1話 井上四季はチャラいらしい
勘違いされている男の子と、女の子達が繰り出す学園ラブコメになります!
本日は4話投稿予定です<(_ _)>(1/4話)
春も麗らかな今日この頃。駅構内もまた、同じ様な雰囲気に包まれていた。
通勤通学ラッシュということで、人の多さは変わりはないものの、明らかに着慣れていない制服姿の学生らが多く見られる。
まさに新学期という言葉が似合う朝の光景に、どこか懐かしさを感じながら、俺は改札を通り抜ける。
(あれ?)
その時だった。目の前を歩く女の子のポケットからハンカチがひらりと落ちる。
制服姿の3人組。スマホを片手に和気あいあいと話し、笑顔を浮かべる様子を見る限り新入生だろうか。おそらく、スマホをポケットから取った時に落ちたのだろう。
俺は素早く拾うと、落としたであろう真ん中の女の子に声を掛ける。
「あの、すいません」
「えっ? あっ……」
突然のことに驚いた様子の女の子。ただ、俺の手に持つハンカチが見えたのか、少し表情が柔らかくなった。
「これ、落としましたよ?」
「あっ、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
女の子は一礼すると、友人らと仲良く歩き始める。
俺はそんな初々しさ感じる3人の背中を、やはり懐かしく思いながら眺めていた。
「ねぇ! 今の人ヤバい格好良い! 朝から良いことあったよ」
ハンカチを拾った女の子の声だろうか? 両脇の友人に顔を向ける仕草は、自分の行動が間違っていなかったのだと思わせる。
(がんばれよ? 新入生。それにしても朝から良いこと……)
「いやいや、髪の色見たでしょ?」
(ん?)
「そうそう。制服に金髪ってヤバいって。私達いなかったら、絶対ナンパされてたよ?」
(あ……れ?)
「そうかな……?」
「いい? 電車使う学生なんて沢山いるんだから、色んな人がいるの。中学の時みたいに全員見知った人じゃないんだよ?」
「そうそう。ああいうチャラ男には気をつけなさいって言われたじゃない」
(えっと、決してそんなことは……)
「ただでさえ、あんた顔が良いんだから」
「良い教訓になったんじゃない?」
「うっ、うん。気を付ける!」
先ほどの清々しい気持ちはどこへ行ったのか。冷たい風が身に染みる。そして思わず、溜め息が零れた。
「はぁ……」
(またこのパターンかよ)
「おっまたせ~! ん? どしたの四季?」
そんな悲愴感に包まれていた気だった。隣から不意に聞こえてきた声に視線を向けると、そこには俺と同じ高校の制服を着た女の子が立っていた。
彼女の名前は桐生院春葉。風格のある名字とは裏腹に、ショートカットとあどけない顔は実年齢よりも幼さを感じる。まぁ体の方は真逆なのだけど。
「いや、新学期早々マイナスな出来事があってな」
春葉とは家が隣同士ということもあって付き合いは長い。巷で言う幼馴染というやつだろう。こども園から今までほぼ毎日一緒に通学している。
ついさっきまでお花を摘みに行っていたらしく、俺の恥ずかしい姿は見ていないらしい。
「ありゃ? 大丈夫、まだ朝だから! 1日通せば結果的にプラスになるって!」
(まさに元気の塊だな)
「だな」
「そうそう。じゃあ、電車行きますか!」
こうしていつもの様に電車へ乗り込むと、空いている席を探して回る。
当然と言えば当然だけど、様々な制服姿の学生で混雑している車内の光景は実にカラフルだ。
それもまたこの路線の特徴だろう。停車する駅のほとんどが、大学や高校の最寄り駅ということもあって、利用者はほかの路線の倍以上。その先には一般企業が多く存在する駅もあることから、社会人の姿も多い。
(えっと、2人座れる席は……)
―――見て、あの髪の毛―――
―――うわぁ―――
その最中、耳に入る誰かの雑談。
誰を見て言ってるのかは分からないけど、なんとなく理解できる。
約1年前。この路線を使い始めた時にも、同じような声は耳に入った。近頃はほとんどなくなっていたけど、この時期になれば振り出しに戻るのだろう。
―――おい、ヤバくね?―――
―――気合い入ってるなぁ―――
何を考えているのかは分からないけど、俺は至って普通の高校生だ。
「あっ、ここ空いてるよ?」
「おう」
とにかく、何日かすれば皆慣れるだろう。そう思いながら、春葉の見つけてくれた席に腰を下ろした。
辺りを見渡すと、いつも以上の混雑が目に入る。これもまた新学期特有のものだろうか。自分も去年の今頃は……なんて考えていると、キョロキョロと周りを見ている女の子達が目に入った。
「どうしよう……」
「ここの車両も空いてない?」
その声と様子から、席を探しているのが分かる。
正直、朝のこの時間に席を確保するとなると多少の強引さも必要なのだが、慣れない路線の電車ということもあって遠慮もしているんだろう。それに、必死な表情はどこかいたたまれない。
(譲ってあげようかな)
「なぁ、春葉?」
「うん?」
「あそこの2人、席探してるみたいなんだ。譲ってもいいかな?」
「あそこ……あぁ! いかにも新入生って感じだもんね? いいよ」
「さんきゅ」
「全然!」
春葉に了承を得ると、俺は腰を上げて女の子達に声を掛けた。
「あのー」
「はい?」
「もし良かったらここどうぞ?」
突然のことに驚いた様子の女の子。ただ、俺の手の先に見える座席が見えたのか、表情が少し柔らかくなった。
「えっ? あっ……」
(よしよし、今度ばかりは……)
「あの、大丈夫です! こっち!」
「えっ? どしたの?」
(えっ……?)
