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11話 目をつけられたチャラ男

 


「さぁて井上、俺がなんでお前を呼んだか分かるか?」


 1週間の中で、間違いなくテンションワーストワンの月曜日。しかもその朝っぱらから、なぜか俺はまた岩田先輩に呼び出されている。それも体育館裏という悪いことが起きそうな場所のおまけ付きとあって、気分は最悪だ。


(今度は一体何なんだ? それも朝の登校時間に呼び出すのは止めてくれよ)


 春葉と登校している最中、玄関前で待ち伏せていたかのように登場した岩田先輩。しかも『うぉぉい、井上ぇぇ! てめえちょっとこぉぉい!』なんて大声で近付いてきたもんだ。周りの皆はドン引きしていた。

 春葉は暢気に挨拶してたけど、とりあえず先に教室に行ってもらった。

 それにしても、この1件でまた噂が広まりそうだ。今は大事な時期だというのに、本当に止めてもらいたい。生徒会やら先生方に目をつけられたら色々と支障が出そうだ。


「おい! 聞いてんのか?」


(っと、今はとりあえず話聞いて、適当に退散しよう)


「すいません。それで何でしょう?」

「お前、この前俺が言ったこと忘れてないよな?」


「この前……妹さんのことですか?」

「ほう。覚えていたか。いや、覚えていてなお、妹にちょっかい出しやがったな?」


「ちょっかいとは?」

「とぼけんじゃねえよ! お前昨日ナンパから女の子助けたよな? 俺の妹を!」


(はぃ? そもそも、岩田先輩の妹さんってあの電車で席譲ろうとした子だよな? やばっ、あれから色々ありすぎて、正直顔なんて忘れちゃってたんだけど……昨日のあの子か? いやっ、だとしたらなおさら顔似てなさすぎでは?)


 目の前のゴツイ男と、昨日の女の子が血縁関係という事実に衝撃を受ける。それと同時に、助けたことを知っているのなら、なぜこんなにも鬼の形相をしているのか理解が出来ずにいた。


「そうですけど……」

「妹がお礼を言いたいそうなんだがな……俺は騙されんぞ?」


「騙されない?」

「てめえ、最初にナンパしてきた奴らとグルだろ!」


(……えぇ!?)


「いやいや、何言ってんですか?」

「ピンチを助ければ、好感度は上がる。妹に良く見られたくて、全部お前が仕組んだんだろ? この卑怯者め!」


「だから、そんなことする訳ないじゃないですか!」

「いや。お前ならやりかねん。いや、すでにやった。いいか? これは最終警告だぞ? これ以上妹に手を出すな。興味を出すな。分かったか!?」


 そう言い残すと、地震が起こっているかのような足音を鳴らして、先輩は校舎へと行ってしまった。

 妹を持つ兄とは全員あんな感じなんだろうか? 岩田先輩はシスコンと呼ばれる人なのだろうか?

 とにもかくにも、そのトンデモない思考に朝から疲れ果ててしまった。


「はぁ……」

「へ~。やっぱりチャラ男はやることが凄いんですね」


 それは、突然聞こえてきた声だった。

 しかもその方向は、上辺り。疲弊したまま何も考えずに視線を向けると、2階の窓からこちらを見下ろす人影を見つける。

 次第に鮮明になるその姿は、今の状況で1番遭遇してはならない人物の1人だった。


「菊重……さん?」


 菊重陽。生徒会会計で、俺がもっとも気を付けていた人だ。


(うわっ、最悪)


「秋乃が新しい同好会の話をしていたから、気になっていたけど。やっぱりあなたを監視しておいてよかった。そもそも、あなたが発起人という時点で何か裏はあると思ってたし、それが確証に変わった」


 赤縁眼鏡と、そのどこか冷たい話し方。まぎれもなく菊重陽本人で間違いはなかった。そして話を聞く限り、さっそく下塚さんは生徒会で話題にしていてくれたらしい。まぁ、今となっては逆効果になってしまったようだ。

 流石の下塚さんも、菊重さんが俺を監視するのは想定外だったはず。それにしても最悪な場面を見せてしまったものだ。

 とはいえ、下手に動揺でもしたら本当にそういうことをしたと思われる。時すでに遅しだが、ここは一旦、冷静に対処することに決めた。


「あっ、えっと……生徒会の菊重さんだっけ? おはよう」

「挨拶とかいいから。まぁ今の私は、噂は本当だったということが分かって機嫌が良いから許してあげる」


「いやだな、あれは岩田先輩の勘違いだって。妹さん助けたのは本当だし」

「全く説得力がない。そもそもあなたのことは嫌だったし、今日でもっと嫌になった。同好会についても、秋乃には悪いけど否定的にいかせてもらう。監視もバッチリするし、部にしようものなら絶対承認なんてさせないから。じゃあね? せいぜい頑張って、チャラ男」

「あっ、あはは」


 まるで捨て台詞の様な言葉を吐いて、颯爽とその場を去る菊重さん。その雰囲気は、俺の想像をはるかに超えるアンチそのものだった。


(いやぁ……言葉きっつ! なにもあそこまで言わなくても良くない?)


 そんな背中を見送ると、今後の同好会ひいては、部への昇格に向けて大きな壁が立ちはだかったことに落胆した。

 そして思わずため息をつきながら、俺は重い足を引きずりながら校舎へと戻って行く。


(いやぁ……なんて1週間の始まりだよ。そもそも、発端は岩田先輩じゃねぇか! 大体、あの人とあの子が兄妹だなんて、信じられないぞ? あのデカ眉毛だぞ?)


「あっ、あの……」


 そんな理不尽さを心の中で嘆いていた時だった。またもや誰かに呼び止められる。

 もはや、この流れで決して良い人ではないと断言できた俺は、ゆっくりと視線を上げる。するとどうだろう、目の前に立っていたのは、あのガタイの良いデカ眉毛先輩でも、黒縁生意気機械女でもなかった。


(……ん? 女? いや男?)


 体の線は細く、身長はやや小さい。肩にかかりそうな髪の毛に、前髪からのぞかせる大きな目。そしてその顔は女の子特有の雰囲気にも見える。ただ、不思議なのは……俺と同じ男子の制服を着ていることだ。


「ぼっ、僕のこと……覚えてますか?」


(…………男の娘!?)



次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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