空も飛べるはず
こんな俺であるが中学高校には入学出来た。どっちも公立ではあるが。とはいえ高校では柄の悪い連中に絡まれたりしたものだ。
「お前、態度悪くねえ?」
「ああ、その舐めた態度、気に食わねえ」
いわゆるパイセンというやつだ。どうでもいい自らの権威を誇示したがる。こんな狭い箱で威張り腐って何が楽しいのかね。俺には理解しがたいが。
面倒臭くなって俺は言った。
「ああ、どうぞどうぞ。気に入らないんでしたら好きなだけ殴っていいっすよー。どうぞご好きにー」
「こいつ舐めてやがるな」
「ああ、ここはひとつ思い知らせてやんねえと」
アホ面引っさげたパイセンが俺の顔面に拳を叩き込む。だが折れるのは奴の拳の方だ。
「うわああ!!痛えよ!!」
パイセンが拳を手で押さえながらジタバタしやがる。もう一匹のパイセンが「てめえ!この野郎!」と俺にキックを叩き込む。ここでもへし折れたのは奴の足の方だ。クソ情けねえ悲鳴を出して奴は足を押さえながら泣きわめいた。俺は何もしていない。奴らが勝手に自爆しただけだ。
何とか高校を卒業したものの。どうしたらいいものか。大学に行ける頭も無ければ余裕も無い。結局、俺はバイト暮らしのフリーターになった。
結局のところ就いたのはしがない引越しのバイトだ。
「おい、てめええ!人の話聞いてんのか!」ここでもパイセンって奴に絡まれる。「人の話聞いてんのか、てめえ!協調性もクソもねえ!」
「あ、はい。さーせん」
「さーせんじゃねえよ。人に話しかけられても上の空だし舐めてんのか。てめえ」
「だからー、謝ってるじゃないですか」
「謝ってるじゃねえよ。てめえ、その舐めた態度が気に入らねえ。ぶっ飛ばされてえのか。てめえ」
「ぶっ飛ばす?面白いこと言いますね」
俺はちょうどそこに置いてあったデカい冷蔵庫を片手でヒョイと持ち上げてみせた。
「重そうな演技しながら持つのもなかなかめんどいんですよ。こんなん指ひとつでオーケーなのに」
人差し指で容量500リットル以上の大型冷蔵庫を軽々と持ち上げる俺を見てパイセンは目を丸くしていた。「よっ」と冷蔵庫を指で軽く飛ばしてパイセンの足元に落とす。パイセンは大破した冷蔵庫を見て腰を抜かした。
「あーだりー」
俺はパイセンを残して帰ることにした。
バイトをクビになった俺は暇を持て余した。我がダ埼玉は深夜にもなると静まり返り人の行き来も無い。ここをたまにストレス解消にジャンプして飛び回るのが俺の日課だ。ノミは自分の体の100倍ジャンプ出来るという。俺もダッシュしてジャンプすると空高く飛翔することが出来た。そうやってピョンピョンと飛んでいると俺の脳裏にある閃きが訪れた。俺、その気になれば飛べんじゃね?
星空を眺めながらそれに両手を伸ばしてみる。屈伸して地面を思い切り蹴る。星空が近づいてくる。カッコつけて手を伸ばしてポーズを取るも失速して地面に落ちてしまう。これを何度か繰り返す羽目に。よく考えろ。なぜ落ちる?なぜ飛べない?落ちると思ってるからだ。飛べないと思ってるからだ。自分を解放しろ。既成概念を捨てろ。俺は飛べる飛べる飛べる飛べる飛べる飛べる飛べる飛べる!!
膝を落とし星空の一点を見つめる。意識を集中する。いつの間にか俺の周囲の砂や小石が空中に浮遊しはじめた。全力、全意識を込めて俺は地面を思い切り蹴った。