言葉を操る者
それは眩い光で大地を照らしていた
惑星を覆った閃光と共に、大地は滾り、赤々とした惑星の命を噴出したその場所に
青い色の光に包まれ、黄金色の光を放つ巨大な大地が浮遊し
その前には
先端が丸い洗練された棒を持ち、見た事も無い厚みのある何か、をその身に纏う何者かが整然と並び、静かにその場に佇んでいた
∫
――――――――――!
数匹の体毛が薄く、体格が良い生物達が、物凄い勢いで森の中を駆けてゆく。
その生物達を追いかけ、鋭く尖った細長い棒の様な何かが放たれ、体毛の薄い生物達はそれを避けるように、木々と枝葉に身を隠し、鬱蒼とした森の中に飛散してゆく。
それを感じた追いかける生物達は、甲高い声を上げ、いくつかの音を組み合わせると、足の遅い生物に細長い棒の様な何かが集中し始めた。
―――「 ギャッツ!! 」
―ズダァァ! … ザッ ザザザァァ…
…
「ギャァ!」「ギャア!」
森を駆けていた体毛が薄い種族達の一匹が転がりながら草むらの中に倒れ、その身体には細長い棒の様な物が多数突き刺さり、その場から動けなくなっていた。
その体毛の薄い種族は立ち上がろうと体を動かし、必死に声を上げながら助けを呼び、それに気が付いた他の者達は倒れた仲間を気にしながら数度ふり返ったが、別の集団が多数で近付いて来るのを感じると、
倒れた仲間を置いて、森の奥へと逃げて行った。
ザッ、ザッ、 ザッツ
森を駆けて行った体毛の薄い種族達を追いかけ、手負いの生物が消えた場所に辿り着いた黒毛の種族達。
彼らはその場に集まると、長細い木の枝のような棒を両の手で握り、周りを警戒しながらゆっくりと歩き始め、鼻と眉間をぴくぴくと動かしながら、倒れ動けなくなった体毛の薄い種族を探し始めた。
体から血を流し、草陰に身を横たえ、息苦しくその呼吸を抑える体毛の薄い生物。
その周囲に仲間とは違う、別の種族の匂いと足音が近付いてくる。
その足音は徐々に、倒れた体毛の薄い生物の周囲を取り囲むように集まり出し、囲まれた事を感じた体毛の薄い生物は、その黒毛の種族達を近付けまいと必至で声を荒らげ、周りを威嚇した。
周囲を取り囲んでいた黒毛の種族、数匹がそれに気が付き、手負いの生物の方へ向かって行くと、必死に威嚇する生物を警戒しながら、徐々に距離を詰めてゆく。
身動きが取れない体毛の薄い生物は、徐々に近付く臭いと気配を遠ざけようと、激しい形相で威嚇したが、彼の対応できる範囲を超えると、周囲を取り囲んでいた黒毛の種族の一匹が、その手に握りしめた棒のような物を振りかざし、
―ガッツ!
「ギャァ!」
―! ― …
その棒は倒れた生物の血で赤く染まっていった。
―排他的社会秩序
自らの集団を守るために他者を受け入れない
見知らぬ何かを恐れ排除する事は、その集団を守る事であった。
その為に、その集団に近寄る何かがあれば強烈に排除し、その行為は威嚇を含めて執拗に、残虐に行われ、そうしてその生物達の集団は自らのコロニーを守っていた。
そうして、いつしかその集団の個体数が増えると、一部がその集団から別れ、また新しい別のコロニーを構築し、その拡大と分裂を繰り返しながら、その黒毛の種族達は
この惑星に広がっていった。
∫
ある時、ある黒毛の種族達が平原で狩りをしている時の事であった。
ゆっくりとそこに見知らぬ別の種族達が姿を現し、整然と並びながら狩りをしている黒毛の種族達に近付いてくる。
その何者かの侵入に気が付いた狩りをしている一部が、周囲に大きな声を上げ、威嚇をしながら、仲間を呼んだ。
すぐさま狩りをしていた他の仲間達が、声を上げた黒毛の生物の下に集まり、目の前に現れた別の種族を見つけると、排除しようと激しく声を荒らげ、威嚇し、物を投げ、彼らを追い立てた。
しかし、目の前の種族達は、物静かにその様子を伺い、微動だにせず、その身には威嚇をしている黒毛の種族達が見た事も無い、先端が丸い洗練された棒を持ち、厚みのある何か、をその身に纏い、整然と並びながら、静かにその場に佇んでいた。
「 … 」
しばらくすると、その何かを身に纏う不気味な種族の奥にいる、何かに座っている者が、鳴き声とも違う静かで緩やかな音をその口から発すると、
「ギャァァァ!」
威嚇をしていた黒毛の生物の体が突然焼けだした!
