原始文明の王
目が霞む程の眩い光を放つそれは、多種多様な生物達の目前に存在し、体をそる程の上空に浮遊していた。
それは青い色の光に包まれ、黄金色の光を放ちながら空に漂い、
この世の光景とは思えない、神々しい存在感を生物達に与え、
生物達はただそれを見つめ、それが当たり前かの様に受け入れ、
なぜそれがそこに在るのか
なぜそれは浮いているのか
なぜそれは光り輝くのか
など疑問を持つ事はなく、
それは受け入れるべき必然であり、
自分達を支配する存在であるとその生物達は、本能的に感じていたのである。
その浮遊する大地の周囲には|先端が丸い洗練された棒《 セケム》を持つ種族が取り囲み、その種族は時折その浮遊する大地の前で祭事を行い、それを崇める多くの種族達を支配し、その地を統治しながら彼らに様々な作業に従事させていた。
ある部族は農業に従事し、穀物を栽培し
ある部族は道具を造り、必要な部族に与え
ある部族は体を使い、その土地の構造物を構築していた
洗練された種族は、その地で多くの種族を統治しながら文明的な社会を構築し、彼らが作業に従事できるよう生活を安定させ、争いごとや物資不足など問題が起きないよう管理、教育をしていた。
彼らは学問を発達させ、数学による統計を発明し、天文学を用いて年間の気候を予測することで、農業を発展させ、材料を研究し新たな道具を造り出していた。
そうしてその種族は発展させた学問を活かしながら勢力を拡大し、神々しい光を放つ浮遊する大地を中心に、社会を構築していたのである。
しかし、なぜその洗練された種族がそこまでの知性を得る事ができたのかは謎であり、
唯一の手掛かりは、光を放つ浮遊する大地と、洗練された種族を治める長と、その長が持つ祭壇の壺であった。
その長は初老であったが、長髭を生やし、身なりを整え、長らしい風格を持ち得ており、
常に堅牢に建てられた建物の中で簡素な椅子に座り、石板に向かい何かの作業をしていた。
ある時、大地を照らしていた陽が陰り、空が赤色に染められた頃、その建屋の中に洗練された棒を持つ者が中に入り、建屋の奥に座る長の方へ歩いてゆく。
その洗練された棒を持つ者が、長が座る椅子の前に辿り着くと跪き、頭を下げ長に話し掛けた。
「テュケ様、神殿への塔が完成致しました、明日にでも上陸できます」
「わかった」
「例の物は出来ておるか」
「はい、多くの時間と犠牲を費やしましたが、準備は出来ております」
「そうか、それでは陽が二度昇った時の早朝に、儀式を執り行う」
「祭事の準備をせよ」
長に話しかけた者は、無言でうなずくと静かに立ち上がり、そしてその建屋を出て行った。
「…ようやく、その扉に手を掛けられるか…」
「イレティエウに降り立つ塔と、我が身を守るネスウト、それを持ってしてあの大地を手に入れる事が出来る」
長はゆっくり立ち上がり、背後にある祭壇の様な棚にその身を向けると、しばらくそれを見つめ、また作業に戻っていった。
その祭壇の様な棚には、砲弾型の壺らしき物が幾つも立てられていた。
∫
早朝の肌寒い空気に包まれる砂漠の大地に、陽が昇り始める。
差し込む陽射しが砂の上の構造物を照らし、濃い影が砂漠の造形を美しく浮かび上がらせると、この地で暮らす種族、全ての民が、浮遊する大地の前に集まってきた。
神々しく光り輝く浮遊する大地の下には、小高く盛り上げられた祭壇のような土の台が造り上げられ、それらを囲むように、浮遊する大地にもとどく程の高さのある、鋭利にとがった三本の塔が聳え立ち、その周囲に集まった民衆は、否が応でもその浮遊する大地の存在感に圧倒され、敬わざる得ない雰囲気を漂わせていた。
しばらくするとそこへ、洗練された種族と共に、黒い武具と武器を身に纏う長が、何体かの先端が丸い洗練された棒を持つ種族を従えながら祭壇の前に現れた。
長達は民の目の前にある祭壇の方へ歩いてゆき、その前に造られた緩やかな坂を上り、祭壇の上に到達すると、黒い武具と武器を身に纏う長は、厳威を漂わせながら、祭壇の中心へと歩みを進め、
その後に続いていた、先端が丸い洗練された棒を持つ種族達は、長の後ろへと向かい、祭壇の後端へと並び始める。
彼らが祭壇の中心で隊列を整え終えると、ゆっくりとその身を民衆の方に向け、祭壇の上からその場に集まった民を、その眼下に収めた。
その祭壇の下には、何やら異様な雰囲気を漂わせる生物らしき物体が横たわり、その体は激しく焼け爛れ、動く事は無く、既に絶命している様であった。
太陽が徐々に昇ってゆく。
浮遊する大地の背後に、昇り始めた太陽が隠れだし、祭壇の前はその陰で覆い尽くされてゆくと、浮遊する大地の放つ黄金の輝きが、祭壇の上に立つ長のみを照らし出し、長の体の周囲は、眩いばかりにその全身が黄金色に輝いていった。
祭壇の前に集まっている種族達はその、この世の物とは思えぬ光景に目を奪われ、じっと黄金色に輝く長を見つめ続けている。
周囲は静寂に包まれ、冷気が緊張感と、微細な振動を伝えていた。
しばらくすると、浮遊する大地の上に、隠れていた太陽が再び姿を現し始め、祭壇にその激しく強烈な陽の光が差し込みだすと、その陽射しに照らされた長は、その身に収めた黒い武器を鞘から抜き出し、
―ガッツ!
