家路写楽
岩手県宮古市で首を吊った男が発見された。
男は死んでいた。
お疲れ~
あ、山下警部!お疲れ様です!
おう!
昨日はあの後飲みに行かれたんですか?
宮古まで出張だ。当然だろ。
それがなんだよ朝イチから駆り出すんじゃねぇよ。
山下は酒が抜けていないようだ。口から吐く息は、まだ酒臭い。
すみません。こういう事件は慣れてないもんですから。山下警部のお手本をと思いまして。
おべっか使っても何も出ねぇよ。
んで?どこまで調べられた?
はい。被害者の名前は今のところ不明。40代半ば。現在身元の特定を急いでおります。
第一発見者は、佐々木余根次、68歳。漁師。
朝、海岸沿いの遊歩道を歩いていると、目の前に見慣れないものを発見。近づいてみるとそれはこの男だったと。
...ふ~ん...被害者の持ち物は?
はい。それが一切ありませんでした。その為、身元の特定までに時間がかかっております。
そうか。まず、身元の特定からだ。報告を忘れるな。
はい。
山下はそう言うと、被害者の遺体が置かれたテントに足を運ぶ。
おう。やってるか?
山下さん!いや、居酒屋じゃないんですから。
山下さん。お疲れ様です。
保原と中田が出迎える。
被害者の様子は?
はい。死んでから7時間程が経過しているようです。今が9時ですから朝2時頃にはもう...
そうか。俺がホテルに帰った時間だな。
そんなに飲んでたんですか?
あぁ。まぁ仕方ないさ。それも仕事だ。
飲みニケーションも良いですけど、酒臭いのは現場に持ち込んでほしくないですね。臭いだって手掛かりになる可能性はありますからね。
お、おう。すまん。
中田にイタいところをつかれ、たじろぐ山下だった。
その時、テントをくぐって入ってきた男がいた。
山下。酒臭いぞ。臭いも手掛かりになるんだ。
山下は1日に2度も同じ注意を受けた。
おお!お前も来たのか!?お前が来るなら俺は来なくて良かっただろうに。朝食のバイキングも集団客のお陰でゆっくり食べれなかったしな。
飲みニケーションやるのに仕事しないのはおかしいだろ。それに、早く起きれば良いだけだろ
う、まぁ、そうだな...しかし、昨日煩くて寝つけなかったんだよ
山下さん、誰なんですか?
おぉそうか。お前達は知らないか。こいつは家路だ。家路写楽。噂ぐらい聞いたことあるだろう?
え!?あの宮城県警で活躍されている別名シャーロック・ホームズのですか!?
...その別名は、山下が勝手につけたんだがな。家路で良い。よろしく。
で、どうだ?中田君...だっけ?君の見立てを聞かせてくれないか?
...はい。では。
お前何緊張してんだよ。
保原が中田をからかう。
緊張する程のものじゃない。初見で何を感じたかを聞かせてほしい。
はい。まず、これは自殺ではないと思います。自殺であれば、足場になるようなものがある筈です。それが見当たらない。海に落ちたと考える事も出来ますが、足場が不安定な場所で首を吊って自殺しようと思うでしょうか?それと、首吊りの向きですかね。例えば遊歩道側から首を吊ったとすれば身体は山向きになる筈ですが、それがわざわざ海側を見ている。
ふむ。その通りだ。なかなか鋭い。被害者の全身は確認したかい?
ええ。しかし、これといって外傷は見当たらなかったんです。そこが腑に落ちない点なんです。
うん。少し時間を置こう。科捜研の操作も同時にやっているのだろうからね。