「お前で興奮することは無い」と言われた公爵令嬢ですが、どう見ても殿下はビンビンです。
「部屋で待っていろ」
それがお決まりの合図。
「……で、殿下」
夜も遅い時間、やって来てすぐに衣服を投げた殿下に頭を下げた。
「お話が御座います」
「なんだ。忙しい故に手短に話せ」
「……殿下はわたくしを『興奮に値しない相手』と」
「……」
「ですが……」
頭を上げ、殿下のまだ着たままのズボンへと目をやった。
「昼間、友人達と少し話をする時間がありまして」
「なんだ」
「皆、夜の方はどの様に致しているのか。と」
少し、殿下の顔が強張った。
慌てて下を向き話を続けた。
「殿下に失礼があってはならぬと思い、作法の方を友人に伺ってみたのであります。婚約前に母は『全てを委ねよ』と言いましたが、果たしてそれで良いのか分からなくなりまして……」
「……何が言いたい」
「色々と聞きたい事はあるのですが、よろしいでしょうか?」
「手短に」
「……友人達は長さを──つまり大きさを片手の人差し指と親指だけで表しておりました」
殿下のやけに盛り上がったズボンには、棍棒が隠してあるのかと思っていたが、友人達のおかけでそれは違うと言うことが分かった。
「私だけ、小さな前ならいだったのです……」
「……」
「殿下、率直に申し上げまして…………メチャクチャ興奮しているのではないのでしょうか?」
「ふっ」
私の質問を、殿下はすぐに鼻で笑った。
「殿下は灯りを消してしまうので分かりませんでしたが、尋常ならざる者のソレでは御座いませぬか?」
「これは訓練によりそうしているだけだ。決してお前で興奮しているのではない」
殿下は強く否定をした。
が、疑惑はこれだけではない。
「恥ずかしながら、わたくしは男女の仲というものを全く知らぬまま今に至っております。ですから、友人達に根掘り葉掘り聞いてみたのであります」
「まだ何かあるのか」
殿下はゆっくりとベッドに腰を下ろし、髪をかきあげた。目線が落ち着かずそわそわとしていた。
「友人達は大抵日付が変わる前くらいには終わるそうです。ではなぜ殿下との仲は明け方までかかるのでしょうか?」
「……」
「友人達が回数を聞いてきましたが、わたくしそもそも回数とは何のことなのかすら分からず、これも聞いてしまいました」
「あまり夫婦の仲を話してもらいたくはないものだな」
「殿下、わたくしは本気で殿下に愛されたく存じ上げます。ですから夜の方もご満足頂ける様に努力したいのです」
「要らぬ気遣いだ」
「殿下! 7回ですよ!? 7回!! 興奮しない相手と7回は常軌を逸しておりませぬか!?」
「子を成す為だ。仕方ない事だ」
「しかも週に三回! 7×3=21ですよ!? 友人達に話したら紅茶をこぼしておりました!!」
殿下相手に声を荒げてしまい、ハッと我に返り頭を下げた。
「すみません。わたくしが興奮してしまいました」
「……」
「殿下。もし、もしですよ?」
「なんだ」
「それほどまでにわたくしに興奮を覚えていらっしゃるのであれば、愛の言葉を頂きたく存じ上げます」
「……」
「愛してる。と……それだけで私は満足であります」
「……」
殿下は困った様に、ため息を付いた。
「じゅ……じゅてーむ」
「は?」
「あいらーぶー」
「え?」
「てあーも」
「あ?」
思わず声が低くなった。
「……すまぬ!!」
「──!?」
ガバっと頭を下げた殿下に、慌てて頭を上げるように手を取った。何が起きたのか分からずただただ殿下の続きを待った。
「実は……君が初めての相手で……自分も夜の作法が分からずに困っていたのだ」
「で、殿下……」
なんという事でしょう。
まさかまさかの殿下である。
「今まで妃候補は何人も居たが、皆一様に着飾り香水をつけ、それでいてコルセットのきついドレスばかりでうんざりだった! だが! 君は違った……!!」
「……」
コルセット嫌で男子みたいな格好してたから。
「初めて見た時、正直に言うが……メチャクチャ興奮して根回しして君を婚約者として迎え入れる様に仕向けたのは私自身なんだ」
「……え?」
で、殿下……?
「君がメイド達に混ざり宮殿の掃除をしているのを見た時、ぶっちゃけ襲ってしまおうかと思った」
「は、白昼堂々の犯行はちょっと……」
「この宮殿にはメイドが100人いるが、メイド達と一回ずつするよりも、君と100回したい!!」
「15日もかかりますわ。流石に公務に差し支えます」
「不慣れなのを隠そうとして君を傷つけてしまった事を謝りたい」
「殿下……」
「君を愛してる……」
「殿下……嬉しいです」
殿下がそっと私を押し倒した。
「殿下」
「ん?」
灯りを消そうとした殿下の手をそっと引き止めた。
「今日は……殿下のお顔を良く見せて下さいませぬか?」
「……そうすると昼まで終わらなくなるがいいか?」
「殿下が望む限り……」
その日、初めて殿下からの口づけを頂いた私は、思わず涙がこぼれてしまった。