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第16話:ゲームと鉱夫

午後の放課後まで、あのギャルのクリームシチューが僕の頭の中から離れなかった。

とはいえ、今考えるべきことはそれじゃない。僕は、どの女の子との約束を優先するかを決めなければならない。


僕は麻里さんとの約束を選んだ。

理由はよく分からないけど……たぶん、副部長としての責任感だろう。社団の幹部として、初回の活動には最低限参加すべきだと思ったんだ。


もちろん、ほかの二人の誘いは断った——


「ごめん、午後は部活があるんだ。副部長として、最初の活動くらいはちゃんと出席しないとなって思ってさ」


「大丈夫だよ、村上くん。実は私も今日の午後、部活があるの」


「戸塚さんって、どの部活に入ってるの?」


「書道部だよ」


「戸塚さん、書道できるの?」


「ただの興味だよ。そこまで上手じゃないし、今は面白がって書いてるって感じかな」戸塚さんはくるりと瞳を動かして、「きれいな文字を見ると、つい真似したくなるんだよね」


「それ、なんだか戸塚さんらしいね」


「え?どういう意味?」


「いや、ごめん。勝手に変なこと言っちゃった」


「気にしないで。冗談だよ。村上くんは部活、頑張ってね」


そう言って、戸塚さんはひらひらと手を振りながら去っていった。

彼女の後ろ姿を見送りつつ、僕はスマホのチャット画面を開いた。(詩音とのトークルーム)


指先がキーボードの上を走る——


「詩音、久しぶり。ごめん、今日の午後はちょっと予定があって行けそうにないんだ」


少し考えた後、さらにメッセージを打つ。


「それに、過去のことはもう過去のままでいいんじゃないかな。無理しないで。詩音も、静かに卒業したいんだろ?」


ついでに、適当にスタンプを送る。こうすれば、空気が少しは重くならずに済むはずだ。


1分ほど経ったが、詩音はメッセージを読まなかった。


僕はスマホをポケットにしまい、次に開くのは家に帰った後だろうと思いながら、歩き出した。


僕はいつもLimeの通知音を切っている。


理由は単純で、クラスのグループチャットの通知頻度が異常に高いからだ。あの「ピコンピコン」って音で、眠れなくなるのは勘弁してほしい。


*****


麻里さんと赤郎くんの恋の進展はどうなってるんだろう。


まあ、僕が気にすることじゃないか。それより、高校生活の間に僕は彼女を作りたいって思うのかな?


