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第9話 Vtuberヨル

 周防が警官の集団を追い払った。捕まるリスクを下げたら掃除屋が来た。防護服の集団が特急汚物の箱を取り囲む。箱はゴミ袋に入れるだけで、良いけど。首から下の処理はかなりめんどい。ばらすのやったことあるから分かる。めっちゃ重労働。


 掃除屋が死体の後片付けを開始する。

 後片付けを見届けながら、私はよるに言った。


「金欠だから、仕事くれ」

「たんまり溜めてたのに、もう使い切ったのですね」


 一生遊んでは言い過ぎだけど。カジノ行ってざわ…ざわ…ってやらなければ困らない額はあった。よるの手伝いは数百万しか儲からなかったけど。美術品を盗んで、密輸はうまうまだったから一回で数十億の利益だった。


 全部、契約兵雇って消えたけど。人件費が一番高いのは裏も表も変わらない。


「異世界に行ったら、思ったよりも世知辛い世界で、なくなっちゃったんだよね」


 文明が崩壊してるなんて思わないじゃん。まぁ仮に崩壊してなくても銃で無双は無理だったけど。魔法使いに喧嘩売ったら、吹っ飛ばされて終わってたよ。たぶん。


「え? 本当に異世界あったんですか」

「あったよ。想像と違ったけど」

「小春が失踪中にデスノートを更新したんですよ。仕事なら腐るほどありますよ」

「そのデスノートって言い方やめない? 紛らわしいんだけど」


 よるが言うデスノートは死神が落とした、あれではない。普通のノートだ。

 ターゲットの似顔絵と理想の殺し方が書かれている。


 よるは書かれた通りに殺すことを目指して、悪人を亡き者にする。


「ねぇ。仕事の話は後にしてほしいわ。マイガンが見たいんだけど」

「金欠って言ってるでしょ。仕事のお金が入ったら、買うから我慢して」

「嫌よ! あたしは今すぐ見たいの! 暴れるわよ!」


 エリーがアニメショップ、マカロンに入った。マカロンはほぼお客の来ない店だけど、太客の私がいるから商品の数は多い。


 私が興味のある作品のラノベや漫画あとグッズは一通りそろってるし、店主が好きな作品のフィギュアやゲームも棚に所狭しと置いてある。完全に趣味の店だ。


 店主の立場を悪用して売り物で買ったフィギュアは鑑賞するわ。ゲームは封を解いて遊んだ後、中古品として売るわ。やりたい放題やってるの目撃したことがある。


 エリーが巨大な氷のハンマーを振り上げる。そして商品棚を破壊するぞと脅す。


「やめて! ツケ払いってことなら渡すから!」


 文乃がマイガンのブルーレイボックスをエリーに差し出した。


「テレビってどこにあるのよ」

「リビングに……」


 文乃がぶんぶんと首を横に振る。自分のテリトリーに入れるなと訴える。


「よるの部屋にあるよ! よる、ごめん。部屋に上がっても良い?」

「いいですよ」


 二階にあるよるの部屋に入った。

 周防は仕事があるとか言って、警視庁に帰ってしまった。


 壁の一角にナイフや手斧が飾られている。殺しの現場で酷使され続けている、武器たちだけど、きれいな状態を保っている。


 部屋の隅っこの方に、お手入れをする作業場があった。

