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行方の知れぬ患者

「力人くん、今日は何だか上機嫌じゃないか」


 ヘッドセットの向こうから丘学人の声が聞こえてくる。


「そうかな?」


 俺は答える。


 眼下の海の水面は燦々と降り注ぐ陽光を反射し鏡のように光り輝いている。それを見ながら天野照美の地下のダンスフロアの天井で光り輝くミラーボールをふと思い出す。キラキラと頭上に輝くミラーボール、様々な色の波を作る照明、踊る天野照美、弾け飛ぶ汗、そして彼女の唇の感触を鮮明に思い出す。それはこれまでの生涯の中で感じた中で最も柔らかく甘美な感触だった。その感触の残り香は今もなお唇が記憶している。その記憶が俺を支え退屈だったパトロールにも身が入るというものだ。


「お疲れ様。力人くん。今日のパトロールがここまでだ」


「ああ。ちょっと寄り道しても良いかな」


「寄り道?出来ることなら僕のテストに協力してもらいたいものだが」


 面倒くさくなったのでヘッドセットの音声をオフにする。そしてある方向に向けて進路を変え履行する。俺にもやっと大事な人間が出来たそのことを報告したい人間がいる。きっと誰より喜んでくれることだろう。以前の彼女ならば。だがしかし今はその意識は深い森の中にある。それでも呼びかけはその意識に作用し奇跡を起こす幾ばくかの助力にはなるかもしれない。そんな事を無邪気にも思ったのだった。


「紘呂雅子さんですか?当院には入院してはいないようなのですか」


 病院受付の若い事務員の女は俺に告げる。相手は我が国が人間兵器である。その表情にはやや緊張が見られる。気づけば俺の後方には突然現れたスーパーヒーローに驚いた人々が扇状に広がっておりスマホのカメラを向ける連中もちらほらと見られる。どうせSNSにでもアップするのだろう。だが今はそんな事は構っていられないし興味の及ぶところではない。


「俺の記憶が正しければこの病院で治療を受けているはずだよ。何かの間違いじゃないのか」


「確認します。少々お待ちください」


 そう言って受付の若い事務員の女は電話でどこかにコンタクトを取る。受話器を置いた女は俺の元に戻りこう告げる。


「やはりおっしゃる通りその、紘呂雅子さんは私どもの病院には入院はしていないらしく・・・」


「他所の病院に移ったのか?だったらそこを教えてくれよ」


「申し訳ありません。我々がお答え出来るのはここまでとなります・・・」


 そうやって押し問答を続けるも明確な回答が得られない為、俺はため息混じりに病院を出るのだった。



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