それを見た威嚇をしていた仲間達の動きが止まり、一瞬怯んだが、すぐさま数匹がまた威嚇を始めると、 眩い閃光と共に、威嚇をしていた黒毛の種族の体が再び焼け、鼻を突く黒い煙が周囲に漂った。
その異常な状況をその身で感じた、威嚇をしていた黒毛の種族達は竦み上がり、体を丸め、その場で動かなくなり、そして、その目は、
恐怖で覆い尽くされていた。
黒毛の種族達を焼いた不気味な種族は、彼らに向けていた、先端が丸い洗練された棒を自らの側に戻し、また整然と並び、再び黒毛の種族達の方を向きその様子を伺うと、
不気味な種族達の奥にいる生物から、また静かで穏やかな音がきこえてきた。
「 … 我は 光を 操る者 」
「 我の 僕となり 扉を開け… 」
言葉
それは 紛れもない
「 ことば 」 で あった
赤く煮え滾る惑星から数十億年
幾億もの 創造と破壊を繰り返し
この惑星にそれは
発生した
紛れもない、言葉を操る者達が そこに現れたのである
竦み上がる黒毛の種族達は、お互い手で合図をし、武器を捨てその場に俯せになり、目の前に立つ、言葉を操る者達を見つめた。
それは彼らにとって攻撃の意思が無い事を現す行動で、部族の中で上下を決める際に使われていた意思を伝える手段であり、俯せになった黒毛の種族達は、目の前の種族達に屈服した事をその身をもって伝えていたのである。
そして体を投げ出した黒毛の生物の一匹が、ゆっくりと顔を上げると、
「…」「… …」 「…」
俯せになった黒毛の生物もまた、言葉を操る者達と同様に、その口から言葉らしきものを発した。
しかしそれは言葉ではなく、意志を伝える声であり、彼らは単純な声で意思を伝え、身振りや簡単な絵でコミュニケーションを図る、原始言語を使う物達であった。
しかし、その彼らの前には、それを遥かに凌駕する者達が顕現し、言葉を操る者達が放つ圧倒的な力を感じ取ると、彼らは抵抗を諦め、言葉を操る者達の僕となり、後に彼らの部族はその集団に支配され、そうして、言葉を操る者達は同じように多くの部族をその配下に治めていった。
∫
時が流れ、惑星の命が噴出した大地に、この惑星には無かった騒々しい音が鳴り響き、外見や体格が異なる様々な種族が集まり何かの作業を行い、そこには自然の物ではない、明らかに何者かの手で造りだされた構造物が数多く存在し、先端が丸い洗練された棒を持つ種族が、その作業をしている種族の周囲を取り囲み、作業の指示をしていた。
「 … あぁぁ… 」
石のような大きな何かを引いていた作業者が、その荷を引く縄を置き、腰を屈め一休みをした。
「ハァ、ハァ」
彼は、息が整う少しの間、身を伏せて体を休め、再びその荷を引こうと顔を上げた時、その先にある物に目を向けると、
その作業者の目線の先には、眩い光を放つ巨大な何かが存在し、
それは、洗練された棒をもつ種族に囲まれ、
空中に
浮いていた