 作業場の机の上に数本のナイフが置かれている。手入れ前のナイフだ。


「この部屋、臭うわ」

「そうかな?」


 くんくんしてみたけど、気になる臭いはなかった。


「血の香りと瘴気しょうきがどこからともなく漂っているのよ……あ! これよ!」


 エリーが飾られている、武器を指し示した。


「吸った血を感じ取ることができるのですね」

「瘴気にまとわりつくから嫌でも分かるのよ」


 人を殺しすぎた武器には瘴気が宿るとエリーは言った。

 瘴気が使用者をさらなる殺人に駆り立てるらしい。


 よるが被っていたフードをバサッと上げる。美しい黒髪ロングと性癖がMさんが歓喜しそうな目が露わになった。よるがレインコートを脱ぐ。


 私と同じ学校の制服が露わとなる。

 よるは女子高生だ。一応、学校には通っている。影武者が、だけど。


「小者が多いね」


 デスノートをパラパラとめくる。


 ターゲットの九割はごろつきだ。そのうちの六割には似顔絵に赤いバツが書き足されていた。殺害済みのマークだ。


「殺すにはまず相手の日程や罪の重さなど、色々調べる必要があるのですよ。アリスを使えばパソコンをカタカタするだけで、情報が集まるけど、失踪していたので自分で集めるしかなかった。大物は手間です」


「む。カタカタするだけじゃない。脆弱性を探したり罠を張ったりやることは多い」


 アリスは軍人になる前は有名なハッカーだった。

 ターゲットのスマホ、エトセトラを乗っ取って、情報を得るのはお手の物だ。


「お! ちょうど殺したいなって思ってた大物がいるじゃん」


 半グレのボスの父親を見つけた。こいつの職業は政治家だ。

 身寄りのない子供たちのために真摯に活動する聖人って評判だけど、実際は違う。


 自らが設立した、孤児院の子供から臓器を抜き取って、適合する顧客に売るクズだ。違法な金を使って、総理を目指している悪人だ。


 子供の臓器は貴重だ。そこに違法性も付加ってことになると価格も億単位になる。


「政治家は面倒だから殺し嫌がってたのに、どういう風の吹き回しですか」


 ごろつきなら、殺しちゃっても誰も気にしない。だから簡単に見せかけの捜査にすることがでもる。でも政治家は無理だ。殺しちゃったら誰かが気にする。


 警察も本気で捜査をする。周防を使って捜査妨害も難しい。


「半グレを今のうちに潰したいってだけだよ」


 女神の力で、異世界に強制連行もあるかもしれない。後回しにしていた、重要タスクを消化するときがきた。それにこいつはさっさと死ぬべきだ。


 政治家の似顔絵に軍用の小型ナイフを突き刺した。


「一ヶ月後に生でデスゲームを鑑賞する予定があるんだ」


 デスノートに政治家の予定が書かれていた。断片的な予定だ。


「そうなんですよ。デスゲームを鑑賞するやつらなんてろくでもない連中ですし、乗り込んで皆殺しも一興じゃないですか。その日にやろうかなって思っています」


「いいねぇ。でもお金が入り用なんだよね。早められない?」


 面白そうではあるけど、富裕層を皆殺しにしちゃったら大捜査だよ。警察の総力を挙げて犯人を逮捕だ! なんてことにもなりかねない。けど犯罪の現場にいたわけだから、関係者がもみ消す可能性もある。


