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第7話:唐揚げと部活

今日も麻里さんと一緒に昼食を取ることになった。


「午前中は授業がなかったから、学校の活動部に行って、部活設立の流れを事前に聞いてきたよ!」

麻里さんが弁当箱を開くと、中には美味しそうなおかずがぎっしり詰まっていた。僕が手にしているコンビニのおにぎりとは、明らかにレベルが違う。


コンビニのおにぎりは定番の味が多い。梅干し、かつお節、バターサーモン、醤油海苔など。僕はそれらを日替わりで食べている。だから今のところ、おにぎりに飽きることはない。それどころか、コンビニおにぎりの利便性を早くから発見したことに、少し誇りを感じていた。


今、僕が口にしているのは、一番好きなバターサーモン味だ。


「ねえ、樹雨くん。」

麻里さんは弁当の唐揚げを箸でつまみ、ぱくっと一口で食べた。「君って本当に毎日、昼ご飯はコンビニのおにぎりだけなの?」


「うん。」

僕は帆布のバッグから、もう一つのおにぎりを取り出した。「今日は二個買ったよ。」


「それは困るなぁ。」


「なんで?」


「だって……君がそんな食生活してたら、強烈に分けてあげたくなるでしょ。」

麻里さんはもう一つの唐揚げをつまみながら、今度はそれを食べずにじっと見つめた。「毎日そんな風に食べてたら、栄養失調で『大往生(だいおうじょう)』ことになるんじゃない?」


「大往生」はそういう時に使う言葉じゃないと思うけど。


「ならさ……」

僕は手にしていた醤油海苔味のおにぎりを麻里さんに差し出した。「僕の栄養失調を分けてあげるよ。」


「それで君が納得するなら……」

麻里さんはさっき手にしていた唐揚げを、僕の目の前に差し出した。「これで等価交換だね!」


僕が手で唐揚げを取ろうとすると、麻里さんは左手で僕の手をぺしっと叩いた。


「ダメだよ。手で取るのは汚いでしょ。」


「手は洗ったんだけど……」


「それでもダメ!」

麻里さんはくすっと笑った。「箸、持ってないでしょ?仕方ないなぁ。私が食べさせてあげるしかないね~。」


図星だった。おにぎりを食べるのに箸は必要ないから、持ってきていない。


「その……」

僕は一瞬、迷った。


いやいや、麻里さんはさっき自分でその箸を使ってたんだ。これって「間接キス」になるんじゃないか?


