親の愛
家路さん!やっぱりそうでした!あなたの言う通りでしたよ!
保原がでかい声で叫ぶ。その瞬間、家路はさっきまで談笑していた佐々木の手首に手錠をかけた。
午前11時32分。佐々木余根次確捕。
誰もが唖然とした。捜査上にまったく上がってこなかった男をいきなり逮捕するとはどういう事だ?皆呆気に取られていた。
おい家路!説明しろ!何故この佐々木を確捕する?
うん。じゃあ、話そうか。今回のこの一連の事件を。
まず、戸渡を加納が殺します。加納は戸渡をここまで運び、佐々木さんが首吊りに見せた。
簡単に言うとこんな感じです。
本当に簡単だな。もう少し詳しく説明しろ!
保原に調べさせたのは、戸渡と加納の関係。そして、加納と佐々木の関係です。
1つずつ説明します。
まず、戸渡と加納は高校の同級生です。ホテルに泊まったのは年男の集まりだったんでしょう。同じ高校の同級生である加納が勤めているホテルに皆で泊まった。そして、そこで何か口論となったか、昔からの因縁が口論に発展したかは分かりませんが、とにかく2人は酷い言い合いをしていた。それは山下が寝つけない程だからよっぽどの口論だ。
そして、勢い余って加納は戸渡を絞殺してしまった。
夜勤の交代の時間で、加納は戸渡を担いで、裏口の職員専用口から出る。職員専用口から遊歩道までは意外と遠いが、駐車場は近い。車で遊歩道近くまで移動し、そこから遊歩道に戸渡を担いでいく。しかしそこで、漁に出ようとしていた佐々木さんに会ってしまう。いや、加納にとっては会えたというのが正解かもしれない。もしくは、会える可能性に賭けたか。何れにしろ、そこで加納と佐々木さんは戸渡を紐にくくり首を吊ったように見せた。この紐は、漁師が船を岸壁に結んでおく為に使う紐です。
会えたのが正解というのは?賭けとは?
保原に確認させました。加納と佐々木さんは親子関係です。
漁師である佐々木さんがこの海から漁に出ることを加納は知っていた。それも午前2時過ぎという早い時間に漁に出る事を知っていたんです。もし会えなかったら1人でやっていたんでしょう。
足の指の擦り傷は?
あれは部屋から移動する時や、駐車場からここに運ぶまでに付けられた傷でしょう。
佐々木さん。そうですね?あなたは加納の手伝いをした。
...あいつは昔から親に迷惑をかける奴でした。今回の事も、私はしかし見過ごせなかった。息子に協力してしまった。すみません。
そう言って佐々木は泣き崩れた。親の愛情は、いつまで経っても消えないものだと家路は思った。
その後、戸渡殺害容疑で加納は逮捕された。
さすがに早かったな。今回も大手柄だ。
いや、何も。誰でも気づく事だ。犯人逮捕までが早いか遅いかは山下の初動の早さだ。
そうか?俺はお前を信じるのみだからな。
だとしたら今回の初動は早すぎる。まだ確信を得ていないのに動き出すから少々慌てたぞ。保原にも急がせたしな。
悪い悪い。ま、でも、とりあえず犯人捕まったし、ゆっくり帰るべ。
そうだな。帰ってやらなきゃいけないこともあるからな。
あの...
中田が話しかける。
お願いしたいことがあります!
山下と家路が振り向く。
もう1日居てもらえませんか?お話を聞いてほしいのです!他の宮城県警の方々は明日までいらっしゃいますし...どうか、お願いします。
訳ありだな...何があったんだ?
それも含めてお話ししますので、どうか、お願いします。
深くお礼をした中田の顔を上げさせ、家路が答えた。
そこまで言うなら仕方ない。残りましょう。山下。いいな。
元々帰りたいと言ってたのはお前だからな。俺はどっちでもいい。
中田が2人に話し始める。