君の瞳に恋してる
俺は自らの寝床であるベッドに横たわり天井を眺めていた。ここは大乃島。我が根城である。あの時、彼女専用のダンスフロアで天野照美は置かれていたレコードプレーヤーに針を落とした。フロア内に賑やかな音のパレードが巻き起こる。
「何だよ、この曲?」
「君の瞳に恋してる Can't Take My Eyes Off You。1981年のボーイズ・タウン・ギャングの曲よ。最もこれはカバー版でオリジナルは1967年のフランキー・ヴァリのラブソングだけど」
「賑やかなこった。これをバックに踊るってか?」
「そう、ひとりで踊るのは寂しいし前から夢だったの。これを誰かと踊るのが」
「お誘いは嬉しいが俺はダンスなんてわからない」
「誰だって初めはそうよ」
そう言って天野照美はほっそりとした手で俺の手を取った。そうして俺達のダンスは始まった。途中、互いの顔が近づく際、彼女の顔に控えめで拙さが拭えないものメイクが施されていることに気付いた。出迎えに時間がかかった理由をそこで推し量る。
ダンスのステップに関しては天野照美がある程度教えてくれた。初めは作画崩壊アニメのように粗雑だった俺のステップは自分でもYouTubeでダンス関連の動画を見て勉強していくうちにだんだんとまともなものになっていった。そうして公金を注ぎ込んで作った天野照美専用ダンスフロアで明くる日もふたりでステップを刻み続けた。
「やった!完璧だわ!」
そんなある日、息を弾ませながら天野照美は言った。練習の成果が実を結び俺達は完璧に息の合ったダンスを完成させることが出来たのだ。
「練習の賜物だな。お前のおかげだよ」
それを聞いた天野照美の目は潤み光を放つ。それはフロアの照明が単に物理的に反射したものではなく内側から溢れ出す精神の光だった。俺はその瞬間、女の本当の顔を目にする。乙女の顔。頬が上気し目が潤んだこの世でたった一人の男にしか見せない顔。天野照美はそうする事がまるで百年前、千年前から決まっていたかのよう俺の唇に口づけをした。
「照美・・・」
乙女の突然の接吻にたじろぐ。照美はすっかり赤面している。これだけなら微笑ましいが彼女の場合それだけでは済まない。その衣服は東京大空襲を食らったためかのように高温で焼け散っていく。
「うわっ・・・」
俺は思わず目を背ける。
「大丈夫よ。力人」
照美の声がして振り向くと彼女は衣服の下に俺の髪の毛で出来た特殊なスーツを着込んでいた。
「こんなこともあろうかと思ってね」
「そうか・・・」
ほっと胸を撫で下ろすが先ほどのキスは突発的なものだったのかそれとも確信犯だったのか・・・
「あのさ、俺たちって付き合ってるのかな?」
ふと頭に降り注いた疑問がそのまま喉を通って口から出る。照美はそれを聞くと何も答えずレコードプレーヤーに歩み寄り針を落とす。彼女のことだ。レコードのどの箇所がどの歌詞の辺りなのか暗記しているのだろう。フロアに音楽が鳴り響く。1982年、ボーイズ・タウン・ギャングのCan't Take My Eyes Off You。
I love you, baby and if it’s quite alright
I need you, baby, to warm a lonely night




