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第2話 鬼畜女神の審査

 店舗が連なっている路上で、殺し合いの真っ最中だ。


 ゴブリンにも文明があるらしい。

 衣服に身を包む、ゴブリンたぶん市民が逃げ惑っている。相手はゴブリンだけど市民が流れ弾で死ぬのちょっと罪悪感ある。

 市民を守るために集まった、鎧を装備するゴブリンたぶん兵士が突如現れた虐殺者を成敗するために立ち塞がる。やりたくて虐殺してるわけじゃないんだけどね。


 多勢に無勢だから手当たり次第に発砲するしかないんだよ。


「身を隠せる場所がない! アフロ。お嬢さんに覆い被さって、守るんだ。残りはくそったれどもに鉛をプレゼントだ!」


 銃弾は鎧をいともたやすく貫通する。兵士がズタボロになった。今は弾ある限り撃ちまくるってスタンスで接近を阻止できているけど。文字通り弾が切れたら詰む。

 接近は無理と判断したのか、兵士が槍を投げ始めた。


 建造物の屋根に弓兵が立っている。矢の先端が禍々しい紫色になっているんですけど。あれ絶対毒じゃん。


 矢と槍が飛翔する。


「っ」


 矢が、アフロヘアの契約兵の肩をちょっとだけ切った。肩に軽く触れて、通り過ぎた矢が地面に衝突する。

 毒矢だとしてもすぐには死なないはずだ。


「アフロ! 無事か!」

「かすり傷だ。舐めれば治……あれ? 視界が赤い、なんだこれ」


 軽口を言って、安心させようとしたアフロヘアの契約兵の目や耳から血が溢れ出す。すぐに死なないはずだを撤回する。


 やばくね?

 血が溢れたと思ったら、今度は皮膚が溶けた。

 服と装備だけ残して、アフロヘアの契約兵が液体になった。


「ファック! 反則だろ!」


 まさかの触れたら即アウトの毒だった。

 それも微量でも死ぬ毒だ。


「スモーク」


 アリスがスモークグレネードを下手投げで、投げた。

 ころころと転がった、スモークグレネードから煙がぷしゅーと溢れ出す。

 瞬く間に、煙の障害物を作り出した。煙だから、矢も槍も普通に通り抜ける。


「百メートル先にある広場まで走れ! 集合して、路地裏に移動だ」


 弓兵が煙の障害物に矢を放つ。

 私とアリスそして五人の契約兵が煙に入った。

 ぴゅんぴゅん飛翔する矢が運悪く来た、契約兵の絶叫が轟いた。


 ゴブリンから私たちの姿が見えないように、私たちも仲間の姿を見ることができない。目に映るのは真っ白な煙だ。


「広場に出た」


 真っ白な煙が消えて、噴水が視界に飛び込む。

 噴水が中央にある広場だ。

 広場に隊列を組む、ゴブリンがいる。槍を構えて、威嚇をしている。殺意が高いゴブリンだけど、意思に反して、後ずさる。


 銃にびびってるゴブリンがほとんどだけど。一人じゃないね。一匹だけ怖いもの知らずのあほうがいるよ。びびるゴブリンをモーゼの海割りみたいに左右に退けて、偉そうになんか言ってる。


 なんて言っているのか分からないけど。たぶん、やあやあ我こそは勇者とかなんとか言っているのかな。格好が勇者っぽいし。


 勇者っぽいやつがいざ尋常に勝負と剣を抜く。ゴブリンって最弱のモンスターだよ。無力なはずなのに、銃でワンパンなはずなのに自信あふれる敵って怖いね。

 さっきまでびびっていた、ゴブリンが不適に笑う。


「なんだ雑魚じゃん」


 こちらは剣ではなく拳銃を抜いて、構える。主人公気分に浸れる片手撃ちを選択。片手撃ちってかっこいいよね。イケオジがやったら映えること間違いなし。だから割と多かったりする。裏稼業で片手撃ちする人。


