祖国と科学の発展の為に
「君は若く非常に優秀だとチェン・ウェイ博士から聞かされているよワン・リンシャン君」
リュウ・フェン博士は私の前でデスクの前の革張りの椅子に深く腰掛け言う。その白髪は後ろに撫でつけられておりその顔には深い皺が刻まれているもののその知性を宿した鋭い眼光は今もなお健在といったところである。
「君の論文には全て目を通させてもらったがいずれも知的好奇心をくすぐられる面白くエキサイティングなものだったよ」
「お褒め頂きまことにありがとうございます」
「ところでチェン・ウェイ博士は元気で変わりないかね」
「はい」
「そうか。彼とは大学での同期でね。友人でありながら同じ研究者としては良きライバルでもある。若い優秀な助手が欲しくてね。チェン・ウェイ博士に電話で相談したところ君を推薦されたというわけさ」
「なるほど。ところで私に一体、何をご所望なのでしょう」
「君に関わってもらいたいのは我が国の威信をかけた極秘プロジェクトだ。この意味が分かるかね」
「はい」
私はリュウ・フェン博士のデスクの頭上に飾られた我が中華人民共和国の初代中国共産党首席である毛沢東の肖像に目をやる。毛沢東は全てを見透かしたように我々を見下ろしている。ここはリュウ・フェンが大学教授として務める大学の一室である。窓からは午後の光が差し込み我々を照らしている。
「君は今、36歳らしいね。ワン・リンシャン君」
「ええ」
「結婚し子供も生まれているらしいね。子供は今、三歳の男の子だと聞く」
「はい。ロンといいます」
「その、写真はあるかね。おそらくだがスマホの待ち受けにでもしてるのだろう」
リュウ・フェン博士の言葉の通り私は妻のメイリンと息子のロンが写った写真をファーウェイの最新機種のスマホの待ち受け画面にしていた。私はスマホを取り出しその画面をリュウ・フェン博士に見せる。
「可愛い子じゃないか。奥さんも美人だ」
「ありがとうございます」
「このくらいの子は可愛い盛りだろう。だがワン・リンシャン君。研究に付きっきりで家に帰れなくなる期間もあるだろう。耐えられるかね?」
「祖国と科学の発展の為なら」
「その言葉を聞きたかったよ」
リュウ・フェンはそう言って立ち上がり私の両肩をやや勢い良く叩くのだった。




