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第3話 チフの村

「知らない天井だ」


 目覚めたら、そこは洞窟だった。

 巨大な狼が爆散してからの記憶がない。気絶していたみたいだ。


 洞窟内に、複数のテントがある。ところどころ穴があるボロボロ具合だけど、雨風がないここなら生活には困らない。テントの中に寝具や家具があるからたぶん家、なのかな。一つだけログハウスみたいな立派な家と店舗を両立した建物がある。


 トンカチの看板があるし鍛冶屋なのかもしれない。

 畑や田んぼがあるんだけど。どういう理屈なんだろう。ここ洞窟だよね? 食料を保管する小屋もあるし、広場や調理場もある。


 ログハウスみたいな建物と小屋は洞窟の外は森林だろうし、不思議じゃない。建材は木を切って運搬すれば良いだけだし。でも畑や田んぼってどうなってるの? 洞窟の床を仮に掘れたとしても土は日光は大量の水はどっから来たのか見当もつかない。


 ちょっとした集落みたいな活気がある。

 二十人ほどの人間とエルフが一人、洞窟暮らしをしていた。


「冒険者ギルドってある?」

「あるわけないでしょ」


 私の顔を見ている、エルフが答えた。

 エルフは想像通りのかわいいだ。お嬢様っぽい風貌をしている。

 気絶する前に見た、エルフぽいな。ここまで運んでくれたみたい。


「冒険者って職業すら存在しないの? ないわー」


 しょぼんとする、私の肩をケモ耳美少女がぽんぽんする。

 猫耳だ。猫耳が生えている。こじんまりしてて可愛い。


「久しぶりに野良の人間を見たのじゃ。吾輩はチフ、村長をやっておる」


 村長と名乗った、ケモ耳美少女はロリな容姿をしている。


「ここって村だったんだ。私は中野小春なかのこはる。異世界から来た人間だよ。よろしく」


 人間もエルフもボロボロのカーテンを切って、貼り合わせただけの服みたいな。そんな文明レベルの低い格好をしている。


 ゴブリンの方がもっと良い服を着ていた。

 ゴブリンの文明の方が優れてるの? この世界終わってる。

 私が夢見た異世界じゃないよ。ここ。日本に帰りたい。


「よろしくなのじゃ。異世界人か。ということは勇者さまじゃな。おぬし」

「そうなの?」

「うむ。女神さまは魔王が支配する、この世界をよしとは思っておらぬようでな。人間に頑張ってほしいと十年前じゃったかな? 言っておったんじゃ。


 じゃが、直接手助けするわけにはいかぬようで、かといって文明が崩壊した今の人間に期待もできぬ。


 困ったあげくに、導き出した答えは異世界から文明人を連れてきて、 文明を再建してもらえば万事解決。じゃが、異世界人は天界にとって、管轄外じゃ。


 勝手に連れてくるわけにもいかぬ。そこでなんだったかの? エレベーターで異世界に行く方法じゃったな。を布教して、勝手に来てもらえば問題ない。


 魔王に対抗できる異世界人が来るかどうかはガチャじゃが、異世界人がいくら死のうがどうでもいい天界にとっては微々たる問題じゃ。


 数多の勇者が、大勢亡くなった」


「そらゴブリンの国それも大通りにいきなり転移ってなれば瞬殺だよ」

「女神さまいわく、ゴブリンごとき倒せない文明人に価値はない」

「鬼畜過ぎない?」

「吾輩もそう思う」


 普通異世界転移って特殊な力とかチート級の武器とか貰えるイベントがあるでしょ。イベントなしで、ゴブリンと戦えってどんな思考回路してたら、それで生き残れる文明人もいるって発想になるのか意味不明だ。


 最強の格闘家でも瞬殺の地獄絵図だったよ。転移早々。


 試験として終わってるでしょ。契約兵と銃火器を持ってきた私ですらこの有様なのに、着の身着のまま来た一般人とか絶対死ぬよ。生き残るなんて万に一つもない。


「文明が崩壊する前の世界って人間が支配していたの?」

「人間とエルフが支配しておった。人間が統治する帝国が大陸の西側。エルフ率いる亜人連邦が東側を自国の領土と喧伝し、文明を築いておったんじゃ。


 じゃが、魔物の王、魔王が現れ世界のありようが変わった。


 強大すぎる魔法を持っていたが故に、他種族をバカにしていたエルフは獣人と竜人に裏切られ、国を追い出された。エルフだけでは魔王と対抗できず人間と協力関係を結んだのじゃが、結局負けてしまったのじゃ。


 人間とエルフは仲良く国を失い、今はこうして洞窟暮らしをしておる」


 獣人と竜人は魔王側なのかな? でも村長は人間の味方っぽいしうーむ。


「人間がクソザコだったせいで、負けただけだし、エルフは最強なんですけど」


 エルフが小声で文句を言ってる。

 アリスがこっそり録音をする。そして再生だ。


「村長。あんなこと言ってますけど、どうします?」

「飯抜きじゃな」

「あー待って待って! 飯抜きだけは嫌なんですけど!」


 エルフが村長にしがみつき、必死に懇願こんがんする。

 この人、かつて栄光を極めたはずなのになんだろ。哀れだ。


「ボス! 空間の歪みが発生」

「噂の女神さまのご登場かな」


 村の中央にある、広場。その空間がぐにゃりうねうねとうごめいた。

 エレベーターが出現する。扉が開かれた。

 案内人こと女神が手招きをする。


「なに? 君たちの実力は分かった。準備のために一度、日本に戻ってもいいよって意味? それとも魔王のところまで連れて行くよって意味? どっちなの」


 後者なら人生終了だ。女神は答えない。


「ボス。どうする?」


 思考回路がぶっ壊れてる鬼畜女神だから後者の可能性も普通にあるの怖い。常識を持ち合わせる正統派の女神なら、武器も装備も人員も失ってしまいましたね。今のまま戦えとは口が裂けても言えませんので、準備のために一度戻って良いよってなるんだろうけど。戦いに必要な物資は自前で調達するみたいだし。


「日本に戻れるなら戻りたいし、行ってみようか」

「了解」


 私とアリスがエレベーターに乗り込む。

 しれっとエルフも乗り込みやがったんだけど、なに考えてんだ? こいつ。


「異世界に行くんでしょ。あたしも連れてけ」

「普通に嫌なんだけど」


 このエルフから面倒ごとの臭いがする。


「その武器から魔力を感じない。つまり工芸品! 剣と変わらない。そうただの鍛冶屋が作った、武器なのに魔法に近い現象が発生するのちょう文明がある証拠じゃない。まずい飯には飽き飽きなの! ちょう文明があるならうまい飯もある」


 エルフがグロック26をまじまじと見てる。工芸品ではないし、鍛冶屋が作った武器でもないけど、めんどくさいからツッコミは不在だ。


「連れてってやるけど。邪魔だけはするなよ」

「わかったわ。あたしはエリー。今はこんなだけど、一応エルフの王なのよ」

「おまえVIPなの?」


 アリスが心底めんどくさいなって顔をする。


 エルフが日本で、魔法を使った場合、最悪SNSで拡散。なんて事態にならないとも限らない。そうなれば国家が確保に動く可能性がある。


 エルフの魔法は強大だって言うし、王を失った怒りを買って他の生き残りのエルフと仁義なき戦い。なんて嫌だ。守る必要がある。


 日本とこっちの世界の常識は違うだろうし、世話も大変だ。

 エレベーターの扉が閉まった。

 体感時間で十五分後、日本に到着する。

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