第五章;ソフィアへの道
ソフィアへ向けて一行は緑豊かな丘隆地帯を歩いていた。小鳥のさえずりが聞こえ、平和な空気が漂う。
このまま平和な旅が続けばいいと勇者が思い始めたのも束の間、突然その静けさが破られた。
「待って、何か来るわ。」
エリスが立ち止まり、周囲を見渡す。
その瞬間、茂みから複数の魔物が飛び出してきた。それは黒い毛並みを持つ狼型の魔物、「ダスクウルフ」だった。シャドウウルフよりは小さいが、群れで行動することから厄介な魔物だ。
「くそったれ、また狼かよ!」
悪態をつきながら勇者は剣を抜き構える。ここ数日の戦闘でスムーズに臨戦態勢に入るようになっていた。
「一体一体は大したことはないが数が多いな。気を抜くなよ!」
ガルスが前に出て盾を構える。
ダスクウルフの軍勢は低いうなり声をあげながら一行を取り囲むように動き始めた。その鋭い牙と俊敏な動きに勇者の手は緊張で汗ばんだ。
「まずは正面の敵から狙うわよ、みんなは詠唱までの時間を稼いで頂戴。」
エルスが魔法のための詠唱を始める。すかさずリリィが目くらましを行った。
「閃光!」
「勇者さま、ガルスさま、お願いします。」
「了解、ガルスは援護を!」
勇者は素早く正面のダスクウルフに切りかかる。目くらましで怯んだダスクウルフは大きく後退し、勇者はそれに合わせて剣を構えて突っ込んでいく。
「勇者さま、あまり前に行き過ぎないで!背後を狙われます!」
リリィが叫ぶが勇者はすでにダスクウルフに囲まれる形になってしまう。
「くそっ、来るなら来い!」
勇者は必至に剣を振るい一体のダスクウルフに切りかかる。だが焦りから力任せに振るった剣は大きく空を切り、逆に隙を作り出してしまう。
「なんで当たらないんだよ!」
「勇者殿、冷静になれ!動きをよく見ろ!」
ガルスが一喝しながら盾で一匹のダスクウルフを弾き飛ばす。
勇者はガルスの言葉にハッとして一旦深呼吸をした。そしてダスクウルフの動きを見極めるように意識を集中する。
(落ち着け……相手の動きを読んでから攻撃するんだ。)
ダスクウルフが飛びかかってきた瞬間、勇者は剣を振り上げ、その動きに合わせて斬りかかった。
刃はダスクウルフの胴体を捉え。黒い体毛が真っ赤に染まる。
「よし、やった!」
初めての成功に胸を躍らせた次の瞬間、別のダスクウルフが背後から襲い掛かる。
「勇者、危ない!『フレイムバレット』!」
エルスが詠唱を終え、ダスクウルフを撃退した。
「ありがとう、エリス。」
ガルスとエルスの連携で残りのダスクウルフたちも次々と倒されていく。エリスは炎の魔法で群れを分断し、ガルスがその隙をついて確実に仕留めていった。
最後の一体をガルスが倒したころには勇者は地面にへたり込んでいた。
「まだまだ力不足だな、お前は。」
ガルスは苦笑しながら手を差し伸べる。
「わかってるよ、でも少しはマシになっただろ?」
勇者は息を切らしながら立ち上がった。
「まあな。次はもっと動けるように訓練だな。」
この後、魔物とのいくつかの戦闘を終え、勇者たち一行はソフィアの町にたどり着いた。真ん中に大きな塔があり、その周囲は湖に覆われている。
「よし、ここから船でソフィアの町に入るわよ。」
以前この町にいたというエリスの指示で勇者たちは船着き場に向かった。
船着き場には多くの人で賑わっており、活気ある雰囲気を見せている。一方で船着き場のそばでどこか暗い表情をした人々がいた。彼らは困惑したような顔で野営している。
「エリス、あの人たちはどうして町に入らないんだ。」
「う~ん、私がいたころには見なかった光景ね。リリィとガルスは何かわかる?」
「いわゆる難民でしょうか、あそこまで荷物を持っているのもおかしなことですし。」
エリスの問いに険しい顔でリリィが答える。
「どうやらここまで魔王軍の影響を受けているようだな。」
「とにかくソフィアの町に入ってみよう。ゼルファー様への案内を頼める人も探さないとな。」
一行はソフィアの町へと足を踏み入れた。
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