自らの前に突き立てた。
「 民よ! 」
「この、ネスウトは、かつてこの世界を治めた王族の子孫から造り出した
最強の装備である」
―!
長は、黒い武器で横たわる生物を差し、
「我々は、この王族の子孫を倒し、それが守りし鉱物をも手に入れた」
民衆の視線が長に集まる。
「 刮目せよ! 」
「この最強の王族を排除した我々は、この時より」
「この地を治める、最強の種族になる!」
―!
黒い武器を祭壇に突き立てる
長が、後ろを振り向き、浮遊する大地を見つめると、
再び、民衆にその眼光を向けた。
「 そして、 このイレティエウを 我が足元に治め 」
「 我々は この世界の 新たな 」
「 支配者となる! 」
この世界を支配する原始文明(Qarunian)の誕生である。
黒い武具を身に纏い、長髭を生やした洗練された種族の長は、神々しく輝く浮遊する大地を背に、かつてこの世界を支配した種族をその足元に治め、民をその眼下に見下ろし、
この世界を支配する最強の種族である事を宣言した。
その光景を目の当たりにしたその場にいる民衆は、そのこの世の物とは思えない凄烈なる圧倒的な光景に、民の心は支配されてゆく。
黒い武具を身に纏う支配者は祭壇から民達を一時、静かに見つめると、その身をひるがえし、背後にある中心の塔へと歩き出す。
そして、塔の袂へ辿り着くと、再び民の方へ振り返った。
その時、
パァァァァァァ…
突然、支配者の足元が光り出し、眩い光を放ち始めた。
その光は徐々に蒼白い色で輝き出すと渦となり、その蒼き渦は黒い武具を纏う支配者を包みこんでゆき、蒼白く輝く光に包まれた支配者は蒼く輝きながら、ゆっくりと上昇を始めた。
「 おぉぉぉぉ … 」
その場に集まった民衆から声が溢れ、あまりにも現実離れをしたその光景に、その場に集まった生物達の体から自然と力が抜けてゆき、次々とその身を落とし、ひざまずいてゆく。
黒い武具を身に纏う支配者は更に上昇を続け、塔の先端、浮遊する大地の上部に到達すると、その上昇が止まり、
ゆっくりとその歩を浮遊する大地に向けると、
黒い武具を身に纏う支配者は、浮遊する大地に、降り立った。
「 おぉぉぉぉ!! 」
民衆は思わず声を上げ、その光景に引き付けられてゆく。
黒い武具を身に纏う支配者は、その大地の中心へと向かってゆき、高台に上がると、
民衆に向けその身を向ける。
―!
そして、黒い武器をその大地に突き立て
その武器を天に向け振上げた
「 民よ! 」
「 我こそ 神であり 全てを導く者である! 」
「 我の僕となり 」
「 永遠の都を築き、 その扉を 」
「 開け! 」
その神と名乗る支配者の後ろには、太陽が燦然と輝き、
民衆はその凄烈なる圧倒的な存在感に心奪われ、
自然とある言葉がこぼれ落ちていった。
「 … ニー ヴァ… 」
その小さな声は徐々に広がり、集合し、大きくなり、
「 ニー… 」「 ヴァ… 」「 ニー… 」「 ヴァ… 」
そして、その言葉を強く発するようになった。
「 ニー ヴァ! 」
「ニー ヴァァ ァァァァァァァァァ!!!!!」
それ以降、黒い武具を身に纏う支配者は、
『 ニー ヴァ 』
と呼ばれるようになり、
この世界に新たに誕生した最強種族の王として君臨した。