……でも、中学時代の失敗した恋愛経験が、どうしても踏み出す勇気を奪ってくる。


とりあえず、今はそんなことを考えるのはやめよう。まずは、これから始まる部活動で何をするのかを考えたほうがいい。

とはいえ、麻里さんが「全部任せておいて!」って言ってたし、あまり心配する必要はないかもしれない。


部室はB2校舎の五階にある。

廊下を歩いていると、見覚えのあるシルエットが目に入った。


「おやおや~、これはこれは! 超すごい作家さんじゃないですか? いやー、香織ちゃんから村上くんも来るって聞いてたけど、まさかこんなに早く来るとはね!」


平岡さんが僕を見つけて、目を輝かせながら話しかけてくる。


「まあ、確かに早いかもね。けど、副部長として、初めての部活くらいは早めに来ておくのが筋ってもんでしょ。」


「あとねあとね、聞いたんだけど、どうやら今日来る人、そんなに多くないみたいよ?」

平岡さんは楽しそうに足を揺らしている。


「いや、それってあんまり喜ぶことじゃないだろ? なんでそんなに楽しそうなんだよ。」


「だって、『限られた人だけが知ってる秘密基地』って感じがしない?」


うん、やっぱりこの子は根っからのポジティブだな。


第一印象の通り、平岡さんは活発で明るく、まるでじっとしていることができない性格に見える。

それなのに、どうして小説を書こうと思ったんだろう……しかも、僕も何度か読んだことがある彼女の恋愛小説。


そう、『抱抱妖怪ぎゅっぎゅモンスター』。

もまみのペンネーム「百愛もあい」で執筆された、甘すぎて砂糖を吐きそうなほどの名作。


その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「あなたたち、ここの部員? この教室……」


「わっ! これはまた、クラスメイトじゃないですか! 全然話す機会なかったよねー!」


奈良櫻さんが僕たちのそばに現れた。

……でも、彼女の目は僕たちではなく、廊下をじっと見渡している。


「ごめんね。」


「え? なんで謝るの? 櫻ちゃん、めっちゃ可愛いのに!」


「可愛い? そういうこと言うお前、なんか変なやつ。」


さっきまで盗み聞きした彼女の友達との会話とは打って変わって、今の奈良さんは容赦なく鋭いツッコミを入れてくる。


こうして近くで見ると、彼女の体格は予想以上に小柄だった。

もし誰かが「中学生です」って紹介したら、僕もすんなり信じてしまいそうだ。


「お前たち、ほんとに早いわね。」

奈良さんはあくびをしながら、呆れたように言った。

「部員たちがこんなに早く集まってるのに、肝心の部長が遅いってどういうことよ?」


「櫻ちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ!」

平岡さんが勢いよく叫ぶ。


「え?」


「香織ちゃん、まだレストランのバイト中なの……」


「ああ、そういえば、平岡さんと麻里さんって同じ店でバイトしてるんだっけ?」

僕は記憶を頼りに確認する。


「えっ!? 村上くん、知ってたの!? わーい、よかったぁ! ほんとに助かる!」

平岡さんがパチパチと手を叩いて喜ぶ。

「じゃあ、わかるよね……? バイト勢の時間って、必ずしも決まってないってこと!」


「僕はバイトしたことないけど……まあ、不可抗力ってやつか。さっきの発言はちょっと言いすぎたかも、ごめん。」


「気にしないで! 香織ちゃんはもうすぐ来るよ! まだ約束の時間には早いけど、あの子は絶対に遅刻しないタイプだから!」


「……で、お前、その爆乳悪魔とそんなに親しいわけ?」

奈良さんが突然、冷静な声で口を挟む。


「爆乳悪魔? 香織ちゃんのこと? うん、それなりに仲いいよ~。えへへ……」

平岡さんが頭を掻きながら、照れくさそうに笑う。


僕はスマホを取り出し、時間を確認した。


まだ放課後になって間もない。

約束の時間まではあと三十分もある。


本当なら、この時間を使って原稿を進めたいところだけど

……問題は、まだ社団教室の鍵が手に入っていないことだ。


さらに、廊下には椅子も机もなく、ノートパソコンを開くにはあまりにも不便すぎる。

おまけに、隣にはやたらと話し好きな人物がいるせいで、とても集中できそうにない。


案の定、少し静かになったかと思えば、すぐにまた平岡さんが新しい話題を持ち出した。


「せっかく同じ部活の仲間なんだから、仲良くしようよ! ところで、櫻ちゃんはどうして卓上ゲーム部に入ったの?」


「そんなこと、どうでもいいでしょ。ていうか、私は別にあんたと仲良くするつもりないし。あと、気安く櫻ちゃんとか呼ばないで。」

奈良さんは、深いため息をついた。


「悲しい!!」

平岡さんは、両手をぶんぶん振りながら叫ぶ。

「同じ部活にいるなら、仲良くするのが常識じゃないの?」


奈良さんは何も言わず、ただスマホを取り出して、無言で画面をスクロールし始めた。


「絶対に仲良くなれるよ! 友達が増えるのは、悪いことじゃないからね!」