 富裕層の中には社長もいる、はずだ。


 社長がデスゲームの哀れな参加者を見て、ゲラゲラ笑っていましたなんてことになったら、株価大暴落だ。政治家の場合は党の評価が地に落ちる。


「また推し活ですか」

「いや、ちょっと武器が早急に必要で、さ……意味あるのか分からないけど」

「困っているようなら手伝いますよ」

「んーありがたいけど、巻き込みたくはないんだ」

「ちょっと不満ですが、小春の意思を尊重します。心変わりをしたらいつでもSOSを送ってください。私たち親友、なのですからね」


「分かってる。ありがとう」


 よるのスマホが鳴り響いた。アラーム音だ。


「あ! 配信の時間です!」

「配信あったんだ。ごめん」


 いそいそとよるが配信の準備を始めた。パソコン関係に強い、アリスも手伝う。


 なんとか配信に間に合った。同接が一万もある。そこそこ人気の殺人鬼がゲーミングチェアに座った。よるが視聴者と会話を始める。


「テレビと喋っているわ。読めない文字で、小人の会話がぽんぽん出てる。演劇を見るだけじゃなくて、会話もできるの?」


 そういえばエリーに嘘を教えたんだった。


「あれはテレビじゃない。モニター」


 モニターに配信ソフトが映ってる。

 配信ソフトの画面にVtuberのモデルと背景画像あとコメント欄がある。


「テレビが演劇を見る用で、モニターが会話をする用ってことなのね!」

「なあなあにするんじゃなくて、仕組みをちゃんと教えるべきだったよ」


「ねぇ。小春。直接、会話すればいいじゃない。わざわざモニターの中に入って、文字で会話する意味ってあるの? 意味が分からないわ」


「私も意味が分からないよ」

「ボス。エリーの知識を正す必要がある」

「だよね。面倒だけど、基本の基から教えないと理解できないよね?」


 アリスが頷いた。アリスと私がうーん、と頭を悩ませる。

 私だって、テレビの仕組みなんて知らない。


 なんとなくDVDに記録された映像が映るんだ。電気信号に変換された番組が回り回って、家庭の受信機が受け取る。


 受け取った番組を映しているんだって理解している程度の知識しかない。

 なんとなくじゃ魔法の世界からやって来た、エリーは理解してくれない。


 そもそもテレビって高度なテクノロジーとシステムの結晶だからな。それを戦国時代の武将に理解させるみたいなものだよね。難易度高すぎだよ。


「とりあえずテレビをオンにする」


 アリスが部屋にあった、液晶テレビのリモコンを操作する。

 適当な番組が映った。私はテレビの画面を叩いて、説明をする。


「これガラスじゃなくて、えっと極小の四角が等間隔に並んでいるんだよ。その極小の四角には赤、緑、青の光がこれまた等間隔に並んでいて、この三つの光の明るさをびみょーに小さくしたり大きくしたりして一枚の画像を作るんだよ。それを高速でぱ、ぱって切り替えて映像にするんだけど、意味不明だよね」


