「えぇ! 春葉先輩もですか!?」


「昼休みに教室来れば良いぞ。俺と春葉、弁当派だから」

「さっそく今日お邪魔しますっ!」


 久しぶりの再会を楽しみながら。


「それにしても、なんで先輩呼びなんだ? 昔みたいに、普通に名前呼びで良くね?」

「そこはまぁまぁ、先輩って言いたいんですよ」


(そんなもんなのかね)



次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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