平岡ちゃんは真剣な表情で、まるで先生の真似でもしているかのように人生哲学を語り出した。


「はいはい、友達くらいならなってあげるわよ。」

奈良さんはスマホをポケットにしまいながら、肩をすくめた。

「ただし、お前たちがあの爆乳悪魔のそうくじゃないならね。」


「えっ、どういう意味?」

平岡ちゃんは首を傾げ、きょとんとした顔をする。


しばしの沈黙の後、彼女は何かを思い出したように手を叩いた。

「あ! でもね、香織ちゃんとはすっごく仲良しなんだよ!」


「ったく……。」

奈良さんは深いため息をつくと、僕の方に視線を向ける。


「で、お前は村上だったわね。正直、そんなに親しいわけじゃないけど、あえて忠告してあげるわ。戸塚とはあまり関わらないほうがいいわよ。あの子、なんか変だから。」


「奈良さんが戸塚さんのことを『変』って言うのは、具体的にどういう意味? たしか、奈良さんも美術専攻だったよね?」

僕は少し疑問に思いながら尋ねる。


「私に聞かないで。知りたきゃ、私の彼氏にでも聞きなさい。」


「えっ、櫻ちゃん……彼・氏持ち!? うわあああ!!もつれ合う恋愛関係! 絡み合う思い! 」

平岡ちゃんは大げさに叫びながら、両手をぶんぶん振り回す。


「何か問題ある? もしかして、お前彼氏いないの?」


「誰か『彼氏』の話してた~?」


麻里さん、まるで忍者のように気配を消して現れ、いつの間にか僕たちの会話を聞いていたらしい。


「ふふっ、なんだかもう、みんなすっかり打ち解けたみたいね~。」


僕は麻里さんに視線を向けると、彼女の隣にはテーブルゲームがぎっしり詰まったカートがあった。


「それじゃあ、私たちの記念すべき第一回・ボードゲーム部の活動、きっと楽しくなるわよ~」


*****


ボードゲーム部の初めての活動が、ついに始まった。


メンバーは僕、麻里さん、平岡さん、そして奈良さんの四人だけ。


一応、部の設立条件はクリアしているものの、他の部活と比べると、やっぱり少ない方だろう。


僕たちは教室の中央にある円卓を囲んで座り、麻里さんは司会者のように軽く喉を鳴らしてから口を開いた。


「みなさん、ボードゲーム部の記念すべき第一回活動へようこそ!」

彼女は満面の笑みを浮かべる。

「部員は四人だけだけど、ここで楽しい時間を過ごせるって、私は信じてるよ~」


「『楽しい時間』ねぇ……そうだといいけど。」奈良さんはぼそっとつぶやく。


「まぁまぁ、とにかく今日はウォーミングアップ! みんなで遊ぶにはぴったりなクラシックなボードゲーム……『お邪魔者』をやりましょう!」

麻里さんはカートの中から箱を取り出した。


「お邪魔者?」僕は首をかしげた。


麻里さんはゆっくりと席につく。丸顔が幼さを醸し出しているものの、一瞬だけ、狡猾な笑みを浮かべた。


「簡単に言えば、『協力』と『裏切り』のゲームだよ」

彼女は箱の中からカードを取り出しながら説明を続ける。

「プレイヤーは全員ドワーフ。金鉱を掘り当てるまじめな鉱夫もいれば、それを邪魔する『お邪魔者』もいるの。誰が味方で、誰が破壊者か……それを見極めながら進めるゲームだよ。」


「うわぁ、めっちゃ面白そう!」平岡ちゃんはパチパチと手を叩いた。


「……本当に?」

奈良さんは額を押さえて深いため息をつく。

「つまり、これは人を疑ったり、騙したりするためのゲームってことよね?」


「まぁまぁ、そんなこと言わないでよ~櫻さん!」

麻里さんはニコッとウィンクしながら、甘えたような声で言った。

「こういうゲームこそ、頭の体操にぴったりだと思わない?」


「いや、あなたが一番の詐欺師じゃないの……?」奈良さんは警戒心むき出しの表情で睨む。


「え~? 私が~?」

麻里さんは何も知らない innocentイノセント な顔で笑う。


そんなやり取りをしながら、麻里さんは手元のカードを整理し、ゲームのルール説明を始めた——


役割を決める役割カードとは別に、手札は「道カード」と「アクションカード」に分かれる。そして、ゲームにはスタートカード1枚とゴールカード3枚(1枚の金鉱カードと2枚の石カード)、さらには得点を決める金塊カードが含まれている。


【道カード】

道カードは、鉱夫たちがスタートカードからゴールカードまで道を繋げるためのものだ。(スタートカードとゴールカードの間には7枚の道カードを置くスペースが必要であり、ゴールカード同士の間は1枚の道カード分のスペースを空けておく必要がある。)

なお、ゲーム開始時はゴールカードは伏せられており、どれが金鉱カードかはプレイヤーにはわからない。


【アクションカード】

アクションカードには、「道具破壊カード」「道具修復カード」「落石カード」「地図カード」の4種類がある。


道具破壊カード は、ドワーフの持つ道具を壊すことができる。(道具は「つるはし」「ランプ」「トロッコ」の3種類)いずれか1つでも壊されると、そのプレイヤーは道カードを置けなくなる(ただし、アクションカードは使用可能)。


