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第12話:バレーボールと夢

残念なことに……


執筆の世界に浸っていても、外の出来事が侵入してくるのを止めることはできなかった。


中学二年生の二学期から、詩音に関する噂が耳元をささやき始めた。


「ねえ、あの子、家が貧乏でパパ活してるんだってさ……」


「そうそう、友達がKTVで彼女がホステスしてるのを見たってさ……」


最初は少し心がざわついたが、真剣には受け止めなかった。

「噂話は賢者で止まる。」僕はそう思っていた。


だが……


「おい!村上!呼んでるぞ!」

廊下で、数人の男子が僕の背後から声をかけてきた。


振り返ると、見覚えのあるがっしりとした体格の男子がいた。

彼は一年生の頃、詩音によく声をかけては冷たくあしらわれていた。


詩音が休学した後、彼を中心に噂が広まっていたことを思い出す。

だから、彼の声掛けが善意でないことはすぐに理解できた。


「な、なんだよ?」僕は警戒しながら後ずさりし、神経を研ぎ澄ました。


「ハハ!そんなに怖がるなよ!」

僕と同じくらいの背丈の男子が笑いながら言った。

「俺たちはただ、取引がしたいだけさ。」


その軽蔑の表情から察するに、不平等な取引であることは明らかだった。


僕は答えず、彼らをじっと見つめた。


すると、がっしりした男子が一歩近づき、彼の影が僕を包み込んだ。

箱に閉じ込められたような息苦しさを感じた。


彼は笑いながら、ポケットから一枚の写真を取り出して僕に見せた。


まるで灼熱の硫酸が網膜を焼き尽くすかのように、目に入った瞬間、僕は反射的に目を閉じた。


周囲から冷たい笑い声が響きわたる。


「おい、俺が言ってる『パパ活』って冗談じゃねえからな。」


そんなはずがない。これは悪質なイタズラに違いない。


写真を一瞬だけ見ただけだが、それでも詩音が裸でベッドに横たわるショッキングな姿が焼き付いていた。


「さあ、取引しようぜ。さもないと……」

彼の笑い声はさらに鋭くなった。

「この写真がどこに流れるか、俺には分からねえな。」


「分かった……」僕は不本意ながら答えた。


詩音を守りたいという愚かな気持ちが、僕を不平等な取引に引きずり込んだのかもしれない。


詩音が学校での評判を守るために、僕は目の前のこの男に従わなければならなかった。


僕は自分に言い聞かせた。「彼らのいじめなんて大したことじゃない。」


しかし、その取引の後、詩音は僕の電話にもメッセージにも一切応じなくなった。


それでも、詩音がピアノの練習で忙しいからだろうと思い込むようにした……


*****


目を背けたくなる家庭、目を背けたくなる学校。

授業の合間の時間が次第に耐えがたくなっていく。


最初はただの使い走りだった。お菓子を買いに行かされる程度で、僕が黙って従っていたのが、彼らの要求をさらにエスカレートさせた。

最終的には、自分の財布から昼食代を出して、昼休みに校外で買い出しをする羽目になった。


彼らの嘲笑や嫌味はさらに鋭くなり、身体で耐えられたとしても、言葉の刃が心に傷を刻むことには変わりなかった。


三年生に進級した後も、同級生たちの冷笑は減らなかった。

むしろ、ますます多くの人間がいじめる側に回り、自らを「聖人」と称し、「異端者」である僕を排除しようとするかのようだった。


「ほら、あいつが偏才の変人だろ……?」

「ちょっと小説を書けるだけで、調子に乗ってるんじゃない?」


毎日耳元でそんなささやきが聞こえた。


ある日、例のがっしりした男の機嫌がさらに悪かったらしい。


気が付くと視界が傾き、僕は椅子から落ちた。


全身が床に投げ出され、教室の蛍光灯の光が目に刺さる。

耳には周囲の冷笑が突き刺さり、膝の痛みがじわじわと広がっていった。


立ち上がろうとしたが、肩を強く押されて再び倒れ込んだ。

膝がまた冷たいコンクリートの床にぶつかり、焼けるような痛みが神経を駆け巡った。


僕は口を開けたが、声が出ない。ただ、歯を食いしばり、指先を震わせながら床に手をついた。


息を整える間もなく、制服の襟をつかまれ、壁に強く押しつけられた。

背中で壁のひび割れが感じられるほどだった。