「? どうして赤色と緑色と青色で世界を表現できるのよ」


「色を混ぜると別の色になるって考えがあって、光の三原色って言うんだけど」

「そういえば画家が絵具を混ぜて、別の色にしていたことがあったわね」

「そう! それ!」


「んーよく分からないけど。教会にあるステンドグラスみたいに、色がついた小さい四角を並べて絵? を作るってことよね」


「そうだよ」

「誰が並べ方を指示するの?」

「基盤……」

「きばんってなによ。魔法生物?」

「……」

「……」

「助けて! ドラ○もん」

「どうしたののび○君」


 よるがクオリティの高いものまねを披露する。新しい方じゃなくて古い方だ。


「あんた。ドラ○もんって名前だっけ」

「違いますよ。よるです。よるが疑問に答えますよ」

「配信は大丈夫なの?」


「ヨルメイトが疑問に答えてあげてよと言っているので、配信内容を変更します」


 私たちの声が配信に乗っていたみたい。

 ヨルメイトはファンネームだ。


 よるの分身であるヨルは軍事オタクとしての知識を使って、ミリタリー系VTuberとして兵器の解説やゲーム配信をやっている。


 よるをカタカナにしただけの安直な名前だけど身バレはまだ未経験だ。


 配信では言っていないけど、よるは工作が得意だ。特に爆弾に関してはアマチュアの域を飛び越えて、プロだ。本職に売れるレベルの代物を作り出す。


 爆弾は科学の知識が必須だ。

 私よりは詳しく教えることができるはずだ。


「小春の嘘つき。ひどいわ。小人が入ってるって言ってたじゃないの」


 よるの説明で、エリーはテレビのことを理解する。

 まだ完全にとは言えないけど、魔法とは異なる技術体系があることを知った。


「ピュアですね」


 コメント欄が爆笑に包まれた。赤スパもちょびっと流れた。


「科学。すごいわ! あたし、科学のこともっと知りたいのだけれど!」


「そこの棚に専門書があるので、読んでもいいですよ」

「わーい。って読めませんわ! あたし、日本語分からないのよ」


 日本語喋ってんじゃねぇかwとコメントが流れた。

 あれ。どうして翻訳されてるんだろ。と疑問に思ったけど、すぐに解決する。


 マイクの裏に魔方陣があった。


「じゃあ勉強するしかないですね」

「ふふん。あたしは天才なの。日本語なんて即習得よ」


 すでに習得してんだろwとコメントが流れた。

 翻訳の魔法を知らない視聴者はそう思うよね。


「最低でも半年は必要だと思うよ」

「三日あれば十分よ」


 楽観視してるエリーに現実を教えてあげよう。


「帰りに書店に行って、ひらがなドリル買おっか」

「ひらがなってなによ」


 日本語喋ってんのに、ひらがなが分からないってどうしてだよwとコメントが流れた。続いて頭がおかしくなりそうwとコメントだ。


「日本語の基本の基だよ」


 ネットで、ひらがなと検索をする。

 ヒットした、ひらがな表の画像をエリーに見せた。


「あたしが覚えたいのはこれじゃないわ。このうねってる変な文字を覚えたいのよ」


 エリーが科学の専門書を棚から取った。

 開いた、専門書の文章の中にある漢字をエリーが指し示した。


「いきなり漢字は無理だよ。絶対に覚えられない」

「あたしは王よ。これくらいちょちょいのちょいよ」

「英語ならなんとかなるかもしれないけど、漢字は無理だって」

「……」

「エリー?」


 エリーがコメント欄をじっと見ている。目が怖い。


「読めないけど、バカにしてるのよね。人間の分際で、生意気だわ」


 煽りコメントを発見した、エリーがおこだよ。

 魔法で、モニターを破壊しようとしている。


「まぁまぁ落ち着いて」


 エリーを鎮めるためにたわわな胸を揉む。

 揉みたいから揉んでいるわけではない。

 よるのモニターを守るためにやっているんだ。


「ちょっとどうして揉むのよ!」

「やわらけー」

「ん」

「BANが目的なのですか?」


 よるが手斧を持って、ゆらりと立ち上がった。


「これくらいのスキンシップで、BANはないでしょ」

「小春のスキンシップから高純度のえっちだ。が溢れているのです! きゃっきゃうふふなら問題ないのですが、これはアウトです!」


 エリーが熱い声を漏らす。

 正直なところ揉み方なんて知らないけど、本能のままにもみもみする。


「うへへへへ」

「ボスの品性を返して」


 アリスが雑誌を丸めた。雑誌の剣をゲットしたアリスが振り上げて、私の両手を痛めつける。うへへよりも痛みが勝った両手がエリーの胸から離れた。


「私、ボスだよ! 護衛がボスを攻撃するのダメじゃないかな」

「ボスの手に悪魔が宿っている。これは悪魔祓い。攻撃じゃない」

「宿ってないから!」


「悪魔は去った。次は元凶をお仕置きする」


「悪魔祓いじゃないの? お仕置きって言ってるけど」

「間違えた。胸に宿っている。悪魔を追い出す」

「胸はデリケートな部分だからやめよ」


 エリーに迫る、アリスを抱き寄せる。

 趣味で通う猫カフェで培った、テクニックを披露する。


 猫カフェの猫は目が肥えている。生半可な撫で方では満足をしない。

 餌を持っている他の客に奪われるのがオチだ。


 長年通って編み出した、どんな猫でもメロメロにする秘技だ。


「ボス。苦しい」


 アリスが幸せと苦しみが入れ交じる表情をしている。


 おかしい。気難しい猫が恍惚こうこつの表情になる、頬のマッサージをやっているのに、まったく気持ちよさそうではない。


「マッサージにもなってないです」


 よるが手鏡で、アリスの顔を映し出した。


 アリスの背中にひっついて、マッサージをやっていたから、手鏡に映るまで、アリスの顔が見えなかった。


 私の手がアリスの顔をもみくちゃにしている。

 確かにこれはマッサージじゃなくて、ただの拷問だ。


「人間に猫用の秘技はダメみたい。うーむ。じゃあ頭なでなでだ!」


 アリスの顔から苦しみが消えて、幸せだけが残った。

 よるの配信が終わるまで続けようかな。

 これ以上配信の邪魔になるのは嫌だ。黙々とアリスに幸せを与える。

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