 ヤクザのゲームで見た、かっこいいイケオジを真似て、撃つ。

 勇者っぽいやつの意に反して、いざ尋常に勝負あり。


「ご、ごぶぶ!?」


 ゴブリンが驚愕の瞳をして、スチェッキンを見つめる。

 たぶん強者の勇者っぽいやつがポッと出の美少女にぶっ殺されたらガクブル案件だ。ゴブリンがちびる。


 勇者っぽいやつが噴水にどぼんと沈んだ。水が変色する。 

 スチェッキンは組事務所から勝手に持ち出した拳銃だ。


「二人、いない」


 アリスが報告をする。

 異世界に来てから、まだ十分も経過していないのに、契約兵の半数を失った。


「待つ……いや、死んだと判断する。こっちだ」


 マークが路地裏に走った。

 煙の中から轟いた、絶叫は一人分だ。

 一人は確実に死んでいるが、もう一人は生死不明だ。

 迷子になっているだけの可能性もあるけど、時間がない。


「ボス。後ろに隠れて」


 路地裏を封鎖している、重装歩兵っぽい姿のゴブリンをアリスが発見する。

 密集する、無数の盾が壁になった。


 盾の隙間から矢が飛んでくるかもしれない。

 アリスが背後に、私を隠す。前には無数の盾、後ろにはちびりながらも嫌々追いかける兵士。後ろの脅威はないに等しいけど。アリスも契約兵も早歩きで、進む。


 私はアリスのベルトを掴む。引っ張られないと、歩くのが遅すぎて置き去りになるかもしれない。身の丈に合わない超スピードのウォーキングマシンに食らいついてる気分だ。お腹が痛い。こんなことなら体育の授業真面目にやれば良かった。


 金策が忙しくて、学校を休むことが多かったけど。正確に言えば休むじゃないかな。一応、無遅刻無欠席だし。

 契約兵が連射だ。そのまま前進する。


「突破する! 俺に続け!」


 鉄の盾とはいえ、銃弾を防げるほどの強度はない。盾を貫通した、銃弾がゴブリンの隊列をかき乱す。密集が崩れた隙に、マークが隊列の中に入り込んだ。


 マークの仲間チームメイトが後に続き、肉弾戦を敢行する。

 シャベルは万能だ。軍用シャベルが鉄の鎧にぶつかる。

 切ることはできないけど、衝撃は中まで浸透する。


「ごぎゅぶ」


 骨が折れた、ゴブリンが地面に倒れた。激痛に襲われて、戦意喪失したゴブリンのアーメットをマークが殴打する。アーメットは兜のことだ。


 デコボコになった、アーメットからどろっとしたなにかが溢れ出した。たぶん脳だ。吐き気を抑えつつ戦闘を見守る。


 五十はいる、ゴブリンが統制を取り戻し始める。個で戦っていた、ゴブリンが生き残りを結集して、一斉に、マークとその仲間に突っ込む。


 鉄の鎧を軍用シャベルで、ゴンゴンとやっていた、マークの仲間がゴブリンの荒波と衝突する。必死に塞き止めているが、私のところまで来るのは時間の問題だ。


 荒波を抑え込む腕が軋む。皮膚と肉が裂けて血が飛び散る。圧死を否定した、マークの仲間が戦士の顔になった。


「自爆する! 伏せろ!」


 ゴブリンを塞き止めていた、マークの仲間チームメイトが、手榴弾を自分の足元に落とす。マークが手榴弾を落とした、仲間に駆け寄る。


 後ろから肩を引っ張られた、マークが転倒する。手榴弾が爆発する。


 ゴブリンが木の葉のように、ふわりと舞い、地面に落下する。手榴弾の破片は自由自在に飛ぶ。予想は不可能だ。近距離で手榴弾が爆発したから、伏せても死ぬ可能性はあった。破片の気まぐれで、死ぬ状況は二度とごめんだよ。