周囲の人々は遠巻きに僕たちを見ていた。畜生を見るような目で。


「なんで反抗しないんだよ?床がそんなに好きなのか?」


がっしりした男の声が耳元で炸裂する。


僕はうつむいたまま、自分に言い聞かせる。

「詩音のために、耐えなきゃ……」


「誰に言ってんだ?こんな陰気なやつは、踏みつけられて当然だろ!」


そう言うと、彼は僕の膝を容赦なく踏みつけた。

絶望的な痛みが全身に広がり、逃げ出したい衝動に駆られたが、体は動かなかった。


*****


その日の体育の授業、陽光がバレーボールコートに降り注ぎ、砂地が熱せられていた。靴底からじんわりと伝わる熱は、右膝の傷口を容赦なく刺激する。


僕はコートの端に座り、痛む膝には厚く巻かれた包帯がぐるぐると巻かれていた。


「お前の足、もう治ったんじゃねぇの?」

聞き慣れた声が頭上から降ってきた。影が太陽の光を大きく遮る。

「そろそろコートに立てるだろ?」


がっしりした男の手が僕の肩を叩く。その力強さに思わず体が沈む。


「ケガしてるんだ。少なくとも、休ませてくれよ……」僕は平静を装おうと努めた。


「休む?体育の授業をケガ人のリハビリの場だとでも思ってんのか?試合に出ろって言ってんだよ!」

男は僕の腕を乱暴に引っ張り、立たせた。右膝の痛みなどお構いなしだった。

「忘れてねぇよな?俺たちの取引を……」


詩音のために、耐えなきゃ……


手のひらに冷や汗が滲む。右膝の痛みはますます強くなるが、断る権利なんて僕にはない。

心臓がドクンドクンと不規則に脈打ち、強引に男に押されてコートの中央へと進んでいく。


コートの上には二つのチームが向かい合い、僕はネット前に無理やり立たされた。


「逃げるなよ。」


試合が始まると同時に、がっしりした男の視線が僕の背後で突き刺さる。

まるでナイフのような眼差しが、僕をその場に釘付けにした。


間もなくして、最初のボールが勢いよく飛んできた。

僕のすねに直撃する。


「おいおい、取れなかったのか?ははは!」

男が大声で笑い、周りの連中もそれに合わせて拍手し始める。

まるで僕がピエロで、彼らを楽しませるためだけにコートに立たされているかのようだった。


鋭い痛みがすね全体に広がる。

すでに傷んでいた場所にバレーボールが追い討ちをかける。


耐えがたい痛みに呼吸が乱れ、額にはじっとりと汗がにじむ。

それでも、僕は歯を食いしばり立ち続けた。


次のボールはさらに速く、さらに強烈だった。

今度は膝に直撃する。


膝が耐えられず、僕の体は後ろへ倒れ込んだ。


地面に頭が打ち付けられ、視界がぼやけていく。


「おいおい、村上。なんて不注意なんだ?」

男がゆっくりと歩み寄り、僕を見下ろす。その声には冷たい嘲笑が含まれていた。

「運動もできねぇのかよ……」


詩音のために、耐えなきゃ……


*****


柔らかな感触が、突然全身を包み込んだ。

気づけば僕は保健室のベッドに横たわっていた。右膝の痛みは、微かに肌をかすめるように漂いながら、次第に消えていく。


僕は、どれくらい眠っていたんだろう。


「村上くん、大丈夫?」

聞き慣れた優しい声が耳に届く。


隣を見ると、戸塚さんが僕のベッドのそばに座っていた。心配そうな表情を浮かべて、こちらを覗き込んでいる。


「さっき、寝てるときすごく顔をしかめてたよ。すごく辛そうだった。」


え?まさか僕が寝ている間の情けない顔を、彼女に見られてしまったのかよ?


僕は慌ててベッドから起き上がり、無理やり元気なふりをしてみせる。


「なんでもないよ。ただ出版社に原稿を催促される夢を見ただけさ。」


中学時代に受けたイジメの夢を見た、なんて口が裂けても言えない。


「うそ。」


「え?」


「なんでもないよ。」

戸塚さんはふっと微笑むと、拳を軽く握って言った。

「一緒に体育に行こう。私、バレーボール苦手だけど、頑張ろうね!」


「……頑張ろうか。」

僕は小さくため息をつく。


すると、突然彼女が僕の手を取った。

「村上くん、頑張ろうね!」


戸塚さんは僕の手を引き、小走りでバレーボールコートへ向かう。


手のひらから伝わる温もりが、ほんの少しだけ僕の心を癒してくれた気がした。

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