第3章:聖剣の覚醒と未熟な勇者
ゴーレムを倒し、勇者たちはさらに祠の奥へと進んでいった。長い階段を登りきると、目の前に巨大な扉が立ちはだかった。その扉には精緻な紋様が刻まれており、中央には剣の形をした刻印が輝いている。
「ここが聖剣の間だ。」
ガルスが低く呟く。
「勇者さま、聖剣を手にするのは勇者であるあなたの役目です。」
リリィが優しく微笑みながら言う。
勇者は緊張で喉が渇くのを感じながら扉に近づいた。扉に手を触れると、冷たい感触とともに淡い光が放たれ、ゆっくりと開いていく。その向こうには荘厳な空間が広がっていた。
部屋の中央には、純白の台座が置かれ、その上に一本の剣が静かに立てられていた。剣は細身ながらも力強さを感じさせ、刃からは淡い光が放たれている。まるでそれ自体が生きているかのようだった。
「これが…聖剣。」
勇者はその神秘的な姿に圧倒されながら、剣へと歩み寄った。周囲の静寂が、彼の鼓動の音を際立たせる。
「勇者、その剣を引き抜くのよ。」
エリスが冷静に促す。
勇者は剣の柄に手をかけた。冷たい金属の感触が指先に伝わる。その瞬間、剣が微かに震え、刃から放たれる光が一層強まった。
「大丈夫。あなたならきっとできる。」
リリィの言葉を背に受け、勇者は深く息を吸い込んだ。そして力を込めて剣を引き抜いた。
「……っ!」
剣は驚くほど軽く抜け、勇者の手の中で一際強い光を放った。その光は部屋全体を満たし、周囲を包み込む。
「これが…聖剣の力か。」
リリィたちは無事に聖剣を手に入れることができたことに安堵の表情を浮かべた。一方で、その剣を握る勇者の表情は、どこか不安げだった。
手に伝わる力が重すぎる…。
まるで自分がその力を受け止めきれていないかのようだった。
その時、光の中から声が響いた。
「勇者よ、その力を示せ。」
突然足元から光の輪が現れ、部屋の空間が変わった。勇者の周囲に虚像の敵が現れる。それは黒い影のような姿をした魔物たちだった。
「な、なんだこれ!?」
「おそらく聖剣の試練じゃないかしら。これを乗り越えなければ聖剣は真の力を発揮しないってことなんじゃない?」
エリスが分析的に言う。
「ちょっと待てよ!こんなの聞いてないぞ!」
勇者は慌てながらも剣を構えた。
影の魔物たちは颯を取り囲み、一斉に襲いかかってきた。勇者は剣を振るうが、刃が影に触れるたびに力が弾かれ、まるで効いていないように感じた。
「どうして…効かないんだ!?」
影の一体が勇者の背後から迫り、鋭い爪で攻撃してきた。間一髪で避けたが、その動きはぎこちなく、反撃に転じる余裕もない。
「冷静になって!聖剣はあなたの心に呼応するはずよ!」
リリィが叫ぶ。
「俺の心に…?」
勇者は剣を握り直し影を睨む。しかし、恐怖と焦りが彼の中で渦巻き、聖剣は再び重く感じられた。剣を振るうたびにその動きは鈍くなり、攻撃が全て空を切る。
「くそっ、なんで…!」
影が勇者に再び襲いかかり、今度は彼の足元を狙った。勇者は避けきれず倒れ込んでしまう。聖剣が手から離れ、床に落ちた。
「これ以上は危険だ!」
ガルスが駆け寄り、盾で勇者を守るように立ちはだかった。影の魔物が襲いかかるが、ガルスはそれを全力で受け止める。
「しっかりしろ!お前が戦わないと、この剣はお前のものにならない!」
「でも…俺には無理だ。こんなの、どうやって戦えばいいんだよ!」
勇者の声は震えていた。
その時、リリィがそっと彼の肩に手を置いた。
「勇者さま、恐れることはありません。私たちがここにいます。あなたは一人ではありませんよ。」
その言葉に、勇者の中で少しずつ冷静さが戻ってきた。彼は深く息を吸い込み、聖剣を再び手に取った。
勇者は立ち上がり、影の魔物に向き直った。剣を構えながら、自分の中に眠る力を呼び覚まそうとする。しかし、剣は重いままで、動きは鈍い。
影の一体が再び襲いかかる。勇者は剣を振るうが、またしても攻撃は空を切った。だが、その瞬間、ガルスが横から影を切り裂いた。
「まだ足りないな、勇者殿。だが諦めるな!」
「くっ…わかってる!」
勇者は何とか影を攻撃しようとするが、聖剣の力が彼に馴染む気配はなかった。それでも彼は、仲間たちに支えられながら最後まで戦い続けた。
影の魔物が全て消えると、部屋全体に光が満ちた。剣は微かに輝いているが、完全に覚醒した様子はない。
「どうやら、聖剣はまだお前を認めきっていないようだな。」
エリスが冷静に言った。
「俺が認められるには、どうすれば…」
勇者は悔しそうに聖剣を見つめた。
「焦らないでください、勇者さま。これからの旅の中で、聖剣との絆を深めていけばいいのです。」
リリィが優しく微笑む。
「……そうだな。」
勇者は小さく頷きながら、聖剣を握り直した。
こうして、勇者は聖剣を手に入れることはできたが、その力を発揮するにはまだ時間がかかることを痛感する。彼の旅は、まだ始まったばかりだった――。
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