それは一瞬の出来事だった。
声を掛けた女の子の表情に少し笑みが見えたかと思った途端、なぜか隣にいた友達に断られた。
手を引かれて、違う車両へと歩いていく女の子。正直何がどうなっているのか分からず、俺はただ2人の背中を眺めていた。
(なぜ……)
「ちょっと、どうしたの? せっかく席譲ってくれるって言ってくれたのに」
「バカ! あの風貌見たでしょ? 金髪イケメンが見ず知らずの私達に席譲るなんて、理由があるに決まってるの。絶対連絡先とかそういうの聞かれるんだから!」
「えぇ? 確かにチャラい感じはしたけど……」
顔を寄せ合い、小声で話しているつもりなのだろう。しかしながら、その声は不思議と耳にハッキリ入る。
(はぁ……またか)
車内にも関わらず、どこからか感じる冷たい風が身に染みる。そして思わず、溜め息が零れた。
「はぁ……」
「ドンマイだねぇ、四季?」
その様子を見ていた春葉からの労いの声を聞きながら、俺は崩れ落ちるように席へと戻る。
(いや、何もそこまで怪しまなくてもいいじゃん)
今までも同じようなことはあったけど、ここまで短時間でというのは初めての経験だった。いくらなんでも、ヘコんでしまう。
そしてそんな俺に追い打ちを掛けるかのように、誰かの声が耳に入った。
―――見ろ、あの髪の毛―――
―――俺達と同じ京南高校の制服だろ? あの髪色ってありなのか?―――
―――金髪ってヤバくね? それに顔も雰囲気もチャラいし―――
―――典型的なチャラ男って感だ。さっき席譲ろうとしたのもナンパ目的だって―――
いつもならスルーを決め込むのだろうけど、現状の傷心しきった心と、髪の毛・京南高校というワードに思わず反応してしまった俺は、少し辺りを見渡した。
すると、見覚えのある制服を着た3人組の男子高校生が目に入る。
「あれじゃね? うちの高校で有名な噂のチャラ男先輩……げっ!!」
その瞬間、真ん中に座っていた子と目が合う。すると顔色が変わったかと思うと、即座に視線を変えて……3人組はそそくさと別車両へと行ってしまった。
(今チャラ男先輩って言ったよな? 俺の方見て、うちの高校で有名なチャラ男先輩って……)
その瞬間、力が抜け肩を落とす。
話しぶり的におそらく新入生なんだろう。そんな新入生にまで噂が伝わっている事実に悲愴感を覚える。
「はぁ……」
「もう、朝から溜め息つき過ぎじゃない? もしかして、そこに居た後輩君達が言ってたことで落ち込んでるの?」
(げっ、春葉の耳にも届いてたのか。そにしても、やっぱ新入生だよな)
「やっぱり、1年だよな? まったく、どうしてこうなるのか……自分では聞かない様にしてたけど、俺の評判ってってそんなにヤバいのか?」
「えっとね? 評判というか噂だと、京南のプレイボーイ、金髪のすけこまし、絶倫イケメン、天性のチャラ男、あとは……」
「あぁ、もういいです……」
とんでもない呼称に思わず頭が痛くなる。そして現在進行形で急速に広まっているチャラ男という噂に、溜め息しか出てこない。
「なになに? 実は噂は本当なの?」
(ん? んなわけあるか。てか、なんでそんな目がキラキラ? 変な奴だな)
「何言ってんだよ。1ミリも合ってない」
「そっかぁ……」
(気のせいか? 春葉が少しだけ残念そうな表情を見せた気がする)
こちらとしては生まれてからずっとこの髪色なもので、気にも留めたことはなかったけど、制服に金髪なら目立つのは当然か。
(それにしても、どうしてこうなった? 髪色は仕方ないにしろ、顔がチャラいってどういうことだよ。 化粧とかしてないし、素の顔面だぞ。そりゃ身だしなみはきちんとしろって父さんに言われてるから、気を付けてはいるけど……それにしてもひどくないか?)
とにもかくにも、ハッキリした。
というより、突き付けられた。
俺、井上四季はチャラいらしい。
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