最強の遺伝子
「本件は軍だけでなくCIAや政府も噛んでいる」
スナイダーはコーヒーの入ったマグカップ片手に語る。ここは軍施設の一室。私とスナイダーは互いにコーヒー片手に語り合っている。時間帯的に良い子も大人もとっくに就寝している時間である。
「ところでデスペリアが奪った代物とやらは一体、何なんだ。我々が探し求めているものとは?それはドラゴンボールなのか?」
「ドラゴンボール・・・アキラ・トリヤマは・・・実に惜しい人物を失ったよ。俺は常に冷静沈着なピッコロが好きだった。お前は?」
「私か?ベジータかな。話をはぐらかすなよ。コミックの話をしてる場合じゃない。私はこの件にすっかり足を突っ込んでいる。アメリカンヒーローが信用出来ないとでも?」
「そうだな。それではこれを見てくれ」
そう言ってスナイダーは私の目の前でノートパソコンを操作しある映像を見せる。そこには尋問を受けるデスペリアに拉致された研究所の職員の姿があった。職員の前にスナイダーが椅子に座り尋ねている。
「なあ、教えてくれ。デスペリアに何を奪われた?まさかドラゴンボールってわけはないだろう?ええ?」
職員の男、中年で頭髪はすっかり薄くなっておりジョン・レノンのような丸眼鏡をかけている。しばしの沈黙の後、彼はその重い口を開く。
「遺伝子だよ・・・」
「遺伝子だって?それは一体どんなもんなんだ?一体、誰の遺伝子なんだ?」
「この世で最強の人間の遺伝子さ。いや、果たして人間といえるかさえわからないがね」
「おいおい。はぐらかすなよ。そいつは一体、誰なんだ?チャック・ノリスか?」
「あんたも同然、知ってるだろう?ゴッドウィンドさ!」
「おい、ちょっと待て。スナイダー。ゴッドウィンドだって?彼が?またどうして?」
私は思わず疑義を挟み込む。スナイダーはその剃り上げた黒い頭を撫でながら何やら思案している。
「どうもよくわからないな。どうしてゴッドウィンドの遺伝子を入手したんだ?答えてくれ、スナイダー」
「よし、お次はこいつを見てもらおう。なかなかの衝撃映像だぞ」
そう言ってスナイダーはノートパソコンを再度操作して映像を新たに再生してみせる。そこには明らかに上空から捉えた映像と思われる。その映像の中で一人の小柄な少年と思われる姿が自らの股間に手をやりシェイクしていた。私はその行為が何だかわかってしまった。この私もいっぱしの男である。精通から始まる性の目覚めは経験済みである。
「スナイダー、一体これは・・・」
「まあ奴さんも男の子ってわけだ」
「ちょっと待てスナイダー。じゃあそのゴッドウィンドの遺伝子というのは・・・」
「単刀直入に言おう。奴がマス掻いて大空目掛けてぶっ放した精液ってわけさ」
「よくわからないな。スナイダー、いや、サミュエル。それがどうして地上の研究所へ?」
「うん、ケイン。当然の疑問だな。先ほど見せた映像は我がアメリカの地球観測人工衛星が撮影したものだ。これでゴッドウィンドの根城とされる大乃島を観測していたところ奴さんがその、なんだ・・・男子の嗜みとやらをおっ始めやがった。単刀直入に言うとだな、奴さんが放った精液はそのまま大気圏を突き破りその人工衛星に衝突し破壊しやがった。宇宙ドローンやらを用いて宇宙空間に浮遊するこの人工衛星の破片からこのゴッドウィンドの生物的サンプルを採取するのはひどく骨の折れる作業だったらしい。だがしかし無事に手に入れた奴の生物学的サンプルを研究していたのが例の研究所だ。奴の弱点は何かとかそんなことを調べていたわけさ。だがその貴重なゴッドウィンドを奴、デスペリアに奪われた。話はここまでさ」
「デスペリアの連中は傭兵部隊だ。どこかの依頼を受けて今回の強奪を決行したはずだ」
「それは奴の部下から吐き出させたよ。その依頼主とやらは中国だ」
中国・・・スター・ウォーズでルーク・スカイウォーカーが不穏な局面になると決まって口にするあの言葉がつい私の口からも漏れ出る。
「何かいやな予感がする」