道具修復カードは、壊された道具を修理できる。


落石カード は、すでに置かれた道カードを1枚取り除くことで、道を遮断することができる。


地図カード を使うと、ドワーフは1枚のゴールカードをこっそり確認することができる。


【ゲームの勝敗】

鉱夫たちが道カードを繋げ、金鉱カードまで到達すれば、誠実な鉱夫チームの勝利!勝利した鉱夫たちは、金塊カードを獲得できる。


もし誤って石カードに辿り着いた場合は、金鉱を探し続け、残り2枚のゴールカードへと道を繋げる必要がある。


しかし、もし手札が尽きるまでに金鉱を見つけられなかった場合、破壊者チームの勝利となる。この場合、破壊者たちが金塊を獲得することになる。


数ラウンドのゲームが終わった後、獲得した金塊の数を計算し、最終的な勝者を決める!


今、みんなそれぞれ1枚の役職カードを手に入れた。僕も自分の役職を確認し。


すると、隣に座っていた麻里が、わざと僕に近づいてきて首を伸ばし、僕のカードを覗き込もうとしてきた。


「樹雨くん、もしかしてサボターじゃないの?」


「他人の役職を盗み見るのはルール違反だろ!」僕は慌ててカードをポケットにしまった。


「ふふっ、そんなに慌てちゃって…もしかして、本当に何か隠してるんじゃないの?」麻里はさらに僕に寄り、声を少し低くした。彼女のジャスミンの香水の匂いが僕の周りを包み込む。


「な、ない!」僕はとっさに否定したが、耳がほんのり熱くなるのを感じた。


「そうかなぁ?」麻里は悪戯っぽく眉を上げ、「嘘つきは悪い子だよ~?」と囁いた。


──ゲーム開始。


みんなが順番にカードを出し、道をつなげていく。序盤は和やかな雰囲気だった。


「よーし!金塊をいっぱい掘るぞ!」平岡が楽しそうに体を揺らしながら、嬉しそうに言った。


「お前なぁ……そんなに分かりやすく言うと、もう誰もが役職を察するだろうが……」奈良が呆れたようにため息をついた。


「えっ?バレちゃった?」平岡はぱちくりと目を瞬かせ、困惑した表情で麻里を見た。「香織ちゃん、私たち一緒に金塊掘る仲間だよね?」


「もちろんだよ~、私たちはたくさんたくさん金塊を掘らなきゃね!」

麻里は優しく微笑んだ。

「でもね、もまみさゃん、気をつけたほうがいいよ。もしかしたら……こっそり邪魔しようとしてる人がいるかもね~?」


*****


ゲームが進むにつれ、僕はどうにも違和感を覚え始めていた。


金鉱に近づくたびに、平岡が「落石」カードを出して道を塞ぐ。そして、その様子を麻里は終始にこにこしながら見守っている。


「樹雨くん、ねぇ、誰が破壊者だと思う?」麻里が突然問いかけてきた。


「平岡さんだろ。」僕は即答した。


一瞬の静寂。気づけば、麻里の視線がじっと僕に注がれている。まるで僕の反応を探るように。


「もしかしてさぁ、樹雨くんがわざと話をそっちに持っていってる可能性はない? ちょっと怪しいなぁ~?」

麻里はゆっくりと僕に寄り、スラリとした指で僕の頬をつついた。

「実は、本当の破壊者って樹雨くんなんじゃない?」


「さっきから平岡さんがずっと道を壊してるじゃん。」


「本当に?」麻里は首をかしげながら、さらにぐっと距離を詰めてきた。今度は僕の腕にそっと手を置く。


「ねぇ、ちょっと見せてよ、樹雨くんのカード。」


「それ、チートじゃないか!」

僕は思わず抗議し、のけぞるように身を引いた。しかし、背中はすでに椅子の背もたれにぶつかっていて、逃げ場がない。


「まぁまぁ、そんなに緊張しなくていいのに。」

麻里はくすくすと笑いながら、「冗談だよ~。私はちゃんと知ってるよ、樹雨くんが『良い子』だってこと。」


その時、奈良がすかさず口を挟んできた。

「お前らさぁ、今はイチャついてる場合じゃないでしょ。」


「やだなぁ、櫻ちゃん、私は何もしてないよ~?」麻里はとぼけた顔をしながら、ゆっくりとカードを出した。「ほら、櫻ちゃんのつるはし、直してあげるね。」


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