第四章;日常の訓練と世界の姿
聖剣を手に入れた翌日、勇者たちは森を抜けて小さな村に立ち寄った。旅の疲れを癒し、次の目的地に向けて準備を整えるためだった。村の外れには広い草原が広がっており、訓練の場所にはうってつけだった。
「勇者、練習ではこの剣を使って訓練を行う。聖剣はうまく扱えなければただの金属の塊だからな。」
ガルスは村の鍛冶屋で借りた木剣を勇者に手渡しながら言った。
「聖剣を手に入れたのにどうして木剣?訓練とはいえ普段から使う武器を使ったほうがいいんじゃないの?」
勇者は不満げに木剣を見つめる。
「まずは基礎だ。剣を闇雲に振り回しただけでは使い物にならん。それに、聖剣はお前の心と身体が一致しなければ真価を発揮しないことはわかっただろう。」
ガルスの厳しい声に勇者はしぶしぶ頷いた。
「まあ…、確かに。昨日は全然使いこなせなかったしな。」
勇者は木剣を握りしめ、さっそく訓練をこなすことにした。
広々とした草原に勇者の剣を振る音が響く。ガルスは基本的な構えや足運びを厳しく指導し、リリィは魔法で勇者の疲労や傷を癒しながら訓練を見守っている。
「もっと重心を低く、剣は身体全体を使って振るものだ!」
「そこだ!剣を振った後の動きが遅い!そのままでは反撃で命を落とすぞ!」
ガルスの叱咤に勇者は何度も息を切らしながら木剣を振った。聖剣を手に入れてから自分がいかに未熟かを痛感しつつも、少しずつ自信が芽生えていくのを感じていた。
リリィは勇者の努力を静かに見守りながら微笑む。
「勇者さま、焦らなくても大丈夫ですわ。これから少しずつ成長していけばいいんです。」
その励ましに勇者は心の中で何度も救われていた。
訓練の合間、一行は休息を取りながら世界の現状について話し合う時間を設けていた。リリィが地図を広げ現状うぃ説明する。
「この世界には四つの主要な国があります。このエリシオン王国、北の砂漠地帯に広がるベルザン帝国、東の海沿いの都市国家アクアリス、そして西の高山地帯に位置するグラディア公国です。」
リリィは地図を指しながら続ける。
「魔王の勢力は現在北のベルザン帝国にまで影響を及ばしています。各地で魔物が増え、交易や生活が大きく阻害されているようです。実際に、我がエリシオン王国との交易には障がいが出ていてベルザン帝国からの交易品は大きく数を減らしているようです 。」
「つまり俺たちが魔王を倒さない限りこの世界はどんどん悪化していくってことか。」
勇者は地図を見つめながら呟いた。
「その通りです。特にベルザン帝国は魔王軍との戦いが激化しており、今にも陥落する危険があります。」
リリィの表情は曇っていた。
「このままだと魔王がほかの国に進軍するのは時間の問題ね。」
エリスも厳しい声で言う。
「だからこそ、俺たちの旅は急がないといけないってことだな。」
勇者は剣を握りしめながら言葉を続けた。
「焦っても仕方ない。俺のやるべきことは、まずこの剣をちゃんと使いこなせるようになることだな。」
ガルスが勇者の肩をたたきながら笑う。
「その意気だ。まずは自分にできることを積み重ねていけ。」
「それで俺たちは次にどこに行く予定なんだ。魔物との戦いが激しくなっているベルザン帝国にするの?」
勇者の問いにリリィは少し困った顔をする。
「魔王討伐が私たちの最終目的なのでそこを目指したいところなのですが……。」
「私たちは全員実力が足りてないってわけね。魔王と出会ったら私たちなんてちょちょいのちょいよ。とりあえず『三賢者』の一人、ゼルファーがいる町、ソフィアを目指すのがいいんじゃないかしら。」
「『三賢者』?」
エリスの提案に勇者は目を丸くする。
「ええ、『三賢者』と呼ばれる優れた賢者がいるのよ。それぞれ「知」、「武」、「富」の分野で特に優れた才能を持ってて、そのゼルファーは「知の賢者」とも呼ばれているわ。」
ガルスが続けて
「ゼルファー殿はありとあらゆることに精通しておられる。そしてなんといっても勇者殿と同じく異世界より召喚されたものなのだ。うまくいけば聖剣の扱い方など魔王討伐に必要な情報が手に入るかもしれんな。」
「つまり、俺が聖剣を使いこなす手助けをしてくれるかもしれないってこと?」
勇者は少し期待を込めた声で言った。
「その可能性が高いわね。ただ、ソフィアまでの道中には危険も多いわ。最近は魔物の活動も活発化しているししっかりと準備をしてから出発しましょう。」
「わかった、じゃあ次は「知の賢者」がいる町、ソフィアに向かおう。」
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