中田の告白
私の親はある殺人鬼によって殺されました。名前は小原克之。名前ぐらいは聞いたことがあると思います。現在も逃走中の全国指名手配犯になってる殺人鬼です。奴を逮捕するため、警察になったようなもんです。
しかし、20年経っても尚、奴の足取りすら掴めていない。懸賞金もかけられているに...一部ではもう死んでしまったのではないかとか、早く諦めて自分の人生を生きろとか言う人も居ます。
しかし、諦めきれないんです。奴を逮捕することが私の勤めだと思っています。
そいつなら知ってる。しかし、奴の指名手配の文句には、女性の殺害という事ぐらいしか書いてないと思ったが?
それが違うんです。私も目を疑いましたよ。指名手配の写真を見て、見覚えがあったんです。小さい時の記憶ですけど、確かにあいつなんです。私の親を殺したのは、小原なんです。
ちょっと待て。奴の顔を記憶してた?ということは現場に居たのか?
ええ。うろ覚えですけど。
思い出すだけで寒気がして来るんです。写真すら見たくない。しかし、私は確かに現場で奴の逃走した時の顔を記憶している。記憶の断片でしかないですが。
家路と山下は言葉が無かった。
そんな事実は今まで一度も聞いたことがなかったからだ。
本当なのか?だとしたら、警察に何故被害届を出さない?
記憶があまりにも断片的過ぎるからです。本当に奴がやったと言える程、証拠も何もないですから。現場から逃げるように立ち去る奴の顔を見ただけでは、警察も動きようがないですからね。
何故、その時あなたは警察に相談しなかったんですか?調書も取られた筈ですが?
声を失っていたんです。トラウマで、調書を取ろうにも取れなかった。そして、思い出すだけで震えが止まらなくなる症状は、今でもこの通りです。
腕でがっしりと身体を包み込むようにして、中田はその場にうずくまった。
...分かりました。山下。明日までここに居よう。いいな?
だから俺はどっちでもいいよ。お前が帰ろうとごねるから俺は
さ、中田君。ここじゃ何だから、君の落ち着く場所で話の続きを聞こう。
山下が最後まで話す前に、家路は中田の脇を抱え立たせる。
話せるかい?無理はしなくていい。
いえ、私が残ってくださいと頼んだんです。話します。
2人だけで話が進んでいるのを見て、山下がぶすくれる。
勝手だなまったく!
宮古の景勝地を望むホテルに移動する。
部屋から見える景色は、真っ青な海原と松林が広がっていた。