「もしかして、こんなこと考えてるんじゃないですか?『間接キス』ってね?」

麻里さんは目を細め、顎に手を乗せて僕をじっと見つめた。「やれやれ~、昼ご飯食べてる時までそんなこと気にするなんて。もしかして、いつも私と……」


彼女が言い終わる前に、僕は素早く唐揚げを口でくわえた。


「そんなわけないよ。」


何をツンデレしてるんだ、僕は。


「唐~揚~げ~お~い~し~い~?」

麻里さんは身を乗り出し、僕の視界いっぱいに彼女の顔が広がった。「これね、私が作ったんだよ。」


「美味しい……ありがとう。」

僕は小声で呟いた。


「もっと素直に言えば、相手も喜ぶのにね。」


「それって……」


「まぁ、いいか。これからたくさん時間があるし、君はきっとそのうち分かるよ。」


*****


食事が終わり、そろそろ本題に入ることにした。


「まずは、部活の計画書を書かないとね。」

麻里さんがカバンから一枚の書類を取り出す。そこには大きく『部活計画書』と書かれていた。


内容には部活の創設者、つまり部長、副部長、事務、広報の役職が必要と書かれている。そして麻里さんは自ら部長になるつもりのようだ。


「事務と広報は部長と副部長が兼任できるから、最低でも創設メンバーは二人いればいいみたい!」


「潜在的な部員、何人か見つけてたんじゃないの?」


「それはそうだけど……」

麻里さんは目を輝かせながら僕をじっと見つめる。「でもさぁ、樹雨くんには副部長をやってほしいの!」


「いや、僕には向いてないよ。」


「決まりっ!」

麻里さんは勝手に副部長の欄に僕の名前を書き始める。


「えっと……君の名前の漢字ってどう書くんだっけ?」


「書けないなら、書かなくていいよ。」


「じゃあ、読み仮名だけでも!」

麻里さんはペンを動かしながら、自分が書いた文字をつぶやく。「む、ら、か、み、き、あ、め!」


その後、事務と会計の欄にも別の名前を書き込む。


「平岡森麻美?」

その名前には見覚えがあった。「彼女って『文学』専攻のクラスメイトだよね?知り合いなの?」


「ふふっ、同じレストランでバイトしてるんだ。」


ああ、なんとなく平岡さんと麻里さんが仲良くやっている姿が目に浮かぶ。


部員の欄を埋め終えたら、次は顧問の先生を見つける必要がある。


「まあ、名義だけなんだけどね。それでも、どうせなら仲のいい先生に頼みたいなぁ。」

麻里さんは右手で軽く額をポンと叩く。考え事をするときの癖らしい。


「誰に頼もうか?」


「専門の先生に聞いてみたんだけど、他の部活の顧問をしてるって断られちゃった。」


「そういえば、君の専門って何?」


「それはヒミツ~。」

麻里さんは人差し指を唇に当てて「し~っ」とおどけてみせる。「前にも言ったよね?部活がちゃんと設立できたら教えてあげるって。」


「じゃあ、楽しみにしてるよ。」

僕はあくびを一つしてから続けた。「古久保先生に頼んでみるのはどう?」


「いいね!じゃあ今から行こっか!」


「今から?先生がどこにいるか知ってるの?」


「知らない!えへへ~。」

麻里さんはスマホを取り出し、親指で画面をカタカタと打ち始めた。


「ちょっと、それ何してるの?」


「待ってて、すぐ終わるから~。」

麻里さんは微笑みながら、まるで全てが思い通りに進んでいるかのように余裕の表情を見せる。


待っている間が退屈だったので、僕は『部活計画書』の残りの欄を確認した。


「活動内容?」

思わず声に出してしまう。「部活の今後の活動計画も考えないといけないのか。」


「ボードゲーム部」の活動って、要は「ボードゲーム」だよな。でも、ただの娯楽が活動内容で、活動部に通るものなんだろうか。少なくとも「教育的(きょういくてき)意義(いぎ)」みたいなものが求められる気がする。


「できた!古久保先生、私たちの部活の顧問を引き受けてくれるって!」

麻里さんはそう言うと、スマホの画面を僕に見せてきた。そこには麻里さんと先生のやり取りがしっかり残されていた。


「先生のLime持ってるの?」


「え、持ってないの?」


「ないよ。」

先生と生徒の間には、見えない壁みたいなものがあるべきだろう。Limeを交換するなんて、普通はありえないと思うんだけど。


僕もスマホを取り出して、麻里さんと連絡先を交換することにした。


「私のLime、追加したい?」

麻里さんがLimeの友達追加用QRコードを僕の目の前に差し出してきた。「追加したら、毎日メッセージ送って邪魔するからね~。」


「じゃあ、やめとく。」


「そんなこと言わないでよ。」

麻里さんは僕のそばにぐっと身を寄せ、ちらっと僕のスマホを覗き込んだ。


「えっ?戸塚さんのLime、持ってるの?」


「うん。最近のおすすめの本とか、たまに情報交換するんだよ。」


嘘である。正直、連絡用以外では戸塚さんとのチャットルームはほとんど空っぽだった。


「浮気者!」

麻里さんがぷりぷり怒る。どうやら、この言葉は小悪魔な麻里さんへの反撃として、かなり効果的らしい。


彼女は頬を膨らませて、モゴモゴしながら言った。「じゃあ……罰として……活動内容、書いてもらおうかな……。」


麻里さんは目を伏せ、髪の毛を指でくるくると弄んでいる。ぽっちゃりした頬がほんのり赤く染まっていた。


……こうしてると、麻里さんって意外と可愛いんだよな。


待て待て、今の流れで「活動内容」を書けって言われたよな?


麻里さんが顔を上げ、にこっと笑った。


「冗談だよ、えへへ~。」


ほっ……危なかった。


「でも、『活動内容』の部分はやっぱりお願いね。だって、樹雨くんの文学センスはピカイチだもん。」

麻里さんがウインクしながら言う。「お礼にご飯おごるから!」


あまり気乗りはしないけど、こういうのは後々役立つ「貸し」にもなるし、引き受けることにした。


「ご飯に釣られて、一肌脱ぐか。」


「やったー!本当に?」

麻里さんは喜びのあまり、ぴょんぴょん跳ねたかと思うと、突然僕に抱きついてきた。


「大好きだよ、樹雨くん!」


……まさか、たった二日で同じ人に二度も抱きしめられるなんて経験、僕の人生で初めてだよ。


*****


午後の授業前に、僕は戸塚さんにメッセージを送った。

「『生徒専用教室』の申請の件で、一緒に話せる時間を作ろうよ。☺」


すぐに返事が来た。

「ごめんね、今日は風邪ひいちゃって、お休みしてるの。QQ」


「気にしないで!体を大事にしてね!!」


少し考えてから、もう一通送る。

「『美術』専門の課題、必要なら代わりに聞いておこうか?」


「ありがとう、大丈夫だよ。うちの専門の課題は基本的に学校でやるから。」


「OK!」


「Ok!」


「今日の午後は確か、『グループディスカッション』だったよね。」


「そうそう!クラス会と同じで、元の教室でやるんだって。」


「なるほどね。他の専門の同級生たちにも会えるんだ。」


「うん、でも残念だな、私は行けないや。」


「気にしないで、また次があるよ。」


「じゃあ、また明日ね。☺」


「はい!!☺」

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