 ゴブリンって障壁に破片の大部分が刺さらなかったら危ないところだった。でも爆発のおかけで、難を逃れることができる。


 手榴弾の爆発は伏せてやり過ごすが万国共通だ。

 マークの仲間のうち一人は即死。もう一人は首に深い傷を負った。


「ぃげ! ぃげ!」


 マークが仲間の圧迫止血を試みる。

 首から血を流すマークの仲間が叫んだ。そして力なくマークの体を押す。


 重装歩兵っぽい姿のゴブリンはふらふらとしつつも、まだ生きている。手榴弾で殺すことができたのは十体程度だ。


「すまない」


 マークが走った。振り向かずに走った。

 私とアリスも走った。私は後ろを見て、しまった。


 手榴弾の爆発で傷を負った、ゴブリンが流血している。失った血を取り戻そうとしているのか分からないけど。食ってる。


 マークの仲間チームメイトを生きたまま、その肉を咬みちぎっていた。

 血をうまそうに飲んでいた。


「騎兵だ!」


 住宅街に出た。

 窓から市民がこちらの様子をうかがっている。

 騎兵が三十程度、迫ってきた。


「手榴弾が必要」

「これが最後だ。持ち込んだ手榴弾の大半は破棄してしまった」

「……相性が悪いスタンを使う」


 アリスがスタングレネードを投げた。屋外で、使っても目隠しにもならないし、音も反響しないから人やゴブリンには意味がない代物だが、馬には効果抜群だ。


 音に敏感な馬が、スタングレネードの爆発に驚いた。

 騎兵の集団は急停止した、馬をなだめるのに必死だ。


「お嬢さん。気に入った馬はあるか?」


 速そうな馬をチョイスする。黒色の馬だ。

 マークが、黒色の馬に乗っているゴブリンを撃った。


「馬に乗れ! お嬢さん。俺とアリスは馬の扱い方を知らない」

「……」

「馬の扱い方を知らない」


 泣きそうな声で、マークがもう一度言った。

 異世界の移動手段と言えば馬だ。異世界転移からの冒険者生活で、馬にも乗れないじゃ話にならないと思って、頑張ったことを軽く後悔してる。高い授業料払って来る日も来る日も訓練用の馬に翻弄された日々なくても良かったかも。


 やれとは言えないのだろう。だって馬の手綱を握る人が一番危険だし、その危険な仕事を雇い主がやるって本末転倒じゃん。


 馬もしくは手綱を握る人を無力化すれば、馬っていう足を奪えるんだから、絶対に攻撃が集中する。


 でもやるしかないなら覚悟を決める。脱出だだだだだだぁ。


「こわ」


 私の馬が疾走している。その手綱を握る、私の耳に触れるか触れないかのギリギリを矢が通り過ぎていった。


 あと数センチずれていたら、アフロヘアの契約兵みたいに液体になっていた。


「撃て、撃ち続けろ!」


 マークとアリスが発砲する。

 追走する騎兵が落馬する。落馬した、ゴブリンが事故を誘発する。

 落馬して、地面を転がるゴブリンに、足を取られた、敵の馬が横転する。


「マーク。門が閉まっている」


 アリスがM72 LAW。使い捨てのロケットランチャーをマークに手渡した。


「了解。俺が破壊する。アリス、最後の手榴弾だ。大事に使え」


 アリスに手榴弾を渡した、マークが飛び降りた。


「マーク!?」


 驚愕する私にマークが言った。


「揺れる馬上で、ロケットランチャーは至難の業だ。俺の腕だと九割方外す。だからここでお別れだ。お嬢さん。残りの報酬、ちゃんと振り込んでくれよ」


 マークがロケットランチャーを撃った。一昔前の戦車なら確実に破壊できる、対戦車榴弾が門を破壊する。


 私の馬の間近で、門がバラバラに砕け散ったから、衝撃がすごい。


 マークが写真を見ている。感傷に浸る時間すら与えないつもりのゴブリンがマークを取り囲む。リンチだ。ゴブリンは非道なモンスター。私にそう認識されるには十分すぎる残酷な最後だった。


