10話 走るチャラ男
(やばい、やばい)
とある休日、俺はとにかく急いでいた。
前々から言われていて、つい昨日も口酸っぱく言われていただけに遅刻だけは免れたい。その一心で、改札を勢いよく抜けていく。
(はぁ……はぁ……よりによって、最寄りの駅から距離があるんだよな)
俺が今向かっているのは、都心のとある映画館だ。しかしながら丁度駅と駅の間に佇む立地上、どこから降りても距離があった。
そして待ち合わせの相手は姉の彩華。なんとなく遅刻を恐れる理由が分かるのではないだろうか。
彩華の性格上、こういう待ち合わせには結構厳しい。
それに加え今日は、彩夏が働いている会社が関係している映画の試写会。井上家では各々予定があるということで、唯一の招待客が俺という訳だ。
つまり、ただでさえ遅刻はNGに加え、もしかすると彩華のメンツにも関わる非常事態。
死んでも遅刻は出来ないのだが、昨日……いや数時間前の自分を責めたい。
絶賛プレイしているアプリゲームで、夜中にまさかの緊急ミッション。それも達成報酬がとんでもなく優れ物とあって、やらずにはいられなかった。結局遅くまで起きていた結果、寝坊という醜態を晒している。
(寝坊とかやっちまった。でも、こればっかりは告知なしにミッションを出したアプリ側が悪いだろ!)
なんて愚痴が絶え間なく浮かんでくるものの、刻々と約束の時間は近付く。とにかく、どうにかこの人波を素早く躱して行けるように集中した方が良い。
(休みだけに人多いな。えっと、近道使うか)
基本的に大通りには人が多い。ただ、1本でも逸れた脇道は慣れた人しか使用しない為、一気に人通りが少なくなる。
それは休日であろうが変わらない。人の間を縫いながら小道へと曲がると、開けた道がお目見えする。
(よっし!)
とにかく、この道をまっすぐ行けば結構な時間短縮は間違いない。
走る速度を上げながら、目的地へと意識を向けていたその時、不意に少し先に見えるコインパーキングが目に入る。それほど大きくもなく、立地も立地の為に利用している台数も少ない。だからこそ、それは余計に目についた。
自動販売機前に立つ男達と、1人の女の子。その構図的にいささか嫌な予感を感じる。
とはいえ、早とちりで余計なことに首を突っ込むのは、今の状況だとご法度だ。とりあえず近くを通るまで様子を見ることにした。
(えっと、見た感じチャラそうな男2人に女の子。男の方は見た目通りイケイケな感じで話し掛けてるな)
「なぁ、いいだろ? 遊ぼうぜ?」
「そうそう。とりあえずご飯行こうって言ってるだけじゃん?」
(けど、女の子の方は引いてないか? いや、そうと決まった訳じゃないか)
「だっ、だから、友達と待ち合わせしてるんです」
(決定的じゃないか!)
「いやぁ、でも俺達も君みたいな可愛い子ほっとけないのよ? 大学生? 高校生?」
「じゃさ? その友達も一緒に遊ぼうよ? ね?」
「いっ、嫌です」
しばらく様子を見ていても、会話と雰囲気からナンパで間違いはないようだ。
知り合いであれば助ける選択肢が一早く出るものだけど、女の子の方は見覚えのない全くの他人。
もちろん、例えそうでも助けるべきだとは思うけど、この一刻も争う状況で足を踏み入れるべきなのか。
「友達が待ってるので、失礼します!」
「おっと、待てって」
「そうだって。話ちゃんとしようよ」
「いっ、痛っ。離して!」
きちんと断りを入れて、場を去ろうとする女の子。その手を掴み妨害する男達。
そんな光景を目の当たりにした瞬間、答えは決まった。
(くっそ。見て見ぬふりなんてできないだろっ!)
そうと決めると、俺は駐車場の中へと足を進め、3人へと近付く。正直、完全な勢いで来てしまった為に、どう対応するのが良いのかは分からない。
(とりあえず、彼氏のふりしてこの場を離れるのが1番か。ふぅ……)
結局選んだのは、なんともベターなものだった。
「あっ、こんな所居たの~?」
俺の声に3人の視線が向けられる。
「はぁ? 誰?」
「俺達今忙しいんだよね?」
男達の反応はある意味想像通りだ。となれば、こちらも漫画やドラマであるようなテンプレートを実施するだけ。
俺は女の子の横に立つと、さも本当のことかの様に振る舞う。
「いやいや、誰って……この子の彼氏なんだけど?」
(頼む! 察してくれよ? 女の子)
そんな俺の表情を見ている女の子。その真っ直ぐな目は俺の意図を汲んでくれたのだろうか。
「はぁ?」
俺をマジマジと観察し、本当に彼氏かどうかを判断しているんだろう男達。その一瞬、女の子から意識が逸れたはチャンスだった。俺はすかさず女の子へ声を掛ける。
「じゃあ、行こうか?」
考える間を与えずに行動する。戸惑っている間にこの場から去る。
その為には、女の子の理解が必要だ。
「あっ……うっ、うん!」
(ナイス! 女の子!)
こうなれば、ほぼほぼこの場から去る準備は整った。そして最後に、まるで本当のカップルの様に思わせる必要がある。
俺は女の子の目を見ながら頷くと、そっと手を握った。一瞬、女の子は驚いた様子を見せたものの、流石さっきから察するのが上手い子だ。すぐに握り返してくれた。
あとは出来るだけ優しく手を引いて……歩いていく。
男達は気にしない。
俺達はカップル。
今日はデート。
心の中で何度もつぶやきながら、なんとかコインパーキングを後にする。幸い男達が追ってくる様子はない。
そこで俺は小声で女の子に話し掛ける。
「急に手握ったりしてごめんね?」
「ぜっ、全然です」
「とりあえず、あいつらから見えなくなるまで我慢してね?」
「はっ、はい」
なんて聞き分けの良い女の子なのだと思いながら、しばらく歩き続け……大通りも近付いたところで、俺はゆっくりと手を離した。
「いやぁ、本当ごめんね? 演技とは言え、手まで握っちゃって」
「そっ、そんなことないです。助かりました! ありがとうございます」
そういって深々とお礼をする女の子。その顔をちゃんと見たのは今更のことだった。
二つ結いで亜麻色の軽いパーマがかかった髪の毛。くっきりとした目と全体的に整った顔立ち。流石にナンパされるだけの雰囲気だった。
「全然だよ」
「あっ、あの! もしよかっ……」
(ともあれ、上手く脱出できて良かった。……でもあれ? そもそもなんであの道を……あっ!)
そんな安堵感に浸る間もなく、俺はあることを思い出した。
決して忘れてはならないあることを。
「そっ、それじゃあ! 気を付けてね!?」
その瞬間、反射的に体が動き出していた。
(やばいやばい! 遅れる、いや遅れたらやばい! 彩華に……ヤラれる!!)
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