愛された女
気仙沼の工場に着いたのは16時過ぎだった。
家路達は待たせている従業員達のもとへ向かった。当初100人と言われた人数は、接点のあった者達に限定され約1/3の30人ほどが残っていた。そこから更に絞り混むには、まず、現場検証が必要ということを説明し、家路達は事故現場に向かった。
そこは比較的小さな冷凍庫で、フォークリフトを使うような場所ではない事が分かった。入り口を入ると、左手に10坪、右手に約40坪程の大きさの冷凍庫だった。大きな工場にしては見合わない冷凍庫で、家路が社員に聞くと、元々の工場のキャパに見合った冷凍庫で、工場の増改築を繰り返すうちに倉庫だけがそのままで、小さくなってしまったのだという。現在の使用用途は、主に海老やカニなどの魚介類の原材料がメインでストックしてある場所だった。
問題の「私に見てほしいもの」とは?
家路が捜査員に確かめる。捜査員が指差した先には、海老の冷凍品があった。
これが何か?
いや、あれ?さっきまで書いてあったのに...
はぁ...冷凍庫ですよ。霜が降りたり溶けたりして指で書いたものならすぐに消えてしまいます。写真はありますか?
あ、はいすみません。ここに。
そこには霜を指でなぞって書かれたILYという文字が見えた。指には指輪がされていた。
...もう一度皆さんの集合している場所に戻りましょう。それにしても...
捜査員達の顔を見て、家路は溜め息をついた。
山下。宮古に戻りたいな。俺も旨いものを食べてから帰ってくるんだった。
溜め息混じりの家路の顔に、珍しいなと思う山下だった。
全員が待っている場所に再び戻ってきた家路は、30人分の点呼を取った。点呼を取った後、そこからフォークリフトを使用した者を省いて25人選ばれ、5人は解放された。犯人は25人に絞られた。
そこから更に、あの倉庫の存在を知っていた従業員を引くと残りは20人となった。
家路は更に名簿を見て、佐々木の出身地を確認した。家路はそこで20人のうち15人を外し、5人まで絞りこんだ
その5人の中から家路は、指輪を首から下げている1人の女性を指差した。
あなたですね。菅田裕美子さん。
突然の解決に山下が家路を制する。
お前車内から随分適当にやってないか!?何故この子に絞りこんだ?根拠はあるのか?
今回のは、皆さんが考えれば自ずと見えてきた筈です!
捜査員に向き直り、家路が喝をいれた。
これからどうするんです?私が居なくなった後、皆さんがやらなければいけないんです!
山下が家路を宥め、落ち着かせる。山下が今一度、捜査員の為にと根拠を聞いた。家路は呆れた顔で話し始めた。
...せめて20人にまでは絞り込みをしてほしかったですね。
まず、フォークリフトです。運転してあそこの倉庫まで行けませんし、行ったとしても倉庫内には入れない。徒歩でしか行けませんしフォークリフトは使えませんので却下。
次に、あの倉庫は昔から長年使われてきた倉庫で今や会社の中でも一部の人しか知らない倉庫。知っている者は却下。ここまでで20人。
そして、あの亡くなった佐々木さん。初めての派遣スタッフです。おそらく近隣もしくは知人や友人のツテを辿って今回の派遣に応募したと考えられます。なので、彼の住んでいた応募者の中の誰かを頼って応募した。彼は太白区長町の出身。普段の足は、公共交通機関で利便性の高い地下鉄を使っていたと推察出来る。お互いに取って良い環境ですからね。
お互いとはどういうことだ?
まだ分からないか山下?ここは食品工場。指輪などのアクセサリーの類いは付けてはいけないんだよ。
あ!被害者は確かにつけていた!
そう。それでも肌身離さず持っていたかった。そして、あのメッセージ。ILY。口に出しては恥ずかしい言葉。I LoveYumikoです。指輪はポケットにでも隠しておいたんですかね。それを死を察してつけた指で箱をなぞった。