「ボス。森に入って、追っ手を振り払うべきだと思う」


 門を抜けた、先は荒野だった。乾いた土と少しばかりの緑が広がっている。

 三キロほど北東に進んだ場所に、森林が見える。


 荒野とは打って変わって、自然豊かな土地だ。食べられるキノコや木の実があるかもしれない。アリスと私のリュックにある、飲み水と食料は三日分だ。


 現地で、食料を確保できないと空腹にやられる。

 地球とは異なるキノコや木の実しかなかった場合、毒を持ってる持っていないの見分けができないから食えないけど、荒野を永遠と走るよりはマシだ。


「分かった」


 森林に入った。私とアリスを追いかける、騎兵も来た。

 かつてあったと思われる、木々を切り開いて作った道が消えていた。

 長年放置されたことによって、木が異常に生えている。

 ゆっくり馬を走らせる。木々の間をするりと通って、移動する。


「帰った? ボス。様子がおかしい」


 騎兵が反転して、森から出た。


「なにかが来る」


 生い茂る木々に、バキバキと亀裂が入った。

 折れた木々が、ドミノ倒しのように横倒しになった。

 巨大な狼が迫ってきた。戦車と同じ、サイズだ。


「ボス! 逃げて」


 アリスが巨大な狼を狙撃する。

 巨大な狼の右目に銃弾が入った。

 右目が潰れた、巨大な狼がきゃいんと悲鳴を上げる。


 アリスのメインウェポンはサプレッサー装備のSPR Mk12だ。こんなの使ってられるかって言ってた在日米軍のお偉いさんから、知り合いが買った。狙撃銃でもないし小銃でもない、素早く遠くの敵をキルする銃だ。


 サブウェポンは二挺にちょう、腰のホルスターにあるグロック26と右足にあるベレッタM9だ。両方とも優れた拳銃だ。


「うそ、でしょ」


 死んだと思ったのに、止まらない。弾が脳まで到達しなかった。


「ボス。飛び降りる」


 私を抱きかかえた、アリスが飛び降りた。斜面を転がる。

 さっきまで乗っていた、馬がバラバラになった。巨大な狼の攻撃だ。

 巨大な狼の爪が、馬の体を力任せに引き裂いた。


 アリスが私を庇って、木に激突する。背中を痛めた、アリスがうめいた。


「弾いた。毛が装甲になってる」


 拳銃を構えて、撃ってみたけど、すべて弾かれた。

 毛に覆われている部分は撃っても無意味だ。


 おそらく小銃でもぶち抜けない強度だ。現状の装備で、唯一効果がありそうなのは手榴弾しか思いつかない。それでも怯ませる程度で、終わるはずだ。


「ボス。どんな手を使ってでも、生きて」


 アリスが手榴弾のピンを抜いた。

 ピンが抜かれた手榴弾を握りしめた、アリスが走った。巨大な狼にしがみついて、自爆するつもりだ。そんなことをしても無意味だ。


 怯んだ隙に、逃げても追いつかれる。死ぬ運命は変わらない。


「アリス!」

「身勝手な行動、分かってる。でもこれしかない」


 アリスが、巨大な狼の攻撃を避けて、しがみつこうと動いた。瞬間、巨大な狼が爆散する。ものすごい衝撃波が私とアリスを襲った。


 巨大な狼の上空に、蛍みたいな光が無数に現れて、キラキラ輝いたと思ったら、集約して大爆発だ。銃弾を弾いた、毛ごと巨大な狼を跡形もなく消すほどの威力だから全ての爆弾の母と呼ばれている爆弾に類する危険性がある。


 全ての爆弾の母と呼ばれている爆弾は、通常兵器としては史上最大の破壊力を持っている爆弾だ。生みの親はアメリカだ。


「アリス、起きて」


 吹っ飛ばされた、私は起き上がろうとするけど、力が入らない。十メートル先にアリスが倒れている。


 アリスが気絶している。その傍らには爆発寸前の手榴弾があった。


「□□□□□□□□□」


 詠唱が聞こえた。日本語でも英語でもない。知らない言語だ。

 手榴弾が凍結する。内部まで、氷に覆われていると思う。

 手榴弾が爆発しない。ほっとする。安心した途端、意識がもうろうとする。

 詠唱が聞こえた方向をちらっと見た。エルフ? がかすかに見えた。

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