文案公開:『心の瑕疵』 第365話:来世でもまた会えますように ( 抜粋 )
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目を覚ました時、僕の世界はぼんやりと霞んでいた。
目尻にはまだ涙の跡が残っている。
きっと長い夢を見ていたはずなのに、目覚めるとその記憶は霧のように消えていた。
それは、僕がずっと望んでいた世界だった。
なぜなら、そこには僕が思い描いたすべての美しいものが溢れていて、世界はまるでカラーフィルターを通したかのように鮮やかだった。
窓の外を走る車の音さえ、見事な交響曲のように響いていた。
昨日、小和田さんと別れた後、僕の心は驚くほど穏やかだった。
きっと今日は、この日記を書く最後の日になるだろう。
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第365日目
薬をやめてから一ヶ月が経った。今のところ、心はますます静かになっていくのを感じている。
これが僕の美しい世界で、誰にも汚されない場所だと思う。
人と距離を保てば保つほど、僕の心は完全に近づいていくような気がする。
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ペンを止めると、日記のページの間に挟まれた一枚の写真が目に留まった。
それは僕と小和田さんが一緒に写っている写真だった。振り返る過去は、いつも金色に輝いている。
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日記を書き終えると、僕は大きくあくびをして、静まり返った部屋を見回した。
特にすることもなかったので、僕は階段を降りて、自分で朝食を作ることにした。
「美味しいハムサンド!」
朝食を食べ終えた後、僕はさっき書いた日記を手に取り、小和田家へと向かった。
これは彼女との約束だった。一年間書き続けた日記を交換して読むことになっている。
通り過ぎる家や田畑が、穏やかな田舎の旋律を奏でる。
水の流れる音、風の音、自転車のチェーンが鳴る音——
小和田家は、この辺りの町外れにある。
視界を遮る高層ビルが、地平線を覆い隠していた。
その圧迫感が、僕の心を少しだけ重くした。
暴走しそうな衝動を抑え、僕は前を見つめながらペダルを踏み込んだ。
すぐにでも小和田さんに会いたかった。
いつもの古びたアパート——
僕は一階から五階まで駆け上がった。
階段の踊り場に、見覚えのある姿が立っていた。
「重信くん!昨日はあんな酷いこと言って、ごめんなさい!」
小和田さんが、懸命に謝罪してくる。
僕は、人から謝られるのが嫌いだった。
顔に浮かぶ汗が、さっきまでの努力の証だろうか。
僕は息を吐き、ゆっくりと首を振った。
「……どうしたの?まさか、本当に……私のこと嫌いになったの?」
小和田さんは今にも泣きそうだった。
「早く……見せてあげるよ。」
僕はぶっきらぼうに、自分の日記を差し出した。
「それと、君の日記も。」
「あっ……うん!」
小和田さんは涙を拭い、部屋の中へと戻っていった。
「君も入って。」
彼女はそう言うと、僕を振り返った。
僕は何も言わなかった。
静けさを壊したくなくて、ただ彼